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顔をあげれないほどの感謝


 僕はただ震えていた。腹の奥には気持ち悪い濁流みたいなのがぐるぐる回っていて、視界がまばらになる感覚に陥る。

 一体、どれほどの迷惑をかけてしまうのだろうと、自分自身を責めたくなる。衣食住に、心地の良いあの場所を共有させてもらえるだけでも身に余るほどなのに。

 それから十数分したあたりだろうか。扉が勢いよく開いた。そこにはいつも温かい笑顔でただいまと言ってくれる、とうさんがいたのだ。扉から入って僕の顔を見た、その刹那悲しいような怒ってるような表情を垣間見せたがすぐに真面目な顔となった。僕はいったいどんな顔で見ていたのか。とても弱々しい表情なのは自分でも分かるほどだった。

 やはり、怒っているだろうか。僕の行いについて(誤解なのだけれど)悲しんでいるのだろうか。だとしたらと考えるだけで、僕は頭を伏せるしかなかった。


「ごほんっ」


 咳払いしたのはとうさんだった。


「まず、これだけは言っておきます」


 若干低めの、けれど芯の通った声でそう言う。


「ここにいる陽介は熟女好きなのです」


 ??? 


「「「は?」」」


 声が重なった。その声の主は担任の先生と取り調べをしていた警官と、僕だった。


「この前なんて、ベッド裏に熟女オールスターなんてエロ本まで隠してましたからね。確実です」   


「ちょ、とうさん!?」


 全くの風評だ。確かにエロティックなものには揺らぎやすい年ではあるが、エロ本なんて持ってないし、なんなら熟女の趣味だってない。断じてないのだ。


「いやね、確かに熟女はいいものではありますよ? あの熟れきった色気の先には男の本能に直接訴えかけるものがあり、籠絡されてしまいそうなほどの妖艶さには濃い色もある...」


 と、とうさんは何を言ったいるんだ?


「な、何を言ってるんですか?」


 先生は僕とほぼ同様の反応だった。  


「おっと、話がずれましたね。とどのつまり、我が息子にはロリコンのけはないのです。先程、綺麗で豊満なボデイをもった女警察官に事情を聞きましたが、どうにも納得できない。陽介はロリコンではなく熟女好きなのです!」


 ビシィっと、指を刺し意義あり風に言うが僕の印象操作はやめてもらいたい。


「そ、そうなのか。陽介?」


 先生が神妙な顔で聞いてきた。何言うてんねん。というかとっさで突飛な会話に、返事が詰まってしまう。

 

「そして、これが一番大事だ。うちの陽介はやってないと言っている。そして未だに確たる証言もない。そんな陽介をこんなふうに拘束するのはどうかと思いますよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は泣きそうになった。涙が溢れるのを必死に堪えようと、下を向くしかない。


「陽介」


 呼ばれた。とうさんの声だ。僕はなんとか顔をあげた。見苦しい表情だと自分でもわかる。


「やってないんだろ?」


 僕は、頷いた。そうしたら父さんの表情が一気に柔らかくなる。


「なら、帰るぞ」


 とうさんはそういうと僕の手を引いて、この部屋を出ようとする。その際、警察官が呼び止めようとするがとうさんは止まらなかった。警察署を出て、車のところへと行く。


「後で事情を説明してくれよ」


 やれやれと言ったふうにいうとうさんの表情は依然として柔らかかった。


「あり...がとう。」


 かすれた声だったがなんとか絞り出せた。


「それと、僕は熟女好きじゃなくて歳が近い方が好きだから」


 この言葉だけサラサラと出てしまうのは不思議である。


「はっはっはっは! そうかそうか、つってもな、いつかお前も分かる時がくるって」


 そういうと、とうさんは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。気恥ずかしさはあるけれど嫌ではなかった。

 分かる時が来るのかは分からないけれど、僕の心の中では感謝しか芽生えていないのだ。今にも泣きそうで、笑顔になりそうな。


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