28・華人の想い
信じられない。信じる事なんて不可能だ。
目の前にある出来事に直視できない俺がいた。
冷たく紅く染まった音憂。
きっと、もう動かない。
もう笑わない、喋らない。
音憂は何処へ行ったんだろう。
「音憂・・・音憂」
起きるわけが無い。もう、2度と。
誰が、誰がこんな事を・・・。
ふざけんな、ふざけんなよ・・・!
俺は天華団体の実験室から抜け出して、音憂をこんなにした奴を探した。
ただ、がむしゃらに。
許せなかった。こいつを奪う事を。
怒りをそいつらに向けた。
許せない、もうどうにでもなれ。
こんな事して無駄だとしても、それでも俺はする。
許せないから、ただそれだけだ。
*◆◇◆*
「我々の実験台に手を出さないで頂きたい」
白い白衣を着た、細い体つきの男が言った。
その表情はただ厳しく、冷酷だった。
男の前には、茶色の髪の少年が倒れていて、体中がぼろぼろだった。
「お前ら・・・ふざけんなよ」
低い唸った声で少年は言った。
少年の周りには薬が散らばっている、おそらく薬のせいで彼は動けないのだろう。
歯を食いしばりながら、少年は拳を握った。
――こいつらが音憂を・・・
「ん・・・?君、よく見たら精霊化の人間か?」
少年は瞳に力をいれて睨んだ。
「・・・だからどうしたんだよ」
その返答に男は驚きを隠せない。
「精霊化した奴は、いつ暴走するか分からない。さっさと封印しなければ」
男は目で合図し、長い髪の女性は少年に近づいた。
澄んだ藍の髪で、背には翼を生やしていた。
彼女は人工天使だった。
目を瞑り、呪文を唱えると光が少年を包んだ。
「彼は・・・月の精霊に摂りつかれています」
「そうか、さっさと削除しなさい」
殺す事になにも罪悪感を感じないような態度。
「ですが・・・」
彼女は戸惑う、精霊とは言えども殺す事には躊躇いを隠せなかった。
「何だ?早くしろ」
彼女は深くため息をついた。
そして、眩い光は彼を締め付けるかのように細い糸となった。
キ――ンツ
電波のような音が響いた。
「・・・っ」
彼は頭を手で押さえた。頭に音が響く。
高い超音波が鳴り続ける。
その時に彼の中の精霊が封印された。
同時に彼の記憶も封印された。
今、彼はただの人形になった。
*◆◇◆*
――・・・? ここは何処?
桜色の髪の少女は診察台から起き上がった。
その少女に気付いたように、周りに白衣を着た女性が近づいた。
「華人…実験成功です」
周りに明るい雰囲気が漂う。
その雰囲気に戸惑いを隠せない少女が呟いた。
「ここは何処?」
しかし、彼女の声に答える者は居なかった。
少女は様々な訓練を受けた。
華人としての力を試された。
彼女は実験台だった。
少女は時が過ぎても、少女のままだった。
年を取らずに生きていく。
半永久的に。
華人という言葉が世界に広まった頃。
桜色の髪の少女は、自分の記憶を取り戻してきていた。
しかし、誰にも話さずに心に留めていただけだった。
話したら、また再検査をさせられると思ったからである。
日常のように診察を受けた後、少女はいつものように窓を眺めていた。
窓の向こうには桜が咲いている。
いつもどおり景色。
1年中咲く桜。人工的に作った桜だからだ。
しかし、今日はいつもと違う景色が映った。
蒼い綺麗な髪、さらさらと風に靡いている。
歌が聞こえる。
これは華人の歌だ。
今、華人は宗教化して、世界各地で歌われている。
「綺麗な声・・・」
少女は初めて心動かされた。
綺麗で、純粋な声に。
初めて少女は、彼女自身の意志で動き始めた。
読んで下さってありがとうございます!
彼視点少ない!出番少ない・・・。
今回は華人として生きている頃の音憂ちゃんです。
少しずつ音憂の頃の記憶を取り戻しています。
人の心が分かる花と音憂ちゃんを混合させた種族が華人なので、華人は人の心を読む事ができます。
そして、音憂ちゃんは永遠の少女です!
年をとらない設定です!
後、華人の実験はまだ音憂ちゃんしか成功されていません。
歌を聴いて心動かされる音憂ちゃん。
蒼い髪で、歌が上手いといえば・・・?
次回も宜しければ見てください。^^