アース王子
いじめ開始
「クリス、これから想定される事を、貴女に伝えるね」
私は、寄宿舎の私の部屋にクリスを招き、ジェットと三名で今後の打ち合わせをした。
私の言葉にクリスの顔が青ざめていく。
私は、前世で体験したイジメの数々をクリスに人から聞いた話と言って伝えた。
私が守ってあげる! とクリスに言ったが、クリスを守る事が自分を守る事になると私は思う。
経験上孤立してはいけない事は、解っている。
解っているが、実践なんて出来なかった前世。
私は変わるんだ。
「それじゃ、ソフィーナ また明日ね」
クリスが私手を振った。
「うん。 クリス、明日から一緒に馬車で学園に行こうね」
私は、部屋の外で走っていくクリスを見送る。
クリスの姿が見えなくなり、私は部屋に戻った。
「ジェット、それじゃ……」
私は、ジェットと二人だけで別の打ち合わせをした。
次の日、私達は教室に入ると私達の椅子が無かった。
「ざまぁ~」
「くくく」
クラスのあちらこちらから笑い声が聞こえる。
日本の教室だと、机ごと無くなっていたが、ここでは机は横に長いタイプの数名が共用していたので、流石になくならないか、と思った。
クリスを見ると、すでに心が折れそうな感じで今にも泣きそうだ。
昨日、想定される事伝えたでしょ?
クリスに耳打ちして、私は何事も無いといった感じで、クリスを連れてクラスの担任の元へ行く。
「先生、教室に入ると自分の椅子がありませんでした」
と伝え、新しい椅子を持って教室に戻る。
無かったら持ってくる。それだけだ。
先程笑っていた連中は、面白くないといった顔をしている。
反応すれば奴等の思うつぼ、クラスのおもちゃにされるだけ。
イジメなんて、奴等にとっては娯楽のひとつでしかない。
だから、罪悪感も何もない。
うんざりだ。
された方は心に傷を負って、その事が年月が過ぎようとフラッシュバックする。した奴等も見てた奴等も忘れていくのに。
理不尽。
納得いかない。
怒りが、黒い感情が全身を覆っていく。
私は、出来るだけ冷静に周りにソレを覚られまいと装った。
こいつらは、まだ、椅子を隠しただけ、だけど、行為はエスカレートしていく気を抜いてはいけない。
そして当然の様に、クリスと私は、クラスから無視をされる対象となる。
想定の範囲内。
一人ならダメージもあろうが、二人だと特になんてことない。
話す相手がお互い、いるのだから。
そんなこんなで、今日の授業は終わった。
馬車に揺られながら、私的には今日は、拍子抜けだったな、と思っていたが、クリスは違ったようだ。
前日まで、仲良く話していた友達が誰も口を聞いてくれないのはキツかったようだ。
「クリス、がんばったね。 約束して、何かあったら絶対私に言うって」
クリスの目を見て私は言った。
「……うん」
クリスは力なく答えた。
貴女、裏切るの?
私はクリスに対しての疑念が頭をもたげそうになるのを必死に押さえこんだ。
信じない者が、人から信じられる訳が無い。
だから信じろ! 私は自分に言い聞かせた。
そして、学園では、数日間クラスから私達への無視が続いていた。
だが、クリスが慣れてきてくれたのが幸いだ。
ここのイジメは、ぬるいと思いはじめていた。
昼食、いつもの中庭のいつもの場所でクリスとランチだ。
一人より二人の方が美味しい。
お弁当の入ったバックを開けようとした時に声をかけられた、
「最近、よく二人でいるね」
三年のアース先輩だった。
「こんにちは、アース先輩。私達仲良しですから」
私は、笑って答えた。
クリス真っ赤になって、もじもじ してるぅ。分かりやす~、可愛いなぁと思った。
私は、ニヤニヤしてクリスを見た。
「なによー、ソフィーナ」
気付いたクリスが言ってきたが、ニヤニヤしたまま私は、
「先輩に、味見してもらったらぁ?」
私の言葉にクリスが真っ赤になった。
「先輩、クリスは料理上手なんです。このお弁当だって自分で作ったんですよ~」
私がそう言うと、
クリスが真っ赤になったまま下を向いてる。
アースがクリスの前にしゃがんで言った。
「へぇ、凄い。小さいのに頑張るね」
アースはにっこり笑っている。
「す、凄くなんてないですぅ」
クリスは頑張って答えた。
私はそれを見て、クリスのお弁当を取り上げ、アース先輩に仰々しく渡す。
「先輩、味見してクリスに報告して下さい」
私はアース先輩に命令させてもらった。
「はい。お嬢様、かしこまりましてございます」
アース先輩もわざとらしく答えてくれた。
クリスは、火が出るんじゃないかってくらい真っ赤になってる。
ほら、クリスが好きな先輩がクリスのお弁当食べてくれるよ! そう思ってクリスを見た。
クリスは下を向いて審判の時を祈るように待っている。
私は、アース先輩の方を見ると、先輩が怒ったような悲しいような顔をした気がした。
が、すぐに笑顔になったので多分気のせいだろう。
「クリスのだけじゃ不公平だから、お前のも食べてやるよ」
そう言って私のお弁当も持って行ってしまった。
クリスと二人、ポカーンとした後、顔を見合わせて二人で笑った。
ソフィーナとクリスの二人と別れたアースは待たせていた同級生で護衛係でもあるカイルと共に校舎の裏に来ていた。
アースは、ソフィーナの弁当が入ったバックも確認した。
「カイル見てみろ」
アースは怒った顔でクリスのバックを渡し中身をカイルに確認させた。
「……!」
カイルは口元を押さえ絶句した。
バックの中から出てきたのはゴミやカエルや虫の死骸。
次に開いたソフィーナのバックの中身も同様の物が入っていた。
「ん……これは」
カイルは中から紙を拾い上げた。
「アース様、このような物が入っていました」
カイルから受け取った紙には、
( これでも食ってろバーカ )
と書かれていた。
「下種が」
アースは吐き捨てるように言った。
「どうなさいますか?」
カイルがアースに尋ねた。
答えは想像つくが一応。
「貸せっ」
言って、アースはカイルからバックをひったくる。
「お前は、ソフィーナとクリスに何か、うまい物でも渡して、俺が来るまで二人の側にいろ!」
そう言いながら、ずんずん歩いて行った。
「了解いたしました。王子」
アースの後姿にカイルが言った。
さて、私の弁当でも渡しますか。
ソフィーナ達の教室のドアが勢いよく開かれた。
ゆっくりと教室にはいるアースとこのクラスの担任
「お前ら、動くな!」
アースが言った。
固まる生徒達。
「お前ら下衆どもの為に、わざわざ俺が来てやったんだ。ソコに並べ」
生徒がざわつく。
「は、早く並びなさい」
担任が早く並ぶよう急かした。
「見ろ! これが何か分かるか?」
アースはソフィーナとクリスのバックを掲げた。
数人の生徒の顔色が変わり下を向く。
「何なの、貴方! そんな汚い安物のバックがどうしまして?」
アリーナが前に出た。
「お前が下衆どもの大将か?」
アースが笑みを浮かべながら言った。
「貴方ね、私のお父様は、この国の宰相よ! 私に楯突いたらどうなるのかしらね?」
アリーナの言葉に取り巻きが力を取り戻して、
「バカなやつ~」
「出てけ、出てけ」
と、はしゃぎ出した。
担任は顔面蒼白だ。
「おい、貴様。貴様の教育不足だな」
アースは前を見ながら腕組をして隣の教師に言った。
教師は下を向いている。
「ここにいる全員、一人ずつ殴れ、体でわからせろ!」
アースが教師に命令する。
教師は前に出ていたアリーナに近づく
「先生?……何を」
「キャッ!」
教師は平手でアリーナの頬を思い切り叩いた。
衝撃でアリーナは倒れこむ。
「言ってなかったが、俺は、この国の王の息子だ」
先程罵倒していた生徒が気を失う。
教室内は教師が生徒を叩く音が響いていた。
それが終わったあと、アースは教師に、
「次はない」と言い、倒れている生徒には、
「今度、この様な下種な真似をしてみろ。貴様達の命も親の命も無いものと思え!」
と言って去っていった。
アリーナは憎悪の目でアースを見る。
許さない、あの男も、ソフィーナもクリスもみんな、みんな!
ソフィーナ達の所にアースがやって来た。
「スマン、弁当落としてしまった」
アースが頭を下げて二人にバックを返す。
「だ、大丈夫です」
顔の赤いクリスが笑顔で言った。
私は察しがついて一瞬暗い顔になったが笑顔でバックを受け取った
「また今度、試食させてくれ」
そう言ったアースにクリスは勿論と言って喜んだ。
「あっ、そうだ! 今日は授業も終わりだから、帰るように先生言ってたぞ。みんなで何か食って帰ろう」
アースは、そう言ってみんなを強引に連れていくのであった。
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アース王子