27・音が途絶える日
今回は暗い話になっています。
残酷な描写とまではいかないかもしれませんが読む際には注意して下さい。
キミの声が聞こえる。
ずっとずっと、忘れられずに響いている。
「じゃ、俺行ってくんな」
精霊君は悲しそうに笑った。でも悲しんではいけない。
これは精霊君の望む事だから、私は精一杯応援するんだ。
「修行…頑張ってね」
口元を必死に上げて笑う。作り笑いに見えるだろうか、やっぱり。
「すぐ強くなって帰ってくるから。お前も華人として立派になってろよ」
精霊君は強めの口調でそう言った。
「護衛士なら敬語で話すのではないのでしょうか?」
からかって言ってみた。
「はいはい、すみませんね」
そして頭をなでられた。大きくて暖かい手。
手は離され、キミは遠くに旅立つ。
「…待ってるね」
でも、頼ってばっかりじゃいけない。
だからね いつか手放すんだよ
*◆◇◆*
一通の手紙。
キミの傍にいるよと約束してから、私達はずっと一緒だった。
精霊君は、子供みたいに私にひっついてきて何というか、可愛かった。
でも、ずっと弱いままではいられない。
時は過ぎ、人は変わる。
人は変化を求める生き物だから。
「俺、このままじゃいけないよな…」
桜が咲く庭で彼は呟いた。
私は彼を見ながら話を聞いていた。
――このままじゃいけない
そう、彼は変わろうとしていた。
厳しい過去が彼の心を捕らえようとしても、彼は自分から進もうとしていた。
私は彼が離れていってしまうのではないか、と思って心細かったけれど。
違かった。
最初の目的からズレていたんだ。
私は、彼を幸せにするための手伝いをするだけで、彼を幸せになんてできない。
そんなのは、私のエゴだ。
私のわがままだ。
彼は、私なんていなくても生きていける。絶対に。
今、私を必要としてくれていても、それは意味が無い。
彼が独りでも生きていけるような強さを、彼自身から身に付けなくてはいけないんだ。
「俺、前にも言ってたけど…修行に出かけてこようかと思ってる」
独りでも生きていける強さを彼もきっと望んでいる。
だから、応援しよう。
ずっと、ずっと。
私が朽ち果てるまで。
「うん…いいんじゃないかな」
「何かなげやりだな、お前」
キミは不機嫌そうな顔をした。
「そんなことないよ」
「本当か?」
じっと見つめる、瞳。
ガンバレ
私も、頑張るから
*◆◇◆*
「華人になりたい」
私は宣言した。
理由は、彼を救いたかったから。
事の発端は少し前。
彼と一緒に居た時に始めて使ってみた。
未来を予知する力を。
軽はずみな気持ちで使ったのだけど、予想外の未来が待っていた。
精霊くんの未来。
でも、精霊君ではなかった。
完全に、精霊化していた。
暴れて力を爆発させていた。
そこに天使がたくさん来て、彼を止めていた。
どうしようもできない私がそこに立っていた。
今まで私は何していたのだろうと自分自身呆れていた。
そんな未来にはしたくない。
彼は人として生きてほしい。
精霊化を防ぐ事ができるのは、天華団体の天使だけ。
天使というのは、人と聖霊を混ぜて作る人工的なもの。
私は天華団体に入り、少しずつ知識を深めていった。
時は経ち、ついに精霊化を完全に食い止められる方法を知った。
天使の歌 という術。
天使自身の聖霊力を使い、精霊化と中和させるという方法。
私はその術を使えるようになるために、どんなこともした。
醜い事でも、どんな事でもした。
そんなある日、精霊君が修行から帰ってくると手紙が来た。
嬉しくて、どきどきが止まらなかった。
とても待ち遠しかった。
引き裂く出来事。
人の心を読み取れる花。
今度は、花と人を混ぜてつくる人工的な存在を作るという企画ができた。
私は元々人工天使は好きでは無くて、新しく作られる花人の存在を作り出して欲しくなかった。
でも、私は所詮下っ端の人間。口に出す事は許されなかった。
そして実験台が必要となった。
高魔力を持った人間…。
周りは私を見つめた。
そう、私が実験台として選ばれたのである。
私も抵抗した。
必死で生きようとした。
彼に殺されそうになった時は、あんなに死に恐怖を抱いていなかったのに。
違うか、きっと私はあの頃とは違って、欲張りになっていたんだ。
それに私はたくさんの人の叫び声を何度も聞いた。
同じ事だ。
私は最低な人間なんだ。
たくさん大事な事を忘れていた気がする。
もう、拾えない。
多すぎて拾えない。
もう、前には戻れないんだ。
また、私は失敗してしまったんだ。
汚すぎる、私は。
自分の幸せだけ考えていたから、こんな事になってしまったんだ。
――音憂…音憂!
少女は振り返る。
「僕、音憂を守りたいから、僕は護衛士になるって決めた…決めました」
なにやら、馴れない言葉で話す少年。
少女は少年の言葉に目をまるくする。
「びっくりしたよ。…急に言葉遣いが変わって」
照れくさそうに少年は喋りだす。
「だって護衛士は主人に敬語で話すだろ?それに、ただでさえ音憂は誇り高い華人になるんだから敬語の方がいいと思って」
少年の言葉に少女はくすっと笑う。
「あははっ。言葉遣いもどってるよ」
少女の言葉にカチンときたかのようにきつい口調になった。
「…これから勉強すんだよ!」
その表情を見れて少女はほっとしたようだった。
「そっちの方がキミらしいよ」
にこっと笑って少女は言った。
遠い日の自分が綺麗に見えた。
「いやぁ・・・!やめてえ・・・っ!」
必死に生きようとした。
とても醜くて、悲しい姿。
自分でも愚かだと思った。
でも、もがいてももがいても痛みはやまない。
止まる事無い。
血が流れてくる。
刃物で傷つけられて。さくさくと痛みが走る。
痛い。
これが痛いということなんだ。
「やだ・・・いやぁっ!」
力一杯叫んでも聞こえる事は無い。
ここは防音施設の実験所だから。
だれも助けには来ない。
痛い、痛い。
「・・・!」
血が止まらない。
紅に染まる。
すごい、すごいまっかだよ・・・。
*◆◇◆*
紅い血、横たわる少女
何もできずに、されるがまま
「音憂!」
――バンツ!!
どこいったんだよ、あいつ。
あの天華団体って所で何かあったんじゃないのか!?
俺が居ない間に何かあったのか…?
どこだ?天華団体の本拠地は……。
届かなかった想い、冷たい体。
何もかもが遅かった、時を戻すことはできない。
「……音憂?」
は・・・何が起こってんだよ。
何だよこれ?
は・・・はは。
あ、あ・・・
「音憂うぅーーーっ!!うわあぁぁーー!」
時は戻らない、人が変化を望む限り。
読んで下さってありがとうございます!
これが音憂ちゃんの辛い過去です。
よく分からない存在――花人の実験台にされてしまいます。(この時は正確な名前が決まっていなかったので花人です)
これから、彼視点に変わる…?と思います。
この話の最後は1話目に繋がります。
彼が記憶をなくして、草むらに横たわっているあの日にです。
その時に、華人となった音憂ちゃんと再開する事が出来ます。(彼は覚えていませんが…)
何故彼は記憶をなくしたのでしょうか。
宜しければ次回も見てください。^^