卒業
最終話になります。
ギャグの「軽キャンピングカーと異世界とおっさん」も応援してください。
でも、全然違うので、こっちが隙な人には良くないかも……
では、最終回、楽しんでください。
私とクリスは、17才になった。
卒業式が近い。
学園を卒業したアース王子とカイル先輩から来る手紙を見るかぎり、辺境の地を与えられ、領地経営で忙しいみたいだ。
ちゃんと、充実した毎日を送っているのだろう。
一緒に学園生活を戦った戦友なのだから、心配するのは当然だ。
そして、クリスは、アース先輩と卒業を待って……
楽しみだなぁ…
残り少ない学園生活、私も楽しまなくっちゃ!
とは思うのだが、領地に戻った時にジェットとの、この先の事を思うと不安になるときがある。
なるようになるか……
バイス王子とアリーナの嫌がらせには、私達みんなで協力して対応し、乗り越えてきた。
前世での経験があった事が役に立った。
確かに、役には立ったが、……嫌な思いもした。
ただ、マリア先生が、その度に、肩書きや家柄に関係なく中立のジャッジをしてくれたのが助かった。
本当に感謝している。
前世で出会えたら、私は、ここに来ることもなく別の人生を歩んでいたのかな?
少し、悲しくなるが考えてもしょうがないよね?
私は、変わった。
前向きに考えるようになった。
学園生活も残りわずか、学生生活を楽しむ事だけ考えよう。
そう思いながら、愛するジェットと学園へ向かう。
「ソフィーナ、着いたよ。 俺は、用務室にいるから、何かあったら来るんだよ」
馬車を運転していたジェットが言った。
私と、ジェットは、アース王子が卒業した日に結ばれた。
両親には、報告してはいないが、領地にもどったら、結婚したいと思っている。
ジェットは、この世界で一番の私の理解者。
彼がいない世界など、私には、もはや考えられない。
「ジェット、いつも、ありがとう」
私は、そう言って馬車を降りた。
ジェットは、馬車での送り迎えという、いつもの行動なのにお礼を言われて、とまどっているようだったが、
「ああ、気にするな。 ソフィーナ愛してる」
と、言って馬車を走らせた。
教室。
いつもと同じ風景。
クリスがいて、アリーナもいて、バイスもいる。
あ、バイスは、問題行動が重なり今も卒業できずにいて、現在同級生。
今年も留年が決定していたが、クラスのみんなは、触れないようにしていた。
今年の留年は、アリーナの妊娠騒動が効いたみたいだ。
「ソフィーナさん、お互いもうすぐ卒業ね、あなたは、辺境の実家に戻るのかしら?」
アリーナが、話しかけてきた。
「アリーナさん、私は、田舎娘だから、やっぱり田舎が合うみたい」
私は、笑顔で答えた。
アリーナは、妊娠騒動で、いろいろあったようで性格が丸くなった。
最近は、少しだが、会話するようになっていた。
「ソフィーナ! アースから手紙がき…」
クリスが話しかけてきたが、アリーナの姿を見て言葉を止めた。
クリスは、連絡を取り合っているアースの話をいつものように、しにきたのだろうと思った。
「じゃあね、ソフィーナ、私、行くわね」
そう言って、アリーナが行ってしまった。
「ソフィーナ大丈夫? また、アリーナなんかと話して」
心配そうにクリスが言った。
殺人未遂、レイプ未遂、証拠は無いがアリーナが関わっているであろう、これまでの事件から、クリスは心配しているようだった。
大丈夫でしょ?
私は、安直に思った。
それから、私達は、たわいもない話をして過ごした。
今日も平和な一日が終わった。
終わったハズだった。
「やめて! 私に何かしたら、アースが!」
体を押さえ込まれながら、クリスが言った。
「また、アイツか! アイツの大事な者をぶっ壊してやる!」
クリスを押さえつけてバイスが言った。
「やだ! やだ! アース、アース助けて!」
クリスが泣きわめく。
「早く、やりなさい! また、邪魔が入ったらめんどうよ!」
アリーナが、バイスとクリスを見ながら言った。
体育用具室で、クリスがレイプされた。
それは、昼間の授業中の犯行だったので、私は、助ける事ができなかった。
生涯、助ける事が出来なかったという後悔が残り続けることだろう。
笑わなくなったクリス。
私は、強引に問いただして、アイツらの犯行を知った。
ゆるせない。
なんで?
そんな事が……出来る?
私は、もう……殺るしかないないと思った。
ジェットも同じ気持ちだ。
理不尽に私は、殺された。
この世界でも、理不尽にクリスの心が殺されたのだ。
泣き寝入り?
ふざけんじゃないわよ!
殺す!
ぶっ殺す!
私は、それしかクリスにしてやれる事がない。
復讐に意味はない?
ふざけないで!
第三者に何がわかる?
被害者に我慢を強要する世界など、ぶっ壊れてしまえ!
そして、クリスの自殺未遂がおきた。
私は、クリスを助けた。
生きて。
生きて欲しい。
理不尽な世界に負けた私みたいになってほしくなかった。
クリスは、生きる選択をしてくれた。
だが、クリスは、アース先輩に全てを告白して、別れを選択した……
私にクリスは、汚れた自分なんか、アースに相応しくない……と、言っていた。
そんな……
そして、数日が過ぎ、卒業式の日。
「今日で、卒業ね。 別々の道に進むけど、社交界で出会う事もあるかもしれないわね」
笑顔で、アリーナが私に話かけてきた。
吐き気がする。
この場で殺してやりたい。
「ええ、田舎者ですが、その時は、よろしくお願いします」
私は、笑顔で答えた。
卒業式に、クリスの姿は無い。
あの日から、学園に登校してはいないのだ。
卒業式が終わった放課後ーー
私は、ジェットと共に、バイスとアリーナを湖畔の秘密基地に拉致してきた。
秘密基地には、クリスもいる。
今ごろ、騒ぎになっているのだろうか?
知らない。
ただ、奴等には、やった事に対する報いを受けさせる!
それだけだ。
私たちは、バイスとアリーナを監視しながら人を待った。
そして、そんな時間が過ぎない内にドアが開いた。
アース先輩とカイル先輩だった。
私が先輩に手紙を出していたのだ。
制裁に手を貸してもらえないかって……
返事が無かったけど、二人は、来てくれた。
私は、嬉しかった。
アースが、バイスに近寄る。
ガツッ!
アースがバイスを激しく殴った。
バイスは、アースに殴られ倒れ込む。
「本当に、クソ野郎だよ、お前は」
アースはバイスに言った。
そして、クリスの元へアースは走った。
アースがクリスを抱き締める。
「卒業した時に、お前を連れていけば良かった、すまん」
アースの言葉にクリスは、大粒の涙をこぼした。
「ごめんな、俺の側にいてくれ、これからは、俺がずっと守るから」
「……こんな、私でいいの?」
アースの言葉にクリスが答えた。
私は、アース先輩が大好きだ。
クリスを変わらずに愛してくれるから。
「何よ、もういいでしょう? 私帰るから」
アリーナが、しらけた感じで言った。
ドアへ向かって歩く。
私は、ドアの前に立ちはだかった!
「どきなさい!」
アリーナが言うが、退くつもりなどない。
私を、睨み付けるアリーナ。
「私はね、この世界にきても特別だった! この先も、ずっとそうよ! 底辺を這いずり回ってる奴等の事なんて、知らないわよ! どけ!」
アリーナが怒りに任せて言いはなった。
ちょっと、まって。
この世界?
「あなた、転生した? 日本人?」
私は、おぼろげな日本語で聞いた。
アリーナの表情が変わった。
「なんだ、あんたも日本人? じゃぁさ、私と一緒に来ない? こんな原始人みたいな連中といたって、しょうがないでしょ? あんたと私の知識があれば、金だって権力だって思いのままよ」
下品な笑顔でアリーナが、日本語で私に言ってきた。
こいつ……
「でも、あなた、周りの人を利用してきて、心が痛まないの?」
私は、日本語で聞いた。
すると、アリーナが大笑いした。
「アーハハハ! あんた、面白いわね。 そんなの思う訳ないじゃない。 ここにいるの原始人よ! だいたい日本にいる時だって、まわりは、バカばっかだったけどね! 一番笑えるのは、やってもない横領の罪を着せた女! 笑えるのよ、否定しないの! アハ、そんで、飛び降りて死んじゃったの!あー笑える」
アリーナが、日本語で言った。
そうか……
「そんな人が、いたんだ? ねぇ、教えて、その飛び降りて死んだ人に、悪いことしたって、考えた事ある? 中村さん」
「そんなの考えないわよ~、でね、その後、海外旅行に行ったんだけど、その時にね ……え? 中村?」
私の問いに笑って答えていた、中村 唯の表情が変わった。
「私ね、死んで、静かになりたかった。 なのに、転生しちゃって、神様? 誰かわかんないけど、私を転生させた者を恨んだわー。 だけどね、今、今この瞬間、転生に感謝してる」
私は、笑顔で言った。
アリーナこと、中村 唯の顔が歪む。
「忘れてるかもしれないけど、遠藤 加奈子です」
私は、私の前世の名前を出した。
「ご、ごめんなさい。 ……わからないの」
ホントにわからないみたいだ。
自殺に追いやった人間の名前もわからない。
そんな、些細なことなの?
全てを否定された気がした。
私は、中村 唯に掴みかかった。
悔しい!
こんな奴のせいで!
力一杯殴った。
私も、中村に殴られる。
それでも、私は殴り続けた。
ガツッ!
誰かから不意に殴られ、私は倒れた。
「下賤な者の分際で、アリーナに何をする!」
バイスが、私に言った。
痛いなぁ。
血が出てるみたいだ。
「お前! 殺す!」
ジェットがバイスを殴り倒した。
そのまま馬乗りになって殴り続けた。
バイスが、みるみる内にぐったりしていく。
「ジェット、もういい、俺が殺る」
アースが剣を抜いた。
「ヒイ!」
アリーナがドアを開けて、逃げようとした。
それに気づいたアース。
ジェットもドアの方を見た。
その隙をついて、バイスが、ジェットを押し退ける。
ドスッ!
アリーナが出ていく寸前に、カイルの投げたナイフが足に刺ささって、アリーナは、そのまま倒れこんだ。
バイスが這いながら、アリーナの元へ向かう。
「ア、アリーナ……一緒に、……逃げよう」
そう言って、アリーナに触れようとした瞬間、
「さわんじゃねーよ! 役立たずが! なんだテメー単なるアホじゃねーか! 最後ぐらい役に立てよ!」
アリーナが、バイスに悪態をついた。
バイスは、一瞬悲しそうな顔をした……
ドス!
バイスがアリーナの足に刺さったナイフを引き抜き、アリーナの胸に刺した。
ドス! ドス! ドス!
バイスは、何度も刺した。
「お前もか! お前も俺を裏切るのか! お前も……」
泣きながら、バイスは、アリーナを刺し続けた。
私も、ジェットも、クリスも、アースも、カイルも、ただ、ただ見ているしか出来なかった。
「こんな世界、なんも楽しくねーや、お前ら、せいぜい苦しめ」
そう言って、バイスは自分の首にナイフを突き立てた。
アリーナにおぶさるようにバイスが倒れる。
私達は、しばらく動くことが出来ずにいた。
数年後ーー
「ソフィーナ、早く行かないと、遅れるぞ!」
ジェットに急かされた私は、部屋を飛び出した。
「女の子は、用意に時間がかかんのよ!」
ジェットにそう言って、部屋戻って準備を再開した。
クリスとアース王子の結婚式が行われる。
ここからだと、移動で二日はかかるから、急がなくては!
卒業してから私は、辺境の故郷にもどった。
そして、周囲の反対を押しきり、ジェットを婿養子に迎えた。
陰口とか、嫌がらせとかが確かに強かったけど、二人で乗り越えてきた。
そして、領地経営で、元日本人の私達によるアイデアや行動によって、着実に成果を出した事によって、周囲の反応も変わっていった。
私は、学園での生活で、変わったのだ。
これからもジェットと二人で、どんな困難も乗り越えていく!
そんな、強い信念ってのが芽生えた。
「準備万端、オールOK!」
私は、バックを抱えて部屋を出て、旦那様の元へ走る。
そして、私は思った、
望まないのに転生した私。チート能力はないけど、仲間に恵まれた。
「いきましょう」
ジェットの手をとり走り出す。
どこまでも。
生きてるって、素晴らしい。
強くなった彼女達、彼らは、この先、領地経営や国の発展に寄与していくのでしょう。
それは、また別の話と言うわけで、物語は完結です。
今まで、ありがとうございました。