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30・探しモノ・旅の行方

 私は歩く、大切なものが見つかるまで。

 幸せな何かが、確かにあったはずだから。

 探し続ける、手がかりがなくても。

 霧の向こうに、きっと何かがあると信じて。


 私は歩き続ける。





  音憂は研究所を抜け出し、藍依の家に居候させてもらっていた。

 藍依の母は研究所で働らかされていたが、音憂の力によって強奪(?)してきたのだった。

 「もうそんな道には歩みません…ごめんなさい華人様」

 と心に決めた藍依の母は、今は違う仕事を探し働いている。

 藍依の父は随分前に亡くなっており、藍依の母が研究所で働く前までは2人で暮らしていた。

 研究所に監禁されていると言って良いほど、藍依の母は働かされていた。

 

 華人が助けにくるまで、藍依はずっと一人で暮らしていたのだ。

 独りで、孤独に暮らしていたに違いない。

 しかし今は急展開な幸せが藍依に舞い込んでいた。

 昔の寂しさを埋めるように・・・。

 研究所の連中に気づかれないように遠くの村に引越しをして、のどかに暮らしている。

 研究所の奴らは重要な逸材(華人)や能力優秀な部下(藍依の母)を失い、大騒ぎになっている事だろう。

 だから、何としても取り戻そうとしてくるに違いない。

 そんな不安も抱えながらも、自然の多いこの村―フェリス―で暮らしていた。

 暖かい日差しが降り注ぐこの大地で、村の森に囲まれながら3人は小さな家に住んでいた。

 

 たったった!

 「華人様っ!あの、どちらに行かれるのですか?」

 藍依は玄関まで走って来た。音憂が何も話さずに出かけようとしているから心配になったのだ。

 そんな藍依を見つめ迷惑そうな顔をする華人。

 靴を履きながら目を逸らして言った。

 「探し物があるんだ」

 意味深な言葉に藍依は首を傾げる。

 「私もついていっていいでしょうか?」

 恩人の華人に、ずっと忠誠を誓おうと藍依は決めていた。

 忠誠は心の中で決めていたが、華人が知ったら迷惑がるだろう。

 「長い長い旅だ。そんな簡単なものじゃないんだ」

 華人の背中を見ながら、藍依は肩を落とす。

 「もう帰って来ないという事なのですね」

 悲しそうに藍依は呟いた。

 言いにくそうに、華人はため息まじりに答えた。

 「……そうなるな」

 その言葉に藍依は動揺を隠せない。

 藍依はやっと掴む事ができた幸せが、崩れていくような恐怖を感じていた。

 手足が震えて、涙が滲む。

 「藍依のママと幸せにな」

 華人は精一杯の笑顔で別れを告げた。きっと彼女もどこかで寂しさを抱えているだろう。

 しかし揺るぐことのない決心。

 扉が開かれ、一歩一歩踏みしめるように歩いた。



 淡々と歩く華人。

 どこに向かうのか分からない。どこに行きたいのかも分からない。

 「分からない事だらけだ……私は」

 足の疲れが少しずつ溜まっていく。しかし、そんな事は気にしないかのように歩き続ける。

 長い長い獣道を歩いて、ようやく着いた初めての街。

 建物に溢れかえって、人が賑わっている。


 初めて・・・初めての筈なのに。

 見覚えがある?


 音憂の口が勝手に動き出した。

 「ここはぶどう酒で有名な街、シャワール。陽気な人達が多くて治安は良い。音楽好きな人が多く、楽器職人がここで勉強しにくる場所。そもそも木管楽器の材料に使うヴェルアという樹が多く生息して入手が比較的容易なので、楽器職人が集まる理由と言われる……」


 誰?誰が教えてくれたのだろう。私は元々知っていたのか?それなら他の知識も知っている筈だ。

 何故だ。何で懐かしいなんて思っている自分がいるんだ。私はずっとあの研究所で暮らしていた。

 いや、そうか私の記憶だ。それ以前の記憶もあったんだ。つまり、ここは私の記憶に関係している場所・・・。


 くるくると思考が巡る。それと同時に体が動いていた。

 どこかに誰かがいた・・・・・という確信をしていた。

 街中を全速力で駆け巡り、迷わずに進んでいく。

 人とぶつかりそうになるところをすれすれにかわす。

 人込みに呑まれそうになりながらも、必死に向かっていく。

  

 ここを右に曲がって、突き当りを左に・・・。

 そう、その時は隣にあったんだ、大切な何かが。

 私はそれを探したい。手放したくないんだ。

 思い出したい、私の大切な何かを。

 

 お店だ。お店に来たんだ。

 何かを買う為?・・・いや違う。でも何か大切なモノを手に入れたんだ。

 何だ、それは。

 小さくて、可愛くて、輝きに満ちているモノ・・・。

 ここの奥の大きなお店だったはず。

 

 小さなわき道を通り、たどり着く。

 思い出の場所に。


――たん・・・っ

 走り続けた足を止めた。

 疲れて、呼吸が乱れる。目の前がかすんでゆがむ・・・。

 酸素が不足しているせいか荒い息をする。倒れそうな程、目眩がするが、重たい頭を上げる。


 ここに何かが手掛かりがある筈だから・・・。


 期待と高揚感で胸が高鳴る。

 ゆっくりゆっくりと顔を上げた。

 「・・・・・・」

 目の前の景色に呆然とする。

 体が硬直し、思わず息を呑んだ。

 確かにここにあったはずの大きくてお洒落なお店。今はもう、ガラクタみたいに壊れかけていた。

 今はもう前のような店の明るい光は消え失せている。

 静まり返った場所。何かが終わった場所。

 絶望の終焉。

 「……つぶれてしまっていたのか」

 急に力が抜けて、頭から前に斜めって倒れた。

 ゆっくり、ゆっくりと。力尽きていく・・・。

 ドスン・・・

 重たい音が響く。 


 最後の支えを失ったとき、人はどうなるのだろう。


 寒い気温の中、しんしんと雪が降り始めた。

 小さく白い雪。涙みたいに、冷たく悲しい雪。

 少女を慰めるかのように少女を雪が覆う。

 熱を奪い、天に連れて行こうとしているのだろうか。

 

 支えがないのなら、倒れるしかない。

 自分で立てる力が無いのなら。

 またいつか、起き上がれることを祈って。


 願い続けるしかない。


 冷たい世界で、少女はゆっくり瞳を閉じた。




読んでくださってありがとうございます!

音憂ちゃん!大丈夫か!?おーい!

これはピンチです。

誰かが、音憂ちゃんの支えになってくれるのでしょうか・・・?

藍依ちゃんはお母さんと一緒に暮らすことを夢見ていましたから、ここには来ないのではないでしょうか。

・・・かといって彼はきっと研究所で袋叩きにされているでしょうし(笑)殺されてもおかしくないしなぁ・・・彼はどうなっているのでしょう。

そんな感じの内容をお送りします。^^

次回も宜しければ読んでみてください!


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