マリア先生
進級します。
カイル・クルーズは、アース・グリナダの学友であり、父親よりアース王子の護衛の任を受けている。
父親のケイズ・クルーズはグリナダ王国の将軍の一人であり、グリナダ王派の重鎮。
カイルはケイズの三男で家督を継げるとは思わない。
小さい時からの友とはいえ、アースの側にいても出世の目は無い。
だが、自由がある。
カイルは、それで十分だった。
友と笑い、友と泣き、アース王子と、おとなしくさえしておけば、煩わしい王宮のいざこざとは無縁の生活が出来るのだ。
カイルは今日もアースと共に学園に登校するのだが、最近の王子の様子がおかしい。
あの、ソフィーナという辺境貴族の娘と出会ってからだ。
前は、笑うことが少なく物事を斜に構えてみる節があったが、今は、よく、笑うようになったし、明るくなった。
会話はソフィーナの事がほとんどだ。
良い方に変わった。
カイルは、それが嬉しかった。
それに、ソフィーナとアースが会うと、もれなくジェットがついてくる。
ジェットの事を考えると笑顔になる。
カイルは、自分でも気づいてはいないが、彼もまた、変わったのである。
以前の彼は、近寄りがたい雰囲気をもち、アースに敵対するものには容赦なく制裁を加える男であったが、彼も笑うようになり、少し穏和な性格へと変わった。
一年の時が過ぎた。
新しい学年。
ソフィーナ、クリス、ジェットは13歳になり、アースとカイルは15歳になり、それぞれ、二年生と四年生になった。
「ソフィーナ!また、同じクラスだね」
クリスが笑顔で私に話しかける。
私も笑顔だ。
「うん、クリスと一緒で嬉しい」
もしかしたら、アース王子が裏で手を回してくれたのでは……。
いや、考えないようにしよう。
クリスと同じクラスになれた。
それだけで良いじゃないか。ソフィーナは、そう思うことにした。
ちなみに、アリーナと、その取り巻きの何名かは別のクラスになった。
新学年の初日、先生が教室に入ってくる。
40代前半、髪をアップにまとめ、眼鏡をして痩せている。動きがキビキビして笑顔がない。
厳しそうな女性の先生だ。
ざわつく教室に入った先生は、教壇に立つと、
「はい、静かに!二度は、言いませんよ」
厳しい目をして、強い口調で言った。
教室内は静かになった。
何か、先生から漂う威厳というか、威圧感に教室の子供達が圧倒されている。
「本日から、みなさんの担任になります、マリアです。よろしく」
マリア先生は静かに言って、右端の先頭の席の生徒を立たせ、自己紹介をさせた。
「次、」
「次、」
「次、」
・
・
・
「次、」
私の番になった。
私は立ち上がり、一礼した
「私の名前は、ソフィーナ・クリシュナ です。出身はアオリス地区、クリシュナ領です」
私は緊張して言った。
名簿を見ていた、マリア先生が私を見た。
「そう、あなたがソフィーナさんね。はい、次」
そう言われて、私はモヤモヤしながら、座った。
残りの、クリスを含めた生徒全員の自己紹介が終わった。
マリア先生が姿勢をただし、静かに話し出す。
「みなさん、最初に言っておきますが、このクラスでは、辺境の貴族も、中央の貴族も関係ありません。ここにいる、みなさん一人一人の実力が全てです。
自分の家柄などで、クラス内で、どうこうしようとすれば許しません。
クラスは生徒同士協力し合い、私の指導の元、規律をもって行動しなさい。
お願いではありません。命令です。
私は、あなた達を全力で指導し守りますのでついてきなさい。 以上です」
そう言って一礼した。
私は、迫力に圧倒された。
他の生徒も同じようだ。
「では、本日は、式典がありますので、学園のホールに移動します」
先生はそう言って、ホールに移動する。
私達は先生の後について移動した。
二年生になった私はどうなっていくのだろうか?
そんな事を考えながら廊下を歩く。
次回、式典の後に……。
ご期待ください。