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3・月光と華音

 

 少女が青年を抱きしめている。

 青年は咄嗟の少女の行動に驚きの表情を隠せない。

 声も出せずに、時間は経つ。

 少女が居るからだろうか、この森に綺麗な桃色の花が咲き乱れている。

 風が吹き、花が揺れ、桜吹雪が舞う。その景色は息を呑む程美しかった。

 単なる偶然なのか、それとも必然だろうか。2人が出会ったのは。


 「華人はなびと様…! 何をなされているのですか?」


 急に響く、透き通った綺麗な声。だがその声は少女の声ではない。

 少女の声より、大人びた声…年上のようだ。

 その言葉を聞いた少女は、体をびくっとさせ、青年から体を離した。

 「ふう…。やっと解放」

 少女から解放されてやっと声を出した。

 顔は赤く、呼吸が荒い。急な展開に汗をかいたらしい。

 「焦りました。華人様を見失って…。」

 その声の持ち主は、蒼い髪の少女。少女といっても桜色の髪の少女よりは背が高く、外見年齢は15歳ぐらいである。

 瞳は紺と空色のグラデーションで、長く細い髪が風に揺れている。

 細く白い体。意志の強い瞳。整った顔立ち。

 桜色の髪の少女と並ぶと、美少女が2人。

 このままユニット組んだら絶対売れよな…。と青年は心の中で思った。

 「…恐れ入りますが、あなた様は華人様とどういったご関係でしょうか?」

 澄んだ声で蒼い髪の少女は、青年に問う。怒りを隠しているような表情である。

 強い瞳を青年に向けた。

 「俺?」

 左右前方を振り向きながら青年は言う。惚けてる分けではないらしい。

 彼は素がこうなのだ。

 「はい。…そうです。」

 「ん――。多分無いというか、俺は覚えていないんだ。」

 「そうなりますと…華人様の…」

 少女は言いかけたまま、理解したように1人で頷いた。

 すると、一旦目を瞑り、瞳を開けた。

 その瞳は先程とは違く、優しい瞳になった。

 「先程は失礼しました。私は藍依アオイと申します。華人様のお供をさせて頂いています。」

 すんなりと大人びた声で言った。

 礼儀の良い子だなと彼は思った。

 やっぱりこういう時は自己紹介するものだよな。とは思うもの

 「えー俺は」

 30分経過・・・

 しょうがねぇ!この際、嘘も方便だぁ!

 「静雄です。」

 「それは嘘だと思います」

 ばらすなぁ!

 桜色の少女…華人に的確につっこまれた。

 「…とまあこんな感じなんすよ。」

 適当にごまかして、頭を掻く。

 「長い自己紹介ご苦労様です。」

 くすっと笑って、藍依は言った。

 「つまり…記憶がないのでしょうか…?」

 藍依は問う。

 「ああ。そうなんだよ」

 何だ。話分かるじゃん。最初から言うべきだったな。

 すると藍依は珍しいものを見るように、俺の手に触った。

 「ん??」

 手のひらをじっと見つめる。

 手相でも見てんのか?

 「ふむふむ、よかったですね。」 

 「何が?」

 「華人様からの贈り物ですね。」 



  *◆◇◆*



 記憶喪失の専門病院に俺は連れていかれた。

 良い病院を紹介してくれるとさ。

 んで隣には2人の美少女が待合席に座ってる分けで…。

 「あの人…」 

 「えー…」 

 「ロリコンか」 

 「二股…」

 いや。俺の彼女じゃないからな!

 見られている視線がなんか痛いし…。ま 気にしてもしょーないけど。

 これが例の華人さんからの贈り物らしい。

 前までは「*●◇☆¥」だったのが、ちゃんと言葉が分かる。

 すっげー便利なんだけど、今の状況の声はあまり聞きたくない・・・。

 あともう1つ。藍依からなんだけど。悪い気もするけど、診察料とか払ってくれるらしい。

 ま、ありがたい話だし、甘えさせてもらうか。サンキューな、藍依。

 

 それにしても、通る人男女問わず2人を見てくんなぁ。すげーな。こりゃ。

 看護士さんもこっち見てんぞ。

 『…違います。あなたを見てるのです』

 華人が彼にひそひそと話しかけた。

 「は?んな分けねえーって。」

 笑いながら手を振る。

 「って心読むな!」

 本当に心読めるんだな・・・。

 軽く華人をぺちぺちと叩く。

 「やめろよ」

 俺がそう注意すると少し、しゅんとしたようだった。

 「えへへ」


 藍依を見ると、お行儀良く座っている。

 大人びたクールな表情。悲しげな瞳。

 そんな姿を見た彼は、彼女に話しかけようと試みる。

 「あのさ、」 

 「? はい。」 

 「藍依って何歳?」 

 「…15です。」

 彼の年の基準とこの国の年の基準は同じくらいらしい。

 「俺っていくつに見える?」

 「華人様から聞いた方が確かと思いますが…」

 「藍依の口から聞きたいんだよ。」 

 「…」 

 ん?顔真っ赤。

 ヤベ!何か俺ヤバイ事いっちまったか?

 いや!別に藍依と話したいだけであって、いやらしい意味じゃないぞ!

 藍依は顎に手を当てて考える。

 しばし沈黙。

 (何かここまで悩んでもらうと悪い気がすんな…)

 ちょん ちょん 青年の服の裾を引っ張る。

 「き、決まったよ」

 「おお。何々!」

 藍依が耳に口を近づけきた。

 「十八」

 そして綺麗な声で答えた。

 「ふーん、そっかそっか。ありがとな。」

 しーん・・・沈黙再臨

 「なぁ、藍依」

 「…?」

 「俺に名前付けてくれよ、俺名前忘れてっからさ〜。何かと不便だろ名前ないと。」

 藍依は困った表情を浮かべた。

 「はぁ。ですがそれでは…あなたが犬みたいです。」

 ふっふっふ!藍依をからかってみっかな!

 「ん。じゃ犬でいいよ。藍依ご主人様。」

 俺はにっと笑った。



 作り物の笑顔じゃなくて自然な笑顔。

 こんなに綺麗に笑える人がいるのか。と思えるぐらいの笑顔だった。

 つられて藍依も頬を緩めた。

 「では、考えとき…ます。」

 藍依の表情が柔らかくなったのは、誰も気付く事はなかった。

 しかし、2人を見て少し悲しげな表情を浮かべた少女。

 1人で遠い昔を想いながら、瞼をゆっくりと閉じる。

 「もう、キミじゃないんだよね」

 きゅっと拳を握る。

 「私の名前なんか、覚えている訳ないよね…」

 暗く切ない声。

 「うん、分かってる」


 過去を封印する、私の心と一緒に。

 永遠に、凍らせるんだ。蘇らないように。

 

 思い出と記憶は、もう変えられない。変わらない。

 あれが結末…最後のページなんだ。

 

 終わってしまった、何もかも。


 物語の続きは始まらない。



お読み下さってありがとうございます!!

次回も宜しければ見て下さい。^^

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