秘薬
楽しんでくれると嬉しいです。
陶器の割れる音と女の喚き声が部屋に響く。
「何故だ!どうして!今日も王様は私に会いに来て下さらないのだ!」
そう言って髪を振り乱す女に対して、メイドは恐怖に満ちた眼差しを送りながら口を開いた。
「王妃様、どうか落ち着い……」
「黙らぬか!」
そう言うと王妃……フェニカは近くに置いてあった手鏡をメイドに投げつけた。
「ひっ……」
「お前も私を哀れんでいるのだろう!王妃ながら子を生す役目も果たせず、王様に見捨てられた名ばかりの王妃と!」
「そ、そんな事は決して御座いません。」
フェニカはそのメイドを睨むと再び近くにある物を投げつけようとした、その時だった。
「王妃様を哀れむことなど誰ができましょうか。」
その落ち着いた声に、フェニカは扉に目を向けた。
そこには微笑みながら佇む一人のメイドがいた。
「ノックもせずに入るとは無礼ぞ!」
「申し訳御座いません。ただ、王妃様が余りにもご自分の事を誤解なされている事が気になり、思わず無礼を働いてしまいました。」
「誤解だと?」
フェニカは眉を顰めるとそのメイドを鋭く睨みつけた。
そんな状況でも、メイドは微笑みを浮かべたままだ。
「何が誤解なのだ!」
「王妃様、貴方様はこの国の女性の頂点に立つお方。そして、美の女神の如き美貌を持ち才智もある、世にも稀なるお方でも御座います。そんな貴方様を羨まずして人と言えましょうか?」
その言葉にフェニカは僅かに目を見開いたが、直ぐに顔を顰めた。
「そんな安い褒め言葉で、私を懐柔しようと言うのか?愚かな……」
「王妃様、私に貴方様の望みを果たすお手伝いをさせては頂けませんか?」
「……何だと?」
突然のその言葉にフェニカは訝しげにそのメイドを見るが、無言で続きを促した。
メイドは懐から小瓶を取り出した。
「我が家は薬を作っておりました……この薬は我が家で作られた他の何処にも無い秘薬。この薬を毎日飲み続ければ、子を生す事が出来る様になるのです。」
その言葉をフェニカは胡散臭そうに聞いていた。
「お前の様な者が持つ安くて怪しい薬など、飲むわけがないだろう。それに同じような効果を持つ薬などもう既に飲んだわ……誰か!この無礼者を……」
「ならば、王妃様。この薬の成分を調べて見て下さい……この薬には鳳凰の血が入っております。」
その言葉にフェニカは目を見開いた。
「鳳凰とは、それは誠か!」
「誠で御座います。鳳凰の血を飲んだ者はどんな望みでも叶える事が出来る、この薬を飲めば、王妃様の望みは叶うのです。疑いは勿論の事ですから、是非調べてみて下さい。」
その言葉にフェニカは急いで人を呼ぶと、その薬を調べるよう命じた。
フェニカは未だに疑いの目をそのメイドに向ける。
「お前、もし私に嘘をついたらどうなるのか、覚悟は出来ているのだろうな?」
「勿論で御座います。我が命は既に貴方様のもの。王妃様、私は貴方様に全てを捧げます。」
それからどれ程経っただろう。
一人の研究者らしき男がさっきの薬を持って部屋に入ってきた。
そして、眼鏡をクイッと押し上げると話し始めた。
「王妃様、確かにこの薬には鳳凰の血なるものが入っております。それに、何も悪しきものは入っていない良質な薬故、御身にも合う事でしょう。」
その言葉にフェニカは目を見開くと、微笑んだ。
そして、薬を差し出したメイドに目を向けた。
「そうか……そなた名前は何というのだ?」
「クレアで御座います、王妃様。」
「クレア……お前今まで何故その薬を私に教えなかったのだ。」
その言葉にクレアは微笑みながら口を開ける。
「貴方様の側仕えに命じられたのが今日からでした故、今までこの薬をお教えする事が出来ませんでした……それに、私の様な下賤なる者が鳳凰の血が入った薬を持っていると申しても、誰も信じてくれないでしょうから、思慮深い王妃様に直にお伝えしようと思ったのです。私の望みは王妃様が子を生す事、ただそれだけで御座います。」
その言葉を聞いてフェニカは深く頷くとクレアに微笑んだ。
「クレア……お前には褒美を用意する。して早速その薬を飲みたい。用意せよ。」
「承知致しました。」
クレアは急いで部屋を出ると素早くその薬と水を用意し、部屋に戻った。
フェニカは鳳凰の血が入った薬を受け取ると飲み干したが、直ぐに顔を顰めた。
「何だ!この苦味は!」
「我慢下さい、王妃様。こちらお水で御座います。」
フェニカは急ぎ水を貰うと一気に飲み干した。
そして、クレアを睨む。
「何故、この薬はこんなにも苦いのだ。」
「良薬は口に苦し、と言うでは無いですか。どうか我慢して下さい、王妃様。毎回、お水を用意しておきますので……」
その言葉にフェニカは渋々といった様子で頷いた。
そして、クレアは微笑むと部屋を後にした。
夜、クレアの部屋をある青年が訪れた。
「クレア、成功したか?」
「ええ、シャル。さすがセリーナ様ね。王妃はあの薬を飲んだわ……あの薬の苦味を薄める為に飲む水に毒薬が入っているとも知らずに。」
無味無臭の毒薬が入っているのはあの薬でなく、苦味を薄める為に飲む水の方だ。
「鳳凰の血など入っているわけがないのに、愚かな王妃だな。」
「ええ、そうね。それに、鳳凰の血なんて伝説上のものを偽っても、誰がそれを偽りと見抜けると言うのかしら?」
あの苦い薬にも鳳凰の血なんて入っていない。
あれに入っているのは、ある特別な花の蜜だ。
その花の蜜は他国から取り寄せた最高級のもので、美しくなる効果があるがそれだけだ。
だが、美しくなる薬というのは超希少。
それ故に、研究者もあの薬を鳳凰の血が入った薬と勘違いしたのだろう。
クレアはセリーナを思い出して顔を蕩けさした。
「ああ、セリーナ様……あのお方こそ私が忠誠を誓う、ただ一人のお方。あのお方の為なら心臓でも何でも捧げるわ……貴方もそうよね、シャル?」
「ああ、勿論だ。」
シャルは一言そう呟くと部屋から出て行った。
こんなの絶対にあり得ないと思った方、御免なさい。
見逃してくれると……
王妃の食事は毒が入っていないか調べられるし、中々毒を盛るのは難しいのです。
ですからこのような手を使いました。
次回も読んでくれると嬉しいです。




