9・罪の深さ
刃物を首に突きつけられる少女。
俺は本気だった。本当に殺してよかった。…それぐらい俺は壊れてたんだ。
他人に刃物を首に突きつけられる感触って分かるか?
今までの苦痛が全部幸せに思えるぐらい。血の気が失せて、体が震えて、
何でもするから何もしないで下さい!って情けないこと堂々と言えると思うぜ。
それぐらい死は恐いって、俺は昔…経験してた。
俺は狂気の目であいつを見た。
死に怯える情けない姿。生きたいってすがる欲望。
やっと見られるんだって、震えながらあざ笑ってたんだ。
・・・けど駄目だった。
あいつの目は、いつもと何も変わっていなかった。
ただ真っ直ぐなんだ。
死んでも構わないというか、死を恐れていない目…なんだ。
それを見た俺がびびってさ、力が抜けて、刃物を落としたんだ。
俺は、あいつに覆いかぶさるような体勢だっただけどな、
何が起きたか分かんねえ内に、吹っ飛びながら俺はあいつから離れたんだ。
がくがく震えてる俺にさ、追い討ちかけるような事するんだぜ?
そいつが立って、落ちている刃物を拾うんだよ。
俺は殺られると思った。
・・・
だけどな、そいつは刃物を俺の手に握らせたんだ。
「キミが実現したい事…叶えてください」
そう言って、にこっといつもみたいに笑った。
俺はようやく普通な思考が戻ってさ、人を殺すことが、
どれだけ重い事、危ない事って分かったんだ。
何かもう、涙が止まんなくてさ、全部を吐き出すように叫んだな…。
そいつは俺を見て、抱きしめたんだ。
ただ優しく、俺という存在を受け止めてくれたんだ。
・・・とまあ記憶にあるのはこんな、情けない話なんだ。
*◆◇◆*
「苦しい記憶…話して下さってありがとうございます。」
華人は、彼を見つめてそう言った。
彼は、華人に見とれた。
大きな紅い瞳、桜色の髪、にっこりと笑う笑顔。
「やっぱ…似ている」
彼は、ぼそっと呟いた。
「?」
華人はそんな彼を見て、きょとんとしている。
すると、華人は頬を緩ませてさりげなく笑った。
「そうそう俺さ、ずっと気になってたんだよね」
不意に彼が明るい声で喋りだす。
「? はい。何でしょうか?」
「華人って本名、なのか?」
彼の表情は明るく、質問に深い意味はなさそうだ。
だが、華人の表情は固まって、少し申し訳なさそうな顔をした。
「…いいえ。本名ではありません」
「へえ。」
「企業秘密なのです!」
人差し指を立てて、ぴっとポーズをとった。
「企業?」
あっと驚いた表情を華人は浮かべた。
「言ってません…でしたっけ?」
華人は少し悩みながら、話し出した。
‘華人,について・・・
*◆◇◆*
「…とようするに華人は、世界中に花を咲かせ、自然を守る団体って事か?」
「はい♪そして私達は、世界中に花が咲く日を夢見て、旅をしているのです!」
きらきら、いきいきと話す華人は、いつもより元気に見えた。
「…でも本名を隠す必要は無いんじゃね?」
彼は、そういったごく普通な質問をした。
華人はにっと笑って、腰に掛けていたベンチからぴょんと跳びはねて、
芝生の上に足をつけた。
そして、手を、彼の方向に指し示すように向けた。
「あなたのお名前は…どなたがおつけになりましたか?」
「う…っ。俺の名は分かんねぇけど、まあ、普通は両親がつけるよな。」
「両親とは何ですか?」
「何って…」
ん――。悩む彼。彼は何処まで深い考えを巡らせているのだろうか。
「人。」
おっと!普通な返答出ました!
「ということは、あなたのお名前は人がつけたものですよね。」
「ああ」
「では、これはどなたが名をつけましたか?」
そう言って、右手で空をさした。
「人…じゃね。」
「そうですか。では、あれはどなたが名をつけましたか?」
今度は、花壇の花をさした。
「名っていうか、花の種類は人が名付けたな。」
「では、あのお花とその隣のお花の名はありますか?」
どんどん不思議な質問をされ、戸惑う彼。
「わかんね。つけてあるのかもしれないし、ないかもしんないな。」
「…どなたが?」
「人…」
…ああ。そういう事かと彼は理解した気がした。
「人に呼ばれる名は無いって事か?」
華人は首を傾げて笑顔を見せた。
「それに花には1つ…1人がありませんから
1つの種で複数の花が咲いたら、名はどうなるのでしょう?
だから、私達は全ての花を…
‘華,と呼びます
そして華人は、華と同じ存在です
名前はいりません…」
――キミ 名前は?
――当ててみて下さいっ
彼は、華人と初めて会った日の事を急に思い出す。
「あれは、私に名前があったら、どうなるかなと思っただけです。」
質問する前に、華人は答えた。
「おい。心読むなっつのー」
彼は困りながら、軽く肩を叩く。
「えへへ♪ すみませんー。」
舌をだしながら、くすくすと笑った。
「何か華って不思議な能力あるよな…。」
――私…こう見えても未来予知能力と過去透視能力があるのです…っ!
そ−いえばそんな事言ってたな…。
「あれって本当なのか?」
「はい?」
「今度は心読んでないのか…」
「能力の事は、秘密です♪」
「…結局読んでいる訳ね」
「ゆーびんやさーんの落し物♪」
「?」
「拾ーってあげましょ」
いーちまーい♪ にーまい♪ さーんまい♪ よーんまーい♪
華人がくるっと回ると、不思議な事に手紙が空から降ってきた。
それを見事にキャッチする華人。
今、華人はどっさりと手紙を抱えている。
「…ありがとさん」
すげーなと思いながら、仕事を忘れていた自分に呆れていた。
袋を受け取り、よしと覚悟を決める。
「行って来る! じゃ」
ひゅーんっ!
「こんな展開ありなのでしょうか…?」
困り果ててる華人。確かに、あの人に空気を読んでもらいたいですね♪
そこに、ちょうど良く 藍依参上!
「華人様…あれって」
「郵便屋さん見事復帰みたいです☆」
「えっ!」
こんな別れ方ってありですか!?
いまだに名もない主人公。走り去る!
お読み下さってありがとうございます!
ついに郵便屋さん復帰です!
…読者様は覚えていらっしゃったでしょうか。
彼が郵便屋だったという事に…
作者自身忘れかけていて…(滝汗)
藍依や華とわかれてしまいましたが、
これからどうなるのでしょうか?
次回も良ければ見てください。^^