親友
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
夜風によって靡く銀髪、月明かりに照らされたその美貌。
その姿はまさに夜の女神。
静寂に独り佇む少女……セリーナは腰に短剣を差して、黒いローブを着ていた。
セリーナは愛おしげに指輪を撫でながらオーランドが来るのを待っていた。
殺し合いに発展するのも厭わない覚悟で。
そして遂に、夜の闇の静寂が破られる。
「……セリーナ、来ていたか。」
セリーナは指輪を撫でる手を止めると、振り返った。
「オーランド……」
そこに居たのはオーランド・ルト・メイヴィス。
前世の私を殺した男。
オーランドはセリーナを睨み付けると剣を抜いた。
「何故、フェニカを殺した!」
その言葉にセリーナは声を上げて笑った。
私にそれを問いかけるなんて、可笑しくて可笑しくて堪らなかった。
何故?
そんなの決まっている。
「自分の妹は大切なんだな?オーランド……」
その言葉とセリーナの豹変ぶりに、オーランドは眉を顰めた。
「どう言う意味だ!」
「私にも大切な妹がいた!誰よりも何よりも大切な妹……アナスタシアが!だが、貴様達が勝手な理由で死に追いやった!」
その言葉にオーランドは目を見開いた。
セリーナはそんなオーランドを嘲った。
「ア……アナスタシア?何故、今その名が出て来る!貴様は一体何者なんだ!」
「私はシオン・メル・アルヴァント!前世貴様に殺され、そして生まれ変わった!」
その言葉にオーランドは目を見開くと震えだした。
「そんな……そんな訳ない!シ、シオンは私が……」
「そうだ!貴様に殺された!アナスタシアの自殺の理由を知った私の命を……親友だった私の命を平然と奪った!そして何もかも、私から奪っていった!」
セリーナのその叫びにオーランドは愕然とした表情で剣を落とすと、引き寄せられるようにセリーナに近づいていった。
「本当に……シオンなのか?」
「来るな!下衆が!」
それでも近づいて来るのをやめないオーランドにセリーナは短剣を抜いて構えた。
「それ以上近づいたら、殺す!」
それでもオーランドは止まらない。
セリーナは震える手を抑えて、オーランドの右肩を突き刺した。
肉を切り裂く感触が生々しくてセリーナは泣きそうになったが、耐えた。
仇に弱みなど見せない。
オーランドは痛みに膝をついたが、片腕でセリーナを抱きしめた。
「やめろ!離せ!」
「っ……シオン……すまなかった。」
すまなかった?
「そんな言葉で済むか!アナスタシアがどれ程苦しんだと思う!貴様に裏切られて殺された私は、一体何なのだ!」
セリーナは怒りに任せてオーランドの肩から短剣を引き抜くと今度は左肩に突き刺した。
オーランドはその痛みに呻き、セリーナを離したがそれでも痛みを耐えて、真っ直ぐに此方を見つめて来る。
「ぐっ……許さなくていい……シオン……ただ私は……お前にもう一度……会って、謝りたかったんだ……だけなんだ……」
その耐えがたい台詞に、遂にセリーナは涙を流した。
「そんなのは……お前の自己満足ではないか!お前が謝ればアナスタシアは帰って来るのか!何が変わるのだ!私の憎悪は晴れるのか!憎悪の果てのこの虚しさが消えるのか!」
セリーナのその悲痛な叫びにオーランドは涙を零した。
「シオン……本当にすまなかった……私はお前に何をされようと……何を奪われようと……お前を裁く資格など……ない……だが、私は前世……お前を殺す気など……なかった……ただ、王弟……イゼナルトに命令……されて……仕方なく……」
その突然の告白にセリーナは目を見開いた。
フェニカがオーランドに私を殺すよう頼んだのでは無いのか?
「それはどう言う事だ……フェニカがお前に頼んで、私を殺させたのでは無いのか!」
「それは……違う……私は、イゼナルトに……妹を守りたかったら……お前を殺せと……脅されて……それに……学園に嘘のビラを……ばら撒いたのも……イゼナルトの命令で……すまない……シオン……シオン……」
王弟?
どうして……どうして……どうして!
そうして涙を流しながら混乱しているセリーナに向かってオーランドは請うように言った。
「シオン……私を殺してくれ……」
その言葉にセリーナは、何もかも忘れて目を見開いた。
オーランドは辛そうに涙を零しながら、話し続ける。
「ずっと……辛かった……お前を殺した……事が……アナスタシアを……死に追いやった……事が……もういい……もう生きていたく……無い……だからシオン……お前が……殺してくれ……お前に……殺されたい……だってお前は……姿が変わって……いても……お前は私の……」
「やめろ!」
それ以上言わないで。
憎悪が、私の何もかもが壊れていく……消えていく。
そして、オーランドは微笑んだ。
「……私の親友だから。」
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う!
私は、私は、私は!
セリーナはオーランドの肩に突き刺さった剣を無理やり引き抜くと、心臓に突き刺した。
血がセリーナの顔や体に飛び散る。
「ありがとう……」
茫然とするセリーナを置いてオーランドの体が傾き、地に横たわる。
そうしてオーランドは力なく微笑んでから、ゆっくりと目を閉じ、息絶えた。
セリーナは暫し茫然としたままだった。
理解できなかった、今の状況が。
私が殺した?
この手で心臓を突き刺して?
「……はっはは」
乾いた笑いが辺りに響く。
どうして涙が出ているのか分からなかった。
もう何も分かりたくなかった。
何も聞きたく無い、見たくない、知りたくない。
いっそのこと狂ってしまいたかった。
どれくらいそうしていただろうか。
セリーナは我に返ると血塗れのままゆっくりとオーランドに近づき、指に嵌めていたあの男物の指輪を震える手で外すとオーランドの指に嵌めた。
そして、願った。
「来世……今度は諍いのない世で……」
……また、親友になろう。
その言葉は声にならずに消えていった。
物語が動き始めます……多分
次回も読んでくれると嬉しいです。




