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亡き妹のための綺想曲  作者: 雪斗
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序章

復讐劇です。

楽しんでくれると嬉しいです。


それは憎悪の為せる技か、それとも神の采配か。


「アナスタシア……」


そう呟いて、鏡に映る自分の姿に手を伸ばす。

鏡に映るのはさらさらの銀の髪に、紅の瞳を持つ絶世の美少女。

その姿は、前世の妹の姿と瓜二つ。


少女は鏡に映る、己の歪な笑みを見つめながら呟く


「さぁ、復讐の始まりだ。」


例え、天と地がその罪を許そうとも私だけは決して許しはしない。

その罪を己が命で贖え。









   















アルヴァント侯爵家には二人の麗しい兄妹がいた。

麗しく聡明で物静かな兄、シオンと才色兼備で活発な妹、アナスタシア。

二人はとても仲が良く、家族仲も非常に良好であった。














暖かく優しい風が吹く庭でシオンは本を読んでいた。

そこにアナスタシアはやってくるとシオンの隣に座って輝かんばかりの笑顔で話し始めた。


「兄様!明日は殿下と王宮で、お茶をする約束をしているのよ!」


アナスタシアの弾んだ声に、シオンは本から目を離し、微笑んだ。


「良かったな、アナスタシア。」


その言葉にアナスタシアは微笑んだ後、揶揄うように言った。


「兄様も、誰か良い人はいないの?麗しく、賢い兄様の妻になりたい人など沢山いるわよ。」


シオンは曖昧に微笑むとアナスタシアの頭を撫でた。


「……私はお前の幸せを見届けてからだ。」

「なら私、早く幸せにならなくちゃね!」


握り拳を作って力強く話す、自慢の妹アナスタシア。

シオンはそんな妹が愛しくて堪らなかった。


何よりも、誰よりもアナスタシアが大切だった。

彼女が、笑って幸せに生きてくれるならばそれだけで良かった。

そう……それだけで良かったのに















「アナスタシアが自殺した?そんな……嘘ですよね……父様……そんなこと……」


シオンは突然呼び出され告げられた内容に、訳が分からなかった。

信じたくない、否信じないシオンに父は酷く苦しく悔しげに語る。


「嘘ではない……アナスタシアは……アナスタシアは……学園の屋上から身を投げ……自殺した。」


その言葉はどんな凶器よりもシオンの心を抉った。

死んだ……死んだ?アナスタシアが

私の宝物で……私の全て。


シオンはその場に頽れた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


シオンの絶叫が部屋に響く。

どうしようもない悲しみが苦しみが心を穿つ。


『兄様!大好きよ!』


アナスタシア、アナスタシア、アナスタシア

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?


夢ならばどうか覚めてほしい。

お願い、妹を……アナスタシアを返して。
















アナスタシアが死んでからシオンは抜け殻のようになってしまった。

何処にも出掛けず、部屋に篭り過ごす。


アナスタシアが自殺した理由は調査されているが、今のシオンにはアナスタシアがいない、その事実さえも受け止める事が出来ていなかった。


体調も悪く部屋から出られず、自殺の原因を探る気力もない。

シオンは生きたまま、死んでいたのだ。


そんな時だ、アナスタシアの自殺した理由で驚愕の話を耳にしたのは。


「アナスタシアは殿下でない、他の男子生徒と情を通じて、その男子生徒との間に子が出来てしまい、これからの事を恐れ、絶望し自害しただと……何ですか!このでたらめばかりが書かれている紙は!」


シオンはその紙をビリビリに破いて、拳を机に叩きつけた。

シオンの父は手が白くなるほど拳を握った。


「魔法学園に朝ばら撒かれていたらしい……なんて、卑劣な……」


噛み締めすぎた唇が切れて、血の味が口に広がる。


『兄様!殿下が贈り物をしてくださったのよ!』


そう言って、何処までも嬉しそうに笑うアナスタシア。


絶対にあり得ない。

アナスタシアが殿下を裏切るなど。

誰よりも、アナスタシアを知っているから確信できる。

アナスタシアは潔白だ。


「父様!アナスタシアは潔白です!」

「それは、私もわかっている……だが、アナスタシアを知らない多くの貴族は恐らくこれを信じるだろう……そして、いずれ王族の耳にも入る……我が家も只では済むまい。」


その言葉にシオンは息をのんだ。

どうして、こんな嘘をみんな信じるんだ。


「では……父様……アナスタシアの遺体を調べれば良いのでは?王族以外は皆、土葬でしょう……掘り起こして、妊娠していたかどうか調べれば、アナスタシアの潔白が証明されます。」


その言葉に父は首を横に振った。


「それは無理じゃ……何故か今回、アナスタシアの遺体は王家によって火葬された……」

「……どうして……そんな……」

「分からぬが……殿下の強い希望だったそうだ……」


殿下は信じるのだろうか。

アナスタシアの事を愛していたんじゃないのか?

アナスタシアは一体どうして死んだんだ?

分からないなら……なに者かが闇に葬ろうとしているならば、私が真実を暴く。


「父様、私が真相を暴きます。暴いて必ずや白日の元に晒します。」


シオンはもう抜け殻ではなかった。

真実を知るため、遂にシオンは動き出した。


















あらゆる伝手を使い辿り着いた、真実。

それは余りにも残酷で惨いものだった。


アナスタシアは潔白であった。

アナスタシアではなく殿下が妹を裏切り、公爵家の令嬢フェニカと情を通じていたのだ。

そして、その現場をアナスタシアは見たのだ。


この真実を知ったとき腸が煮えくりかえる思いがした。

アナスタシアに何もかも押し付け、自分たちはのうのうと生きようと言うのか。


それにこれだけでは無かった。

アナスタシアはフェニカにかなり酷い苛めを受けていたのだ。


これを知ったとき、フェニカと己に殺意が湧いた。

どうして、気付かなかったのだろう。


「アナスタシア……ごめん……本当にすまない……」


シオンは涙を流した。

……一体、どれほどの苦痛を強いられてきたのだろう。

アナスタシアの味わってきた痛みを想像して、シオンは涙を流し続けた。
















真実は明らかになった。

これを父に報告するため、シオンは家路を急いでいた。

だが、突然黒い服を着た仮面の男たちがシオンを取り囲んだ。


「何者だ!」


シオンは誰何したが、男達は問答無用とばかりに剣を抜き斬り掛かってくる。

シオンも剣を抜くと応戦した。

一人、二人と斬り殺すが、いかんせん数が多い。

背中を深く斬られ、シオンはその場に膝をついた。


目の前には仮面を被った男がいる。

シオンは仮面から覗く碧の瞳を睨みつけた。

すると、男は震える声で小さく呟く。


「すまない……」


その聞き覚えのある声に、シオンは目を見開いた。

それは、間違いなくシオンの親友のものだった。


「どうして……お前が……」


そう言った瞬間シオンは首を斬られた。

命が消えていくなか、シオンが見たのは……

仮面を取り此方を見下ろす親友の顔だった。



そうして、シオンは十八歳でこの世を去った。

そしてアルヴァント侯爵家はお取り潰しとなり、シオンの両親は子を亡くした悲しみと苦しみを味わい、絶望して自殺した。




次回も読んでくれると嬉しいです。

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