第2話
まずはこの動画を見てほしい。
勝手な偏見でもうしわけないが、らくらくなフォンを使いそうな老人が出してきたものはそれよりも更に大きなタブレット端末だった。
状況が理解できないままでいる俺はただ相手のいいなりになり動画を見るしか選択肢はなかった。
再生ボタンを押すとさっきまでの教員達が嘘のように静かになり、その動画により一層集中せざるを得なくなった。
まず情報として得られたのは端末から聞こえる雄叫びのような荒々しい怒号。聞き馴染みのあるその声の持ち主はまだ映らない。
そして、飛び交う学生達の映像。その中心でさながらツッパリ映画の主人公のように暴れまわる体格のやけに良い人物。
毎朝鏡で目を合わす奴。自分だ。
言い訳を探す。正当防衛!正当防衛なんです!
普段から喧嘩を売られた時の言い訳を探しながら自分に非がないように喧嘩してきた。
いや、わかってる。喧嘩をそもそもしちゃいけないんだ。
でも、こんな大人数に迫られたら誰だって抵抗する。はず?
過剰防衛?
そんな事を考えている中。
画面の自分は投げつけられた看板を受け止め相手を叩いていた。
あぁ、これか。
状況も目の前にいる老人の正体も理解できた。
彼の正体は、市長様でした。
僕が抵抗しない男を叩いてる看板に選挙ポスターが貼り付けられていたので、これがTVでたまに拝見するカンペと同様の作用を求めていたならこれ以上の効果はない。
そして動画が終わり再び言い訳を探す。選挙ポスターとかにいたずらすると罰せられるのは耳にしたことがある。
僕を裁く罪状は喧嘩ではなくこの切り口だったのなら、今僕には反論の術どころか、テンプレな言い訳すらも浮かばない。
さっきまでの教員達の笑顔と拍手が腹立たしい。
もうどうせなら、暴れてやろうかと思った時、
「ほんとすばらしい!」
誰かが口にした。
「無形文化遺産!!」
「よ!!ツッパリ!!」
続くように周りの大人達がガヤる。
無形文化遺産ってなんなんだ?