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これ、俺は必要ないのではないか? まほーつかいは訝しんだ

 階段を下りきり、その場所の風景を確認するよりも先に対処せねばならなかったことは蹴り落とされた者による罵詈雑言の嵐だった。


 為雄の姿を確認するや岡山、不動、藤川が詰め寄ってきて、口から火を噴かんばかりに口々に吠え立てた。


 やれお前はとんでもないバカ者だとか、やれ信じらんないとか、やれあんたはサディスティックな暴力魔だとか。聞き取れたのはそれぐらいだが、ともかくそんな罵詈雑言の嵐が五分近く続いた。


「全くなんて連中だろうか、俺は尻込みしてるお前らに発破かけてやるために善意で尻を蹴っ飛ばしてやったってのに、現代のモラルの低下もここに極まれりだな」


 間近で大声を聞き続けさせられ、未だキーンと響いている耳鳴りに不愉快そうにしながら為雄はうんざりと首を振った。


「やかましいわ!」

「何が善意だ、そういうのを恩着せがましいっていうんだぜ」

「そうだそうだ!発破かけるにしたっていきなり蹴る事無いじゃないかぁ!」

「うるせーなぁ、飯塚もなんか言ってやれよ」

「私も武夫君たちと同じ考えですね、何も蹴る事無かったんじゃないですか?」

「なんてこった!あんたまでそんなこと言うのか!この世に義は無いのか!?」

「はい、そこまでです!ここは難易度自体は低いといわれていますが、それでもれっきとした危険地です、そろそろ気持ちを切り替えましょう」


 それまで為雄たちの会話を楽し気に聞いていた王女であったが、さすがに遠足気分が過ぎると考えたようで、早々に意識の切り替えを求めてきた。


 王女の言葉にまあその通りだよなと納得し、分かったことを伝えるために頷きかけた。為雄にはまだ何か言いたげだった面々も彼女の言う言葉に賛同したようで、少々不服気であるが黙って頷いた。飯塚はそんな三人の態度に苦笑いを浮かべた。


 彼らが分かってくれたことに満足を得た王女はそれでは行きましょう、と自ら先頭に立って彼らを先導した。


「なあ王女様、あんたここに来たの初めてなんだろ?どうしてこんなに自信持って前に進めるんです?」


 為雄は嫌に自信を持って前を進む王女に違和感を持ち、その理由を求めて彼女の背に疑問を投げかけた。


「ハートで結構です、はい、それも文献のおかげですね、その文献にはご丁寧に地図が書いてありまして、それによるとこの地下空間に余計な分かれ道とかは無く、その代わりに敵が出てくるようです」

「…選ばれた者への力試しのために?」

「あるいは試練のためですね」


 どっちも同じようなものじゃねぇか、と心の中で毒づくも取り合えず納得はできたので王女へ礼を言い、未だくっちゃべっている4人組を黙って見つめながら、その背中を追いかけた。


「あ、ほらあそこ」と言って何かを見つけたらしく、王女は立ち止った。それから彼女は彼らにも分かるように前方を指さした。


 全員が彼女の指先を目で追った。


 初めは保健室に置いてあるような骸骨模型が、場違いにも突っ立っているのかと思った。だがその骸骨は生あるもののようにびくりと身を震わせ、久しく現れなかった侵入者に対し、ずっと昔から決められていたあろうで手順でもってひょっこひょっこと歩き出し始めた。


 王女を除く全員が硬直した。話には聞いていたが実際に本物を目にしてみると、インパクトが段違いだった。そんな為雄たちの反応が、まるでおかしくてしょうがないとでもいうかのように、骸骨はカタカタと頭を揺らした。


 骸骨の赤くともった瞳は前方の為雄たちに決して離すことなく向けられ、ゆっくりと、だが確実に彼らに向かって歩を進めていた。


「な、何すかあれ…?」


 一足早く衝撃から立ち直った為雄はぎこちなく向かってくる骸骨に指を指し、他の者全員が思っているであろう疑問を代表して王女に聞いた。


「あれはボーンソルジャーといった魔物で、よく墓地や人がたくさん死んだ場所に現れるといいます」

「いやそういうことを聞いてるんじゃなくて、じゃああれが」

「はい、おそらくあれが勇者たちの力試しの相手になるかと」


 為雄達含めた全員が、はあ、とため息を吐いた。それはどちらかといえば緊張とかそういったもののためではなく、逆に拍子抜けして貯めていた空気が勝手に排出されたためだった。


「な、なんだあんなのが相手なのか」

「力試しなんて言うからもっとすごいの想像してたからなんだか拍子抜けだなぁ」

「これなら武器ゲットなんて楽勝ね!」

「これなら確かに何とかなりそうですね」


 各々の反応に王女は頼もしそうに頷くと、さっそく戦ってみるように為雄達に言った。


「わかっていると思いますが、これは訓練ではありません、決して油断せぬようにお願いします」

「わかってるって、じゃあ俺が一番」


 そう言って自信満々に岡山が近づいていく。ボーンソルジャーは岡山が間合いに入るとみるや、腕に持ったボロボロの剣を機械的に振り上げ、振り下ろした。


「おせぇ!」


 孝雄橋の一撃を悠々とかわし、背負っていた金棒を横に一線。一撃でボーンソルジャーをバラバラに打ち砕いた。ボーンソルジャーの瞳の赤い光は地面に落ちた瞬間、吹き付けた蝋燭のように消え去った。


「ふふん、どんなもんよ!」


 岡山は胸を張って自身の成果を誇らしげに誇示して見せた。ボーンソルジャーを倒したとき、金棒を伝ってきた手ごたえにわずかに罪悪感が湧き出したが、それも訓練の成果が発揮できた事や初めての実戦での高揚感がすぐに押し流した。


「おぁ~武夫君すごい!」

「やるじゃない武夫!あたしも負けてらんないわ!」

「訓練通りの動きができてますね!」

「いい調子です、これならそれほど苦労なく進んでいけそうですね!」


 仲間たちの歓声にさらに気分を良くした岡山は戦闘中に湧き出した恐怖感を振り払うかのように、もしくは自分の行為を肯定するかのように、皆に戦闘がそれほど難しくないことを語って聞かせた。戦闘中に感じた恐怖の名残が、より岡山の口を饒舌にさせた。


 初勝利にはしゃぐ岡山たちをよそに、為雄は違和感を感じて眉間をピクリと動かした。初勝利に水を差すようで悪いかとも思ったが、言わないわけにはいかないと思った為雄は岡山たちに向かって口を開いた。


「なあ、興奮してるとこ悪いがちょっといいか」

「ん、どうした?」


 興奮冷めやらぬ岡山はやや上気した顔で為雄に首を回した。


「なんか聞こえね?」


 初めは閉鎖的空間が引き起こした幻聴かと思った。だが断続的に、しかも徐々に大きくなってくるとくれば、さすがにこれが幻聴でないことくらいは馬鹿でも理解できる。


「本当だ、確かになんか聞こえるな」

「そう、だね、何か聞こえる…、これは、足音?」

「ちょっと待って!?なんか多くない?」

「まさかそんな…!私たちまだ武夫君しか戦っていませんよ!、準備なんてまだ出来てません!」

「こ、これは…!」


 次第にその音の()()()()()姿を現し始めた。その量は並ではなく、狭い道を埋め尽くさんばかりのボーンソルジャーが、隊列を組んだ軍隊さながらにゆっくりと迫ってきた。


「おいおいおい、試練ってそういうことかよ」


 あまりの量に絶句しながら、何とか言葉を絞り出した為雄は思わず生唾を飲んだ。他の五人も同様で、先程の初勝利の面影は今や見る影もなかった。


「ま、まあ何はともあれ」


 そう言って為雄は後ろの岡山たちへ振り返った。


「がんばれ、応援してるぜ!」


 為雄の言葉にしばし沈黙が降り、為雄がそそくさと付近の岩陰に隠れるのを目で追いながら、五人は一斉に叫んだ。


「「いやお前もがんばるんだよおおおおおおおおおおおお!?」」


 それが合図となり、波乱万丈な初めての実戦が幕を開けた。





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「やあっ!」


 不動が腰に下げた刀を抜刀の勢いで居合斬撃を繰り出し、数体のボーンソルジャーを真一文字に両断する。


「うりゃあ≪ファイヤーパンチ≫!」


 藤川は炎をまとった拳を向ってくるボーンソルジャーに次々叩き込み、蹴散らしてゆく。


「数が多すぎる!何が難易度が低いだ!全然低くないじゃないか!」


 聞いていた話と現実との剥離に文句を言いながらも岡山は視認するのも難しい速さで跳ねまわり、手に持った金棒を光魔法で強化しながらその怒りをぶつけるかの如くボーンソルジャーを壊しまくる。


 岡山達がボーンソルジャーと戦っているやや後方で飯塚が魔法でボーンソルジャーを一掃するために魔力を練り上げていた。その傍らで、王女が集中する飯塚を護衛していた。また余裕があれば岡山たちに援護射撃を撃ち込んでいた。


 そのさらに後方の岩陰に、為雄はスタジアムから試合を観戦する観客さながらに傍観の体で佇んでいた。


「みんながんばえ~」


 彼らが奮闘しているおかげでこちらへ敵がやってくることは無く、この調子なら俺は戦わなくて済むだろうと高を括っていた為雄は、それこそ試合観戦する観客のように真剣に戦う岡山達にヤジを飛ばした。


 だがここは安全なスタジアムなどではなく、れっきとした戦場なのである。安全な場所はなく、ともすればどこにいたって結局は戦う羽目になるのである。


 唐突に、為雄のすぐそばの地面からボコッという音とともにボーンソルジャーが這い出てきた。


「え?」


 為雄は思わず二度見した。だが何度見ても目の前の骸骨が消える事は無く、大上段に構えた剣が振り下ろされるその瞬間まで為雄は硬直していた。


「ぎゃああああああああ!?」


 すんでのところで硬直が解けた為雄は転がるようにしてその場から離れた。その数瞬に為雄のいた地面を剣が抉った。


 緩慢な動きで剣を構えなおしたボーンソルジャーと対峙した為雄は混乱する頭で逡巡した。


 どどどどうする?連中に擦り付けるか?…ダメだ、それじゃあ向こうに近づかなきゃならねぇ。かといってこのまま逃げ続けるのは…、糞、俺はまほーつかいなんだぞ!


 腹を括った為雄はボーンソルジャーへと向き直り、タイミングをうかがった。岡山達の戦いを傍観して分かったことなのだが、どうもこのボーンソルジャーとやらは皆が皆同じ動きしかしないようだった。すなわち踏み込んだ大上段の振り下ろし。ときたま剣を横に薙ぎ払ったり突いてきたりもするが、それも二割くらいの確立だった。


 この個体も他の個体と変わりなく、馬鹿の一つ覚えのように剣を大上段に掲げて踏み込んできた。


 ここだ!為雄はためらわずにその踏み込んだ軸足を蹴り飛ばした。狙いはうまくいき、ボーンソルジャーは足を踏み外してその場に転倒した。さらにその拍子に持っていた剣も手放した。


 為雄はボーンソルジャーが取り落とした剣をひったくり、訓練中に覚えた≪むぞくせーまほーのしんたいきょーか≫を体にかけて強化すると、起き上がろうとするボーンソルジャーの頭に無我夢中で剣を振り下ろした。


 くしくもその動作は同じ動作を馬鹿の一つ覚えで繰り返すボーンソルジャーの姿と重なった。


 常人の1.125倍のパワーを誇る強化された肉体はやすやすと頭蓋骨を破壊すること能わず、僅かに罅を入れる程度にしかならなかった。


 それでも衝撃で再びうつ伏せに倒す程度はできた。為雄は二度三度と頭蓋に剣を振り下ろし続け、四度目でようやく頭蓋を砕くことに成功した。


 荒い息をつきながら何とか暴れ狂う心臓をなだめ、それから前方の戦いに目を向けた。


 そこでは先ほどと何も変わらない光景が広がっており、岡山達が超人的な動きで場を引っ掻き回し、王女が時折援護射撃を出す。その後方で飯塚が魔法の準備をしていた。


 何とはなしに為雄はボーンソルジャーの集団の一体に狙いを定め、ほのーまほーの一つ、≪ふぁいやーしょっと≫を撃ち放った。


 為雄から放たれた≪ふぁいやーしょっと≫はハエと互角程度のスピードで飛んで行き、その動き以下の速さのボーンソルジャーの頭部に過たず命中した。


 命中した頭部には煤けた跡が残る程度で、精々が焼けた小石が命中した程度のダメージしか感じていなさそうだった。その一撃が注意を引いたようで、ボーンソルジャーは為雄の方に首をめぐさせた。


 だがその瞬間にいましがたの衝撃の何十倍もの一撃が加えられ、哀れなボーンソルジャーはバラバラになって吹き飛んだ。


 為雄は自分が撃ち放ったふぁいやーしょっとに満足感を覚え、一人頷いた。


 はじめはへろへろ炎しか出なかったのに、今ではまっすぐ飛んで飛距離も伸びた。人間頑張ればきちんと成長するもんだなぁとしみじみ思っていると、前方から怒声が飛んできた。


「いやあんたこんな状況で何感慨深げにしてんのよ!」

「何やってるもクソも初めから言ってんだろ?俺は戦力として糞の役にも立たねぇって」


 藤川の怒鳴り声に、為雄は抗議するように同様に声を張り上げた。


「俺の使い道何て精々囮か、あるいは気を散らすぐらいしかできねぇよ、それとも何だ?俺にもお前らみたく突っ込めと?まほーつかいに?正気か?」

「うぐっ、そりゃあそうだけど…」


 藤川はボーンソルジャーの振りかぶった剣を手甲で弾き飛ばし、胴体にボディーブローを叩き込みながら口ごもった。


「皆さん準備ができました、離れてください!」


 そうこうしているうちにやっとこさ場を埋め尽くさんばかりの骸骨を根こそぎ倒せる魔法の準備が完了したようで、飯塚は岡山達に退避するよう呼びかけた。


 岡山達は早々にその場から飛び離れ、全員が範囲内からいなくなったのを確認した飯塚は満を持して魔法を撃ち放った。


「≪ギガサンダー≫!」


 彼女の両手から落雷が落ちた時のような轟音とともに凄まじい雷撃が放たれ、範囲内にいたボーンソルジャーの大群が一瞬にして蒸発した。


 先ほどの騒々しさから一転して静寂があたりを支配していた。どれだけ耳を澄ませても、あの煩わしいカタカタという音は聞こえてこなかった。どうやらこれで打ち止めのようだった。全員がその事実に安堵のため息を吐いた。


 また湧いてこないか警戒しながらしばらく休憩し、互いに感じていた不安や初戦闘についての感想やらについて共有し、一体感を高め合いながら一行は歩みを再開した。









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