表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

ダメ夫・イン・異世界…ざっっっっっっっっっけんな!

「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなああああああああああああああ!ばかやろおおおおおおおおおおうああああああああああ!!!」

「あ、あの」

「どぼじでごんなごどがおごるのおおおおおおおおおおおおおお!?」

「ええっと…」


 フラッシュをたいたかのような閃光が走ったかと思えば目の前は夕闇に染まった空と住宅街ではなく、前時代的な、中世ヨーロッパ仕様のいかにもな場所に佇んでいた。


 周囲にはいかにもな騎士や、国王的な存在やそれに連なるであろう存在がいるようだが今はそんなことどうでもよかった。


 今はただ自身の身に起きてしまった訳が分からない出来事をただ嘆いていたかった。


 自分と同じように混乱して言い争っていた学生集団が、今では自分を落ち着かせようと声をかけてきてるが、鬱陶しいことこの上なかった。


 お前らだって同じようにしてただろ!?なんでさも私たちは平気だからお前も落ち着けみたいな顔してんだ!!!な、なめやがってぇ~!!!


 見かねた王女らしき存在までもが彼を落ち着かせるために加わり始めたが、それは怒りの火に油を注ぐばかりでちっとも収まりやしなかった。


 為雄が周りの人間に諭され、落ち着く(怒りが収まったとは言ってない)までに1時間ほどの時間が流れ去った。もっともそれは落ち着いたからというわけではなくて、ただ単に声の出しすぎで疲れただけだったのだが。





 --------------------





「はぁ…魔王を、なんでしたっけ、討伐?して欲しいと?」

「う、うむ」


 為雄の質問に国王は若干引き気味に答えた。その隣にいる王女も、というよりその場の全員が若干疲れた顔をしていた。だからといって同情してやるつもりは毛頭なかった。


 むしろもっと言ってやりたかったがさすがにそれで話が進まないし、何よりこんなことをしでかす連中をあまり刺激しないほうがよさそうだという冷静な考えが過ったからである。


「いや無理でしょう、お、私たちただの学生ですよ、木の枝より重いもの持ったことのない貧弱な生命体ですよ」


 さすがに国王相手にため口で話すという愚は侵さないだけの分別は今の為雄にもあった。敬意など欠片も無いが。


「いや待って、私!私剣道部!剣道部です!」

「いや知らねーよ!あんたがけんどーぶだったら何か状況が変わるのけ?」


 為雄の言葉に食って掛かってきたこの少女は不動昭(ふどうあきら)、4人の学生集団の内の一人だ。


「うっ!た、確かにそうだけどさぁ」

「ちょっとあんた、女の子相手にその口の利き方は無いでしょ!」

「うるさい、バカ!こんな状況で何言ってんだ!ツインテールヒロインは負けヒロイン!」

「なんですってぇ!」


 憤慨するこの少女は藤川胡桃(ふじかわくるみ)。長い金髪をツインテールにしており、憤慨して跳ねると連動してぴょこぴょこと揺れた。


「ま、まあまあ、ここは落ち着きましょう、怒ったところで状況は何も変わらないんですし」

「ぬ?あんたはいいこと言うな、あの馬鹿二人と大違いだにゃん」

「「なにぃ!?」」

「まあまあ」


 ぎゃあぎゃあと喚く二人を飯塚沙良(いいづかさら)がたしなめる。豊満な肢体、物腰柔ら中その態度に、為雄はとてもじゃないが彼女が同年代とは思えなかった。


「あはは、まあでも、彼の言うことは確かです、僕たちは戦いとは無縁の世界で生きていました、とてもじゃないですけどそんな大それたことができるとは思えません」


 為雄たちのやり取りを苦笑いで眺めながら岡山武雄(おかやまたけお)が王に向かって口を開いた。さわやかな好青年で、人のよさそうな雰囲気を放つ彼は見るからに集団のリーダー的存在であることは疑いようもなかった。


「お、おぉ確かにその通りだ」


 岡山の言葉に国王はまさに待ってましたとばかりに目を輝かせてその話に食いついた。


「なら」

「確かに普通ならばそうであろう、だが諸君らは()()()()()()!太古の昔より我が国に受け継がれるこの≪勇者の魔法陣に≫」


 岡山の言葉を遮って国王は語る。


「ゆ、勇者の魔法陣?」

(うさんくせぇ…、宗教の勧誘文句みてぇだな)「それまたとっても徳が高そうなもので」

「うむ、その通りだ」


 為雄の言葉に国王は満足そうに頷くと、各々の反応を玉座の上からつぶさに観察し、続きを催促する目線に満足を覚えながらたっぷりと勿体つけてから説明を始めた


「≪勇者の魔法陣≫説明の前に今我が国が置かれている現状を話しておこう」


 この世界は、というよりも大陸か、人間の住むヒュマン大王国と、魔族といういこれまたいかにもな種族が住むアマック帝国と昔からバチバチやっていたらしい。


 過去に同じように召喚されたらしき勇者が魔王を倒してから数百年は何もしてこなかったらしいが、つい最近また魔族たちが攻めてきて来たという。


 その魔族たちが強いこと強いこと。とてもじゃないが腑抜けた現代の人間では太刀打ちできないと白旗を上げた国王は、また昔のように事情を知らぬ赤の他人を拉致し、魔王をやっつけて欲しいと丸投げしよう、ということだ。


 説明を聞けば何のことは無い、よくあるファンタジー物の導入部分といった感じだ。


 話を聞いて思わず為雄は顔を覆ってしゃがみ込みそうになった。とてもじゃないが現実とは思えなかった。これがジョークだったのならばどんなに良かったことか。


 だがこれがジョークでも夢でも何でもないことくらいはわかった。何せ彼らはおふざけでこんなこと言っているわけではなく、その目に宿る光がこれが真剣な話であることを如実に語っていた。


 今まで廃世界にあこがれ、そこへ行きたいと焦がれていた。そうした空想を彼は愛していた。ほんの一時間前までは。今では異世界なんかよりも元居た日常を死ぬほど焦がれていた。叶わないと知りながらも願わずにはいられなかった。


「諸君を呼び出した≪勇者の魔法陣≫は、文献によれば異界よりその危機に相応しい勇者を呼び出すことができるという、すなわち諸君らはそれに相応しいと魔法陣に認められた選ばれし者なのだ」


 国王は自身がさも勇者を導く先導者のように、事情を知らぬ彼らに刷り込むように高らかに嘯く。


 嘘つけただの無作為抽出だろ、と喉奥まで出かかった言葉を何とか飲み込みながら無言で話を聞き続けた。為雄も他の面々と一緒で、先が気になってしょうがなかったからだ。


「諸君らは今金剛にも勝る力を得ているはずだ、≪勇者の魔法陣≫は本人の素質を開花させ、さらに増幅すると言うらしいからな、さっそく確認してみると良い、そうすれば諸君らが召喚された理由も理解できることだろう」


 確認してみろと言われたものの、彼らに確認の仕方が分かるはずもなく首を捻っていると、国王の隣にいた王女らしき少女が彼らに助け舟を出した。


「あの、念じてみてください、そうすればステータスボードが出てくるはずです」


 少女のアドバイスを聞いた為雄たちはさっそく言われた通り念じてみた。すると彼らの前に半透明のディスプレイじみた画面が広がった。



 名前:岡山武雄

 性別:男

 年齢:16

 職業:勇者

 筋力:S

 防御:A

 速度:A

 魔力:A


 魔法:光魔法 炎魔法 無属性魔法



 名前:不動昭

 性別:女

 年齢:16

 職業:勇者

 筋力:B

 防御:C

 速度:S

 魔力:C


 魔法:風魔法 


 名前:藤川胡桃

 性別:女

 年齢:16

 職業:勇者

 筋力:S

 防御:S

 速度:B

 魔力:C


 魔法:炎魔法



 名前:飯塚沙良

 性別:女

 年齢:16

 職業:勇者

 筋力:C

 防御:C

 速度:B

 魔力:S


 魔法:炎魔法 水魔法 風魔法 土魔法 



「おお、すげぇ」

「どうだ、あったであろう、諸君らが勇者であることの証が」


 国王の言葉に岡山達は頷いた。各々が興奮したり困惑したりといった反応を示している際、為雄は自身のステータスが書かれたディスプレイを穴が開かんばかりに凝視していた。


 為雄は震えていた。それを訝しく思った王女が彼のそばへ駆け寄り、彼のステータスを覗き込んで、そして絶句した。王女は思わず口元を手で覆った。




 名前:目黒為雄

 性別:男

 年齢:17

 職業:まほーつかい

 筋力:E

 防御:E

 速度:E

 魔力:D


 魔法:ほのーまほー みずまほー かぜまほー つちまほー



「ふ、ふ、ふふざけるなああああああああああああああああ!!!!!!」


 俯いていた為雄は身をのけぞらせて絶叫した。為雄の絶叫が城中に響き渡った。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ