プロローグ急
プロローグが長くなって申し訳ないですますです
流れに合わせるのもいいんだけれど、存外自分の拠点を探すのになかなか時間がかかった。この無駄に広い広場を囲うように立ち並ぶ家々の内周はおそらく一キロメートルぐらいあると思われる。一番近い家から探し始めて13軒はしごし、ようやく発見したのだ。十数分はかかった気がする。と言っても、まだ拠点を探し切れてない人、探そうともしていない人は結構な人数がいるようだ。傍目で見ながらも僕は自分の拠点となるドアのロックを言われたとおり外し中に入る。
まずは玄関があり、靴の並び具合を見てみると七人はもうここについているようだ。僕が最後だったのか。待たせるのも悪いと思い、僕は靴を脱ぎ、廊下の先にあるであろう皆が待っているリビングへと足を運んだ。
ドアを開けると、最後という物もあり自然に視線が集まった。全員から見られるのは少々の息苦しさを覚える。僕も七人の容姿を確認するが、ここで絶望を感じた。
「あ? お前、さっきの強姦やろうじゃねーか」
浅黒い肌にオールバックの彼は言う。しかも僕が覆い被さっていた少女もいるじゃないか。何というか、もうお手上げだ。というか彼の発言のせいで一気にこの場の警戒色が濃くなったのは言うまでもない。
もうなんと言えばいいのか。僕は両手を少し挙げ、
「僕は何もやってない。起きたら彼女に覆い被さった状態になっていたんだ。・・・これ以上はいえることはないよ・・・」
真実を言うことしかできない。
妹さんの方が何か言いたげな表情になっていたが奥のドアが勢いよく開かれ、それを制止されてしまった。
「はぁーい、皆さんそろいましたね」
そいつはいきなり現れたかと思えば、てくてくと僕たちの中心へと歩いてきた。蝶ネクタイは紫色。僕たちの色に合わせているのだろう。
「私の名前はムラサキ。今後あなた方の大いなる冒険を支援します、アドバイザーです。以後お見知りおきを。では、今から冒険をする上での、必要な説明をしたいと思います。」
「まず、こちらの部屋に来てください。」
そう言うと、ムラサキは先ほど登場してきた部屋にてくてくと歩いて行く。僕らは周りの反応を伺いながらも、仕方なしで紫の後を追った。
部屋に入ってみると、内装は質素なもので、置物などはなくただの部屋となっている。しかし、その中央は普通とは言いがたく、魔方陣みたいな物が青く発光していた。
「皆様の目の前に見えるのが元の世界に帰るようの魔方陣でもあり、アムルへ行くようの魔法陣でもあるのです。」
「あなた方はこの魔方陣を通して大いなる冒険へと赴くのです」
この魔方陣は見たことがなかった。幼少の頃、記憶の中で見た魔方陣のどの種類にも対応しない物だ。
「あのー、ちょっと質問なんだけど、その大いなる冒険? ってする意味あるの?」
ボブカットした、垂れ目の少女がそんなことを問いかける。てかこの子どっかで見たことあるぞ。と言うか、この子だけじゃない。そのほかにも見たことがある気のする人がちらほら。
「意味、ですか・・・。 一応世界の均衡を保つという目的はありますが、最先の目的としては死なないためでしょう」
「死なないため?」
ボブカットは問う。
「ええ。あなたたちが冒険をすれば、当然レベルも上がり装備もより壮健なものになる。しかし冒険をしなければ当然レベルは上がらず装備も貧弱なまま。それでは強制的に参加させられるレイド戦で死ぬ確率が上がるのは必然」
「それに、お金も手に入ります。手に入れた素材を換金することによってあなた方の手元に現金が手に入る仕組みです」
「ですが、冒険の途中で死ぬ確率があることをお忘れなく」
「ちょっと、いろんな話が勝手すぎない? 勝手に連れてきて、勝手に説明して、勝手に腕にあざなんかつけて。しかも死の危険性のある事をしなさいって・・・。ほとんど犯罪じゃない。誘拐に、死ぬのを強要してるみたいなことして。こんなことしたくもないし、帰りたいんだけど」
ボブカットの隣にいる、少々つり目で髪型ポニーテールの子がそうまくしたてる。
「勝手ではございませんよ。そのあざは他の人には見えない仕様ですし、死ぬのは強要していません。死ぬか生きるはあなた次第ですし、それに正直に言ってしまえばあなた方の事情なんてこちら側はどうでもよいのです」
「どうでもいいってッ! ふざけんなよッ・・・! ちょ、くるみっ」
沸点の限界だったのかぬいぐるみに近づき一触即発のところを、くるみと呼ばれたボブの子に止められた。
「はーい、いきなり喧嘩しない。アイドルがそんな口調じゃいけない。それに何されるか分かんないのに危ない。もーないないづくしだよ」
ないない尽くしの使い方がちょっと変な気はするが、いい判断だったと思う。ボブのこの言うとおりである。何をされるかが分からない。こんな状態で感情的になってしまえば危険度は高くなる。
それと思い出したけどこの二人アイドルだ。確か双子でやってて結構な人気を博してた気がする。
もう一人の方の女性も見たことあると思うのだが、どこで見たかは思い出せない。
煮え切らない様子のつり目さんだが、ムラサキは続けた。
「では、皆さまに今から端末を配ります」
ムラサキが指を鳴らせると、僕たちの前に唐突に段ボールの箱が出てきた。
「箱の中身をご確認ください。」
最初に動き出したのは、くるみと呼ばれていた少女だった。箱を開け、その手に持たれたのはスマホのような形をした物だった。てかまんまそれだった。それに続くようにみんながスマホを手にとる。
「電源をつけてみてください。初期設定があるので必要事項を記入してください」
言われたとおり電源をつけてみると、名前と生年月日を入力するページが表示され、僕は言われたとおりに記入する。
それを終えると、ホーム画面に移行した。そこには二つのアプリと、壁紙にムラサキが映っていた。
「どうやら皆様、記入は終えたようですね」
「二つほどアプリがありますが、電話マークのついたアプリは連絡用です。そしてもう一つがあなた方のレベルや装備を表示、またアイテムの鑑定できる物となっています」
「先ほど説明した後者の方のアプリを開いてみてください」
淡々と説明するムラサキに僕は素直に従い二本の剣が交わっているアイコンをタップする。するとそこには僕の今の全体像とLv1という表示がされていた。
「そこには現時点でのあなたがたのレベル、容姿が表示されるはずです。もちろん始まったばかりのでレベルは1で、装備は私服となっているはず。」
「そして、ここからが大事な話となります。」
「あなた方はまず初めに、どのような武器を扱うかということが重要になってきます。これまでの人生で培ってきた武器を扱うのもいいでしょう。しかしながら、あなた方の適性マナの種類からも選んで良いのです」
「ここで、適性マナの種類の説明を致しましょう。」
「マナとは世界に循環し、体内でも生成される生の循環といっても良い代物。」
「ですが、個人によってそのマナの形変換における形は違ってくるのです」
「ある人は火を。ある人は水を。またある人は雷を。このように使える魔法の種類はマナによって違うのです」
淡々と説明する中で、周りの人たちは怪訝な表情を浮かべる。無理もない話だ。自分たちの世界での仮想がこうも雄弁に語られているのだ。
しかし、僕は知っていた。マナというものを。魔法というものを。
「では、皆さまの適性マナを調べましょう。ここに7枚の紙があります。」
ムラサキは古紙のような紙を持っていた。あれは見たことがある。幼少の頃見た記憶の中で見た。確か、記憶の中の人もあれを使い自分のマナ適性を確かめたのだ。
ムラサキはその手に持った古紙を皆に配った。
「その古紙に何か強い念を送ってみてください。そうすれば色が出るはずです」
各人顔を見合わせながらも、だんだんと紙を握りながら何かを込め出す。
「わーお、本当だ。水色になったよ」
驚いたようにボブカットの子は言う。するとそれに続くように周りの人も色が出現し、戸惑いを隠せていない様子だ。
妹さんは火の象徴である赤。兄も赤である。つり目のポニーテールも赤だ。そしてイケメンは珍しくも毒の象徴である紫と聖の象徴である銀色がまだら模様のように入り交じっている。俗に呼ばれていた2色持ちだ。
そして、僕の隣にいる目鼻がくっきりとしている金髪の少女は、まるでその少女の髪の毛のように金色に輝いた古紙を持っていた。金色はちなみに光である。
最後に僕の紙だが、色は無属性を表す透明となっている。透明と言っても準透明ぐらいだけれど。
「あなた方の色がマナの属性に準ずるのです。この中の色で言うならば赤は炎。水色は氷。紫は毒。銀色は聖。金色は光…、準透明が無属性となっています。」
「ちなみに聖属性は回復に特化している物となっています。無属性は誰もが使える属性ですが、その色がマナ適正の人は誰よりもそのマナに特化しますからどうか卑下せずに。ちなみに無属性は身体の強化などを行える物なので、それをご承知を。ほかのものはご想像の通りだと思います」
「では、武器の選択に移りましょうか。武器については、初期装備として、いろいろな武器が使えるようになっております。険が交わっているアプリを開き、自分の手をタップしてみてください。武器の選択ができるはずです。」
自分の手をタップしてみると、画面が変わり、様々な武器のアイコンが出てきた。大剣、刀、弓矢、鉄砲、ハンマー、片手剣、トンファー、クロウ、etc...。結構な種類があるが、過去に使っていた片手剣を選ぶ。
するといきなり目の前にその武器が具現化したのだ。それは宙に浮いていたのだ、僕はつかの部分を手に取る。鉄製の凡庸な剣だ。ほかの人たちの様子を見てみると、扱う武器をもう決めその武器をまじまじと見つめている者、まだ決めかねている者で分かれていた。浅黒兄はクロウ、浅黒妹は槍、金髪碧眼は弓矢、ほかの人たちはまだ決めかねていた。
「えー、多すぎてどれにすればいいのかわかんないんだけどー、アカネはなんにすんの?」
そう言い、ボブの子はつり目さんのスマホを覗く。
「んー、何がいいかなんてわかんないし、双剣でいいや」
つり目さんがそう言うと、二本の短い剣が具現化した。
「なら私は魔法少女なろ」
ならでそうなる原理はわからないが、垂れ目ボブの子の前にロッドが具現化する。
残るイケメン君は、周りの状況の確認をしながらも、何か意を決するかのように画面をタップした。すると、彼の前にメイスのような物が具現化する。
「皆様お決めになったようですね。」
「では、今日はここまでとしましょう。次からは本格的に冒険に出てもらいます。後の時間はお好きにどうぞ。あ、それと皆様ご自身の部屋が用意されているので、ご確認を。部屋の扉の前には名札がかけられています。では、ごきげんよう。帰るも話すも自由ですよ」
そう言うと、ムラサキはパッと消えていってしまった。残された僕たちの間に気まずい沈黙が続く。僕としては即刻に帰りたい。変な勘違いもされたままだし、強姦者っていう言葉が発せられた時のあの空気はなかなかに居心地が悪かった。あの空気はもう味わいたくはない。
「んーとさ、まずは自己紹介しない?」
と、ここで沈黙を破ったのはボブカットの子だった。
「そう...だね。ただでさえ訳のわからない状況だし、コミニュケーションはとっといた方がいい」
答えるのはロッドを手にしているイケメン君だった。浅黒兄はそれに同意と言い、浅黒妹もこくりと頷き了承。それと同時に金髪碧眼の子もこくりと頷く。
「んじゃーアタシから。西条くるみ。くるみはひらがなでくるみね。一応今は東京すみでーす。隣のあかねは双子のお姉ちゃん。好きな物はかわいい物と甘い物全般。よろしくね!」
明るさというか、あざとさというか、そういう感じの雰囲気を醸し出す少女だ。
「私は西条あかね。くるみが言ったとおりだから。よろしく」
つっけんどんな物言いには双子のボブの子とは真反対な印象を覚える。
そして、時計回りに進行するのか、その右隣にいるイケメンが口を開く。
「俺の名前は羽柴誠。出身は関東の方でサッカーやってて、体力には自信があるかな? まぁ、よろしく」
なんか本当にイケメンだ。声も顔も立ち振る舞いも、なんかイケメンだ。
次いで、僕をかたくなに強姦扱いする浅黒の彼。
「オレは阿久津蓮。ボクシングやってから、そこの男と一緒で体力には自信はある。あと、そこのお前。妹にちょっとでも近づいてみろ。ぶっ殺すからな。」
ギンギラギンにその眼の奥に殺意を宿らせる。
「あのさー、一つ質問なんだけど、何があったの? 強姦者がなんとかかんとかって」
ボブカット改めくるみさんがそんな質問を投げかけた。それに答えるのは浅黒兄あらため阿久津。
「こいつはなみんなが昏睡状態をいいことに妹にちょっかい出してたんだよ」
はい、異議あり。全くもって身もふたもない話である。
「だから、何度も言ってるようだけど、本当に何もやってないから。起きたら、その、申し訳ないけど妹さんに覆い被さった状態になってて、そこで君に誤解されたんだって」
認めるわけにはいかない。ここで引いてしまったらここにいる間はずっと変態として扱われる。それはごめんだ。
「妹さんは何か覚えてないの?」
あかねさんが状況の確認を行う。浅黒兄の側にいる女の子が彼の妹と分かったのは、その距離間からだろう。そして、その質問に対し、妹さんはたじろぎながらも答える。
「あ、あの。わ、分からないんです。その、私ずっと寝てて、起きたらお兄ちゃんが怒ってて何があったのか。だから正直、どっちを信じたらいいか分かんなくて。お兄ちゃん、たまに愚直的なところがあるから」
なんとも兄に対しては非情な返しだが、僕に対してはとても助かる意見だ。それにその通りだしね。
「ちょ、おま、お兄ちゃんを信じないのか!?」
途端に泣きそうな顔になった浅黒兄。
妹さんの言葉のおかげでこの件はうやむやになり、自己紹介タイムは難なく進んでいった。
妹さんの名前は阿久津凜。薙刀を習っているらしいから槍を選んだとか。そして金髪碧眼の子の名前は琴ヶ浜アリスと言うようで、どうもハーフらしい。名前的な判断だ。彼女が弓矢を選んだ理由がアーチェリーをやっているかららしい。これは後日談なのだが、彼女はどうやらモデルをやっているらしく、雑誌の表紙に度々載るような人らしく、だから僕が見たことがあったのだろうと気づいた。
とまぁこんな感じで、僕たちは変な冒険が始まるのだった。




