夢
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
気がついたら美しい場所にいた……まるで桃源郷のような理想郷に。
美しく咲き乱れる花々に幻想的な木漏れ日、太陽の光を反射させて煌く湖に、響く鳥達の囀り。
ああ、ずっと此処に居たい。
そう思ってしまう程に此処は居心地が良い場所だった。
そうしてその景色に見惚れていた時だった。
『……兄様』
空から聞き覚えのある声が聞こえた。
突然の事に驚いたが直ぐに微笑んだ。
その声の主は聞き間違える筈がない……私の大切な妹。
「アナスタシア!」
愛しいアナスタシアが此処にいる……そう思うと自然と笑顔になった。
だけどアナスタシアは姿を見せてくれない。
「アナスタシア……アナスタシアだろう?姿を見せてくれ……何処に居るんだ……」
会いたい……会いたい、その思いばかりが心を急かす。
でも……それでもアナスタシアは姿を現してくれない
もう私には会いたくないのだろうか……そんな事を考えると、どうしようもなく悲しくなった。
「アナスタシア……会いたい……会いたいよ……ずっと謝りたかったんだ……すまなかった。自殺にまで追い込まれる程の苦しみに気付いてやれなくて……すまなかった……本当に……」
謝っても許される筈がない私の罪。
きっとアナスタシアはこんな私を許してはくれないだろう……そんな私の予想は外れて、優しいアナスタシアは応えてくれた。
『……兄様……もうこれ以上苦しまないで……私はもう大丈夫よ……だから兄様、復讐なんてやめて……どうか幸せになって。』
美しい声がこの桃源郷に響く。
アナスタシアは優しい……こんな私の事まで気遣ってくれるのだから……でも……
「それは無理だよ……アナスタシア……苦しみは私への罰で復讐は私の罪滅ぼしなんだ……それにこんな私は幸せになんてなれない……否、なってはいけないんだよ……」
皆、私の幸せを望んでくれる……
どうして……どうして?
どうしてこんな愚かな私に皆優しくしてくれるの?
一筋の涙が頬を伝う。
「アナスタシア……もう分からないんだ……これから私はどうすれば良い?復讐をやめて私に何が残るんだ……何も残らないよ……」
分かっている……復讐の果てには何も残らないと。
分かっているけど……復讐しか私には無い。
こんな自分に涙が溢れて止まらない。
嗚呼、虚しい……悲しい……寂しい……
そんな負の感情に心が潰されそうになった時だった
『兄様……』
その声と共に頬に触れる温かな感触。
目の前を見ても誰もいない。
……だけどわかる……今アナスタシアが私の頬に触れていると。
頬に触れるアナスタシアの手に己の手を重ねて目を閉じる。
『兄様……泣かないで。大丈夫だよ……私が傍にいるから。それに兄様にはもう大切な人がいるでしょう?』
その言葉に目を開けた。
やはり目の前には誰も居ないけれど、不思議とアナスタシアが笑っているような気がした。
「……大切な人?」
『うん……そうだよ、兄様‥‥兄様は鈍感だからなぁ……ふふっ……幸せになってね兄様……ずっと見守っているわ…』
その言葉と共に頬に触れるアナスタシアの手の感触が徐々に薄れていく。
「行かないで!アナスタシア!」
『兄様……心から愛しているわ……』
その言葉と同時にアナスタシアの手の感触は完全に消えた。
手を伸ばしても虚空を掴むばかり。
「アナスタシア……行かないで……行かないでよ……」
一緒に連れて行って欲しかった。
……私を独りにしないで。
一人の少女の悲しい泣き声が美しい桃源郷にいつまでも響いていた。
朝を告げる鳥の囀りが部屋に響く。
セリーナはハッと目を覚ますと急いで起き上がった。
周りを見回しても此処は自分の部屋で、桃源郷でも無ければアナスタシアもいなかった。
「夢か……」
まるで現実のように鮮明な夢だった。
己の頬に触れると涙で濡れていた事が分かる。
「アナスタシア……会いたいよ……」
そんな叶うことの無い願いにセリーナは虚しく微笑んだ。
今は春休みで新学期の最初の日に鳳凰祭がある。
舞姫に選ばれたからには、本当に美しい舞を披露しなければならない。
セリーナは舞の講師のもと、必死に練習していた。
そしてやはりセリーナは何でも完璧に出来た。
「素晴らしい鳳凰の舞ですわ!さすがセリーナ嬢!これならどんな令嬢にも負けないでしょう!」
その力強い言葉にセリーナは苦笑した……別に張り合っている訳では無いのだが。
そんなセリーナを他所に講師は話し続ける。
「そういえばセリーナ嬢、衣装は如何なさるのですが?」
セリーナは講師に向けて妖艶に微笑んだ。
「もう決めてあります……」
「……そ、そうですか。」
セリーナの必殺の微笑みを受けて、講師は呆気なく蕩けた。
その様子にセリーナは不敵の笑みを浮かべると己の衣装に想いを馳せた。
休みが多い……
次回も読んでくれると嬉しいです。




