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7・一息の間

青年は廊下を出て、歩き出した。部屋のドアを閉めようと、取っ手に

手を近づけた。僅かだがその手は震えていた。

その手とは裏腹に、彼の表情は自信に満ち溢れている。

意志の強い目・口元はにっと笑っている。

どちらが本当の彼の姿なのだろうか。



*◆◇◆*


3人が泊まった宿は、新しく綺麗な建物で、人気がある宿だった。

宿の中にはレストランもあり、様々な味の料理が楽しむ事ができる。

もちろん各部屋にジャグジーバスとトイレが付いてある。

部屋は使用者が軽く掃除をしなければならないが、お手頃価格で泊まる事ができる。


その宿の人気の理由の1つが、宿の外の庭である。

そんなに広くは無いのだが、草木が茂っており、太陽の優しい光がさんさんと

降り注いでいる。庭の端の方には、桃色・白・水色などの様々な色の花が

咲き誇っていた。花壇の近くには、落ち着いたカフェがあり暖かい飲み物やお菓子

軽い食事などが楽しめる。

そのカフェの白いベンチに少女…華人はちょこんと座っていた。

「よっ」

そう言って彼は右手を上げた。華人は軽く会釈をして、にっこり笑った。

まだ朝早いので、周りには3、4人しかお客はいない。

そんな中、周りを気にする訳でもなくいつも通りの声の大きさで話し掛けた。

「俺さ、さっき持ってた金を両替してきたから何かおごるぞ。」

彼の異国と思われる通貨をこの国で使えるように、両替したようだ。

「これ、見たら(はな) どんな顔すっかな」

軽く笑って、彼の持っている例のエコバッグから財布を取り出した。

財布を開けると、札束がぶわっと入っている。

「……。」

「俺ってどこの王子様だったんだろうな。」

にっと笑って華人を見た。

「何か奢りますよ。お姫様」

その答えに応じるように、華人も幸せそうな笑顔を浮かべ

大きく頷いた。



はな。何がいい?」

目の前には、クレープのようなお菓子がずらっと並んでいる。

そのお菓子は、粉とミクルという木の実を混ぜ合わせ

薄くこんがりと焼き上げた皮に、お好きなものにくるんで、できあがり!

…という簡単かつ美味しい、この国での定番お菓子メニューの1つである。


目の前に映るガラス越しのお菓子を食入るように、華人はじっと見つめている。

フルーツが盛りだくさんのもあれば、チョコレートやマシュマロの

トッピングが、かかっているのもある。

「……!」

華人はきらきらした瞳で、どれにしようかと真剣に悩んでいた。

真剣に悩む姿を、微笑ましく見守りながら彼は言った。

「食えるなら何個でも買っていいぞ」

「ふにぇっ!!」きらきら200%の瞳で彼の方向に振り返る。

なんだなんだその可愛い声は!と内心思いながら、

「ほら、決めろって」華人の子供っぽさに心のどこかで安心していた。


「あ……。」

華人はふっと目を逸らし、急に目を細める。急に何かに醒めたような表情をした。

頬を少し膨らませて、寂しさが一瞬表情にぎる。

そして真っ直ぐな瞳で青年に問う。

「私…。やっぱり、子供に見えますか?」


凛とした声が風に鼓動して響く。

彼の心が一瞬空白になった気がした。ふっと何かを思い出す。思い出してしまう。

ぐっと目を瞑って、拳を強く握った。何故少女の一言にこんな心が乱されるのだろう。

なんでこんなに何かを思い出したくないんだろう。


焦る心を隠しながら、彼は口を開いた。

無理に笑って。

「その言い方をするって言う事はさ、華は子供じゃないのか?」

「・・・」

「見かけは子供!頭脳は大人!って感じなのか?」

腹に手を当てながら笑った。

「・・・馬鹿にしてますか?」

落ち込みながら小さい声で呟いた。

「あ、悪い」

「・・・いえ、馬鹿にするほうが正常です」

そう言って寂しく笑った。

「?」


「でもな俺、華を見ているとさ」

彼はそういって恥ずかしそうに頭を掻く。


無いはずの記憶。

でも、その中にある不確かな記憶。

その記憶だけが彼がもっている1つの手掛かり。


「俺の記憶と重なる所があるんだ・・・」

彼は、ゆっくりと正直に話し始めた。













お読み下さってありがとうございます!!

やっと青年が心の真実を語り始めます。

次回も宜しければ見て下さい。^^

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