始まった
物語が動き出します。
王立グリナダ学園。
ここはグリナダ王国の王族や貴族階級の子供達が通う男女共学の学園で、12才から17才迄の5年間学ぶ場所だ。
私達のように辺境からの生徒は従者を伴うのが一般的で、私はジェットという同じ年の獣人の男の子と、マリーという18才のメイドを従者として連れてきていた。
学園指定の寄宿舎には私の部屋より小さいが従者用の部屋も用意されている。
学園前に制服を着た生徒が沢山いる。
「ソフィーナ様、では、お帰りの時間にまたお迎えに参ります」
そう言って私を送ってくれたジェットは小さな馬車を操り寄宿舎に帰って行った。
この学園に来て一月が過ぎた。
今のところイジメは無い。
私は目立た無いように過ごしている。
前世のような目に合いたくない。
いつも下を向いてるからクラスメートの顔も良くわからない。
授業内容はほぼ理解出来る。
この体の能力が高いのか先生の話はノートを使用しなくても聞けば頭の中に記録されていく。
つまらない時間が過ぎていく。
学校という空間にいるだけで吐き気がする。
早く終われ。
早く終われ。
午前中の授業が終わり、私は教室を出る。
学校の中庭の静かなところでベンチに座って、マリーが作ってくれた、パンに野菜とハムを挟んだ物を食べる。
「一年生か?食堂で食べないの?」
誰かが私に話しかけた。
男の声?
「…苦手だから」
私は下を向いたまま答えた。
話しかけてきた男はが私の横に座った。
「俺も苦手だ」
男が言った。
「旨そうだな」
男が、私のお弁当のパンを一つ取った。
図々しい。
でも、慣れっこだ。
伊達にイジメられてきたわけではない。
どんな奴か顔ぐらい見ておこうと顔をあげ、男を見た。
!
目の前に、男の顔が来てた。
私より幾分大人びている。上級生?
それよか、顔近っ!
「・・・」
固まる私。
「可愛い顔してるんじゃないか」
私の顔を見て男が言った。
顔を真っ赤にした私は、
「…な、何なんですか?」
と、ドキドキしながら何とか言った。
「いつも下を向いてるけど、顔をあげた方が良いよ。可愛い顔してんだから」
男がニコリと笑ってから立ち上がる。
「俺はアースだ。三年生」
こちらを向いてアースが言った。
「…ソフィーナ、一年生です」
私は、何とか言った。
「ソフィーナか」
アースが笑った。
「パン美味しかった。今度、礼するから」
そう言ってアースは去っていった。
金髪で綺麗な顔をした男だった。
放課後、教室で私はクラスメートの女に囲まれていた。
あー、始まったか。
理由は何?
私は下を向き黙っている。
「貴女はアリーナ様をばかにしてらっしゃるの?」
女の子の一人が言った。
「そんな、バカになんてしてない」
私は言った。
アリーナ・シュヴァイツは、宰相の娘と言う立場から、このクラスのボス的な存在だ。
権力者の娘に録な思い出がない。
だから、私は出来るだけアリーナを避けていた。
「何で昼食会に来ないの!」
別の女の子が私を責める。
昼食会? 食堂でアリーナを囲んで食事してるアレか、クラクラくる。たかが、そんな事で。
「ごめんなさい。明日は出席させていただきます」
私は、素直に謝った。理不尽に腹が立ったが、イジメの口実を与えるより謝る行為の方がましだ。
「何をなさっていますの? ソフィーナさんが、困っているじゃありませんか!」
教室に入ってきたアリーナが私を取り囲む女の子達に言った。
「違いますの、アリーナ様。私たちは、いつも一人で可哀想なソフィーナさんを食事会に誘って差し上げておりましたの」
私を責めていた女の子が言った。
「こんな大勢で取り囲んでは、ソフィーナさんがお困りになるでしょう。ソフィーナさん早くお帰りになりなさい」
アリーナが言った。
「アリーナ様ありがとうございます」
私はそう言って教室を出た。
あざとい女。
何も知らない子供なら、助けてくれたアリーナに感謝してアリーナの忠実な取り巻きの一人になるのだろう。
お前が、こうなるように仕向けたんだろう?
お前達はいつもそうだ。
あぁ、このパターンか。
そう思って廊下を走った。
校舎を出て、待っていたジェットの馬車に乗る。
「始まった」
私はジェットに言った。
「大丈夫ですか?」
ジェットが聞いてきた。
大丈夫と、私は頷いた。
ソフィーナと同じクラスに、中村 唯の転生したアリーナがボス的な立場でいる。
そして、出会った上級生のアース。
次回をご期待ください。