文化祭 炎翼の哀歌
楽しんでくれると嬉しいです。
アルティナ魔法学園の文化祭の中で一番人気があるのは、Sクラスの生徒達による劇だ。
最上級生の三年生から始まり、一年生で終わる。
現在二年生の劇が終わった所で、それを見ていた王……ヴィンセントは微笑んで拍手を送っていた。
「なかなかに面白かった。」
「そうですわね、王様。」
そう言ってヴィンセントに寄り添うのは王太子ユークリッドの母で側室のメレイアだ。
ヴィンセントはメレイアに微笑んだ。
「次の一年生の劇が楽しみだな。」
その言葉にメレイアは微笑むと頷いた。
劇の開始を告げる鐘が鳴り響いて、舞台の幕が上がった。
一年生の劇は創作の物語らしくて、炎翼の哀歌というらしい。
そんなことを考えていたヴィンセントだったが。
「アナスタシア……」
メレイアの呟きにヴィンセントは舞台に目を向けた。
そこには優雅に舞台に立って笑顔を浮かべている絶世の美少女セリーナが居て、歌を歌い始めようとしているところだった。
以前デビュタントの時に見た作り笑いでは無く、心からの笑みを浮かべた彼女は、本当に美しい。
そのセリーナの美しい笑みにヴィンセントだけでは無く、会場にいる観客全員が虜となった。
そして次に煌びやかな服を着た青年が登場した。
どうやらその青年は王子役らしい。
「ソルティアーナ……君は本当に美しい……」
その王子役の青年の言葉にセリーナことソルティアーナは微笑むと、青年に寄り添った。
側から見るとその二人の姿は、本当に愛し合っているように見える。
だが、そんな幸せは簡単に壊れてしまう。
「王子……ソルティアーナなんかより私のことを愛しているでしょう?」
「勿論だよ……私の目には君しか見えていない。」
突如として別の女が登場し王子と寄り添い、偶然にもソルティアーナはその場面を見てしまう。
そして、嘆き悲しむソルティアーナ。
「どうして……私のことを愛していると言って下さったでは無いですか……どうして……」
そう言って涙を流すソルティアーナの姿が余りにも悲しげで、とても演技には見えない。
それでも、王子を愛するソルティアーナだったが、そんな彼女の想いは無残にも裏切られてしまう。
「君はもう要らないよ……ソルティアーナ。」
「どうしてですか?どうして……私を愛していると言ったでは無いですか……待って王子!私を捨てないで!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
ソルティアーナの悲しい絶叫が会場全体に響き渡る。
既に涙を流している観客もいる中、ヴィンセントは神妙な面持ちでその劇を見つめていた。
そうして王子に捨てられてしまったソルティアーナだったが、そんな彼女を更なる悲劇が襲う。
「私があの人以外の子を身篭ったですって!そんな事、あり得ないわ!」
ソルティアーナはそう叫ぶが誰も信じない。
嘘の噂をばら撒かれ、売女という汚名を着せられてしまったソルティアーナ。
それを見ていたヴィンセントは既視感を抱き始めていた。
これは、アナスタシアの身に起こった悲劇によく似ている。
……いや、似すぎている。
ヴィンセントが抱いたその疑問は、徐々に確信へと変わっていく。
爵位を取り上げられ更に家は潰され、ソルティアーナの両親は絶望し自殺してしまう。
「お父様ぁぁぁ、お母様ぁぁぁ、どうしてぇぇぇ。」
そう言って涙を流しながら絶叫するソルティアーナ。
重苦しい雰囲気が会場全体を包む。
そうしてこの時点でヴィンセントは確信した。
これはアナスタシアの悲劇が基になっていると。
これは誰が?
この劇の物語は一体誰が作ったのだ。
そんなヴィンセントの疑問は他所に、物語は進んでいく。
王子を取った令嬢に自分と王子の結婚式で歌うよう命令されるソルティアーナ。
ソルティアーナは屈辱に震えながらも、ボロボロの服を纏い結婚式に出た。
「まあ、なんと汚らしい。」
「王子を裏切った売女よ。」
ソルティアーナを嘲笑う沢山の貴族達の声。
それでもソルティアーナは誇りだけは忘れずに、毅然と前を向いて歌い始めた。
その歌声はまさしく天上の調べ。
貴族を演じている生徒達も観客達もその全員が、切なく美しいソルティアーナの歌声に魅了されていた。
そんな時だった、王宮に火がつけられたのは。
「きゃー!」
「反乱だ!逃げろー!」
その言葉によって次々と逃げ出す貴族達。
炎が王宮を包む中、ソルティアーナは目を閉じたまま歌い続けた。
いつのまにかその歌は哀歌に変わっていた。
そして、遂にソルティアーナだけが王宮に取り残された。
恐らく魔法による炎だろうが、その迫力に皆が圧倒され、悲しい場面に涙を流した。
そして一際ソルティアーナ……セリーナが高く歌声を響かせた時だった。
突然の光と共に、何かが此方を目掛けて飛んできた。
余りの速さにヴィンセントは、それをしっかり認識する事もまして防ぐ事も出来なかった。
そして次の瞬間、鈍い音がした。
「うっ……」
すぐ隣からのその音と苦しそうな呻き声に、ヴィンセントは直ぐにそちらを向いた。
そして限界まで目を見開いた。
そこには弓で胸を穿たれた状態のメレイアがいた。
次回も読んでくれると嬉しいです。




