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二匹の猫が旅と人助けをするだけ  作者: 廃猫エティ
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4話 その奴隷はシャル

アイパッドで半角スペースを打っても、表示されないんですね……。

ユーザ辞書でわざわざ登録しました。

 いやぁ、便利なもんが手に入ったな。俺たちを転生させた神が特典で寄越したのかもしれない。一応こっちに来た時にアオにある程度の異世界側の知識はインプットされてるみたいだが、どこまでカバーできるか不安だった。そんな懸念を考慮して言うこと何でも聞いちゃう便利な現地人をプレゼントしてくれた! と思えるほど上手く出来てる展開だ。


 偶然だと断定できるなら諸手を上げて踊りだすんだが、上手く手のひらで踊らされてるのかもしれないといささか思ってしまう。いくら憶測を立てた所でどうしようもないんだがな。考えるのやーめた。


 さ、そんなことよりも! この名も知らない奴隷から情報を引き出すとしますか!


「ね〜、まだ移動しないの? 長くなるなら私先に猪食べてていい?」


 待ちくたびれたのか腹が空いたのかアオが急かすように言う。


「いいぞ、生肉でもいいならな〜」


 アオは自前のスキル『アイテムボックス』でついさっき狩った猪を出し、躊躇なくかぶりつく。


わ〜お、豪快。野性味あふれる行動で真似したくないですわ。


 さて、あっちは放置でいいだろう。俺の対面にいる奴隷に視線を向ける。彼女はアオが出した猪に視線を固定して右手を上げたまま放心していた。立て続けに理解不能な事象が起きたせいか、いよいよ思考回路がショートしたんだろう。ちょうどいい、いろいろ命令してみるかな。


「おい、そこの奴隷。命令だ。落ち着き、俺へ注目しろ」


 声に魔力を乗せて命令する。この流れはもうマスターした。


 紋様が輝き、奴隷が言われた通りにこちらへ注目する。


「はえ?  なんだか今までのことがどうでもよくなってきた……」


 いやいやいや、どうでもいいで済ませていいのか。落ち着けと命令したのは俺だけども。


しかし、これで奴隷への命令には同時に2種類行えること、精神にも作用することがわかった。めっちゃ有能じゃあねえか。


 だが、未だに右手上げっぱなしなのはどうすればいいんだろう。いちいち命令を解除するって言わないといけないのか? そこは面倒だな……。


「命令を解除する」

「いやいや! やっぱおかしいよ!? 黒猫がご主人様になって、もう一匹の方はわたしを殺しかけた猪を食べてて! 訳わかんないよう!」


 途端に喚き始めた。あぁ……、精神を安定させてた命令も解除したからか。一言解除と言うと、現在行なっている全ての命令を解除してしまうのか。たぶん解除したい命令を指定すれば限定解除は出来るんだろうが。


 なおも考察が広がろうとしていたがここで切り上げる。なぜなら、あわあわしていた奴隷がキッとこちらを向いて、眉を釣り上げ不満ありげに口を開こうとしていたからだ。

 どうぞ、言いたいことあるなら聞きますよ。


「あなたは何者ですか! さっきは動転していて助かったことも気がつきませんでしたが、察するにあなたたちが助けてくれたと思います!」


 もしかしたら、通りすがりの善人が辻ヒールしていっただけかもよ?


「猪を倒せる強さもあり、猫にしてはわたしに命令できる知性も持ち合わせているようですし、何か目的があって私を助けたんじゃないですか!?」


 おぉ〜、今の今までポンコツ娘と思っていたが、存外頭の回るやつかもしれないな。


「やっと自力で気を落ち着かせることが出来たようだな。そうだ、お前を助けたのはきちんとした理由がある。実は俺たちは遠くかなり深い森からの出自でな。人間のことをあまり知らないんだ。だからお前から教えてもらおうと思って助けたんだ。……あと、叶うならば俺の世話係になってほしい。ダラダラ寝てたい」


 咄嗟に思いついた嘘で誤魔化しつつ、素直に答えた。


 奴隷は眉を釣り上げたまま、凝視してくる。


「……」

「……えっと、以上、です……?」


 まだ何か言わないといけないかな?


「ニャーニャー鳴いてて何言ってるのかわかんない……」


 通じてなかっただけかよ。そういやそうだったな、こんちくしょう! ペラペラ答えてたのが恥ずかしい!


 う〜ん、会話が出来ないとなると不便だなぁ。……どうしよう。

 お。良い案思いついちった。


「命令だ。俺の話す言葉を理解しろ」


 紋様が輝き、命令が発動したことを確認する。想像通りなら、これで解決しただろう。


「あー、あー。分かるか、俺の言葉?」

「っ!? わ、わかります……。猫がしゃばった!?」


 噛むなよ。しゃばったってなんだよ。驚きすぎだ。


「厳密には俺は猫じゃない。邪猫だ、魔物だぞ」

「うぇえええええ……。ま、まもの……? 知性のある魔物なんておとぎ話でしか聞いたことない……」


 奴隷は尻餅をついて呆気にとられていた。さっきからこいつ驚きすぎだ。テンポよく会話しようよ。


「そのことも後で聞くとして、お前名前は? どっから来た?」

「……お、襲わないです?」

「襲わねえから早く答えろ」

「わ、わたしはシャルエスファ……、ハサイ街から依頼で来ました……」

「シャルエスファか。長いな、シャルでいいか?」

「はい……。シャル……」


 心なしか嬉しそう。友達いなさそうだもんな。かわいそうに。


「黒猫さんの名前も伺ってもよろしいですか?」

「あぁ、俺は」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 返答を遮るように生肉を貪ってたアオが乱入してきた。口周りが血液で酷いことになってるぞ。


 俺の眼前で踏ん反り返る。そしてそれは唐突に言い放った。





「アンタの名前は私が決めるわ!」



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