四章 得る知恵。抜ける知恵。
虫かと思ってびっくりした。消しカスだった。
「おーい、帰ったぞー」
「ただいま。龍、いるの?」
祖父母が、知人 (祖母が昔教師だった頃の教え子)の結婚式から帰ってきた。
「おかえり。遅かったなー」
時刻は夜7時半。
パワプロの片手間に龍は返事をした。
「またゲームしてるの?
さては一日中してたんじゃないでしょうねぇ」
祖母。石碑美子さんは、ちょっと厳しい顔をして龍に言った。
「そんなことないよ。昼まではねてたし。半日だよ」
「……まったく。勉強はしたんでしょうね」
「勉強? …………なにそれ(° ° )…」
画面に映るピッチャーを見ながら返事。
「………」
今にもゲーム機本体を殴り潰しそうな拳をプルプル痙攣させながら、祖母は言った。
「龍。一度ゲームを止めなさい」
「え、ちょっと待って、」
「止めなさい!!!」
「Σ(゜Д゜) ビクッ!!」
龍は祖母の方をゆっくりと振り返り、ようやく自分の状況が読み取れた。
が、時は既に遅く、完全に遅く、言葉では表せないほど遅く、、、祖母は閻魔の如く畳の上に鎮座していた。
………
「そんなことでは大学どころか高校にも入れませんよ」
「自分の将来の幸福というのは、日々の努力の賜物なんですから、」
「学校に行きたくないというのなら、せめて家の中でぐらい……」
祖母の説教は30分後も続いていた。
「待てば海路の日和ありと言うでしょう」
「今は勉強が嫌でも必死に辛抱して努力していれば……」
「骨身を惜しまず働いた人だけが、大人になって優雅に暮らせるんですからね」
ああ、なんで自分はこんなお話を聞いているのだろう……
だんだん馬鹿らしくなってきた龍は、大音量の説教のなか、そのうち眠気に襲われてきた。
………
「日本人は大昔からたくさんの知恵を使って生きてきました」
「いつまでも周りが世話してくれると思ったら大間違いですからね」
「いいですか。龍。 ……聞いてるの?」
目の前で説教をされていた孫は、寝ていた。
「龍!!!!!!!!(爆発的大音量)」
「(( ゜д゜))ハッーー!!!!」
「びっくりした……俺寝てた……」
「あんたって子は……」
顔面が再び閻魔と化した祖母は、もはや人間とは呼べず、、
鬼の形相だった。……というか鬼だった。
……あ、閻魔だった。……いや、それ以上か?
とにかく、とんでもなくブチ切れていたのである。
「あ、ご、ゴメンナサイ……」
一応謝りはした龍だったが、すでにそんな事で収まりがつく状況ではなかった。
ご愁傷様ですと言いたいところだが、ここで、
「おい、まだ説教なんかしてるのか?」
「あ、あなた、……」
ふすまを開け入ってきたのは龍の祖父。
石碑虎蔵見参と言ったところだ。
「あー、説教なんて辞めろやめろ。好きな事をやって何が悪いっちゅうんだ」
多少貫禄はあるこの爺さんは、龍と祖母美子の間に立ち、
真面目な顔つきとは言えない半分笑ったような半分怒ったような表情でそう言った。
「しかしですね、この子、毎日毎日学校にも行かずに、、ゲームや漫画ばっかり……」
「黙らんかっ!!」
祖父は急に大声で叫ぶ。
そして祖父の口からそりゃあもう大量の液体が飛び散った。(汚ぇ…)
「勉強なんかより、もっと大事なものがあるだろう!!!」
細い目をカッと見開いて祖父は言う。
二人は祖父の顔をじっと見つめ、ゴクリと息を飲んだ。
「大事なもの……」
、と、祖母が言う。
「そうだ!!」
、と、祖父。
「何それ??」
、と、龍。
「それはな……」
「楽しむことだ!!!!」
先程よりも少しは真面目になった顔で祖父は言った。
「ゲームだろうが漫画だろうが、それが楽しいんならそれでいいじゃろうが。がはーっはっはっはっ!!!」
それを聞いて祖母は黙ってなかった。
「馬鹿なこと言わないでください!!
確かに楽しむことは大事ですよ! とても大事です。
しかし、、、今は辛くても努力さえすれば、将来はもっっと楽しい事が……………」
「馬鹿者!!!」
祖父の一声で祖母の言葉は途切れたーーー
「将来なんかどうでもええわ!!」
(もはや外道!!!!)
祖母は呆れた。
馬鹿すぎる祖父の言い分に、さすがの龍もドン引きした。
「龍、あとでお婆ちゃんの部屋に来なさい」
声だけで怒りを表現した祖母。
そして立ち上がると、部屋を出、パターーーンとふすまを鳴ら閉めた。
「行かんでええからな。」
と祖父は言う。
「わかってるよ」
龍は半分呆れた顔で、近くにあった本を手にとった。
「?? なんじゃそれは」
祖父は尋ねた。
「『理科』だよ」
表紙には『SCIENCE』と書かれていた。
「勉強するのか」
「うん。」
「そうかそうか。やりたいことやりなさい」
祖父は笑顔でそう言うと、「よっこいしょ」と立ち上がり、部屋を出た。
………
「あの爺さん、ヤバイな。ありゃ孫もドン引きするよ(- -;)」
「そう?? 私はいい人に見えるけど(^^)」
「僕もー(°°)」
屋根の上ではまたあの《謎の生物》たちが3人、話をしていた。
ツヅケバイイナー( ´Д`)=3
早くも適当になりつつあるまえがきとあとがき。
もはや不要。