文化祭 戸惑う心
何故、メイド喫茶?と思った方御免なさい。
楽しんでくれると嬉しいです。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
その言葉を言い終えると同時に、女子の歓喜の悲鳴が教室中に響き渡る。
接客中、セリーナはとてつもないイケメンに変貌していた。
物腰の柔らかい紳士として接客し、その美貌と立ち振る舞いから男女問わず凄まじい人気で、恐らくこのクラスで一番である。
「お席にご案内致します。」
そう言って軽く口角を上げるだけで、物凄い歓喜の悲鳴が上がる。
そんな大人気なセリーナを筆頭に女子達は善戦していたのが……男子はなかなかに大変であった。
それでも、女装した学級委員のヒゼルは奮闘していた。
セリーナは騒がしい教室の様子を見て、笑いを堪えながら接客を頑張った。
交代の時間となりセリーナの自由時間がやって来た。
セリーナは教室の外で考えていた……何をしようかと。
セリーナは必死に考えているのだが、同じく男装して接客していたユティアの食いつくような視線を感じて、なかなか集中することが出来ない。
そして、やはりと言うかなんと言うかユティアが話しかけて来た。
「ねぇ、セリーナこれからどうするの?どこに行くの?」
その言葉に私もついて行く!という確固たる意思を感じてセリーナはため息を吐いた、その時だった。
「セリーナ、待っていたんですよ。」
背後からの突然の声にセリーナは驚いて振り向き、目を見開いた。
そこに居たのは王太子、ユークリッドだった。
どうして此処にというセリーナの疑問を他所に、ユークリッドは優雅に微笑むとセリーナの手を取って、ユティアの方へと向き直った。
「ユティア、すまないが私はセリーナと約束していてね……借りて行くよ。」
約束なんてものはしてはいないのだが、ユティアに付き纏われるのも面倒だったので、セリーナはユークリッドにそのままついて行った。
その様子をユティアがキラキラとした目で見つめていた事をセリーナは知らない。
ユークリッドと話すのは新入生歓迎パーティー以来だ。
歩きながらユークリッドは優しげにセリーナに話しかけてくる。
「強引に連れて来てしまってすみません……ですが、貴女と二人きりになりたくて……」
「大丈夫ですよ……私も困っていたので……」
二人でそんな会話をする事暫し、見覚えのある場所に来た。
そこはレヴィンに抱きしめられたあの庭。
てっきり、文化祭を一緒にまわると思い込んでいたセリーナはどうして此処なのかと首を傾げた。
そんなセリーナを見つめながらユークリッドは悲しげに微笑むと、意を決したように話し始めた。
「セリーナ……貴女はメイヴィス公爵家のレヴィンを愛しているのですか?」
その突然の言葉にセリーナは目を見開いた。
ユークリッドは悲しげ微笑んだまま話し続ける。
「見てしまったのです……貴女とレヴィンが此処で抱き合っている姿を……」
その言葉と同時にセリーナの首筋に冷や汗が伝った。
……見られていた、よりにもよって婚約者であるユークリッドに。
セリーナの顔が青褪める。
それを見てユークリッドは確信したようだ。
「やはりセリーナ、貴女は本当にレヴィンを愛しているのですね……」
その言葉はかなりセリーナの癪に障った。
セリーナの最も暴かれたくない心を容赦なく暴いてくるユークリッドがセリーナには我慢ならなかった。
……そっとして置いて欲しかったのに
セリーナは鋭くユークリッドを睨みつけると叫んだ。
「私は誰も愛さない!愛していない!」
突然のセリーナの激昂にユークリッドは目を丸くした。
それをセリーナは鼻で笑うと歪んだ笑みを浮かべた。
「貴方には絶対に私の心など理解出来ないわ!今まで幸せに……大切なものを奪われる痛みも知らないで生きてきた貴方に私を理解する事などできない!」
セリーナはそう言い放つと、その場から去ろうとしたがそれは出来なかった。
ユークリッドがセリーナの腕を掴んだからだ。
自分の行動を阻まれた、それが無性に腹が立ちセリーナは怒鳴った。
「離せ!」
そんな豹変したセリーナを見ても、ユークリッドは優しく微笑んだままだ。
「貴女が私を愛さなくても、私が貴女を愛します。セリーナ、確かに私には貴女の苦しみを理解することは出来ません……ですが、側に居させてください……どうか私に貴女の苦しみを教えて下さい……貴女に幸せになって欲しいのです……」
その言葉にセリーナは目を見開いた。
『兄様、どうか幸せになって』
アナスタシアの言葉とユークリッドの言葉が重なる。
不意にセリーナの目から涙が零れ落ちた。
私はもう幸せにはなれない。
復讐のために色々な罪を犯した。
そんな私は……
「私は……」
もう許されないの、そう言おうとしたが出来なかった。
何故なら、ユークリッドがセリーナの唇に己の唇を重ねたからだ。
次回も読んでくれると嬉しいです。




