25・キミとの出会い
キミはもう、獅樹くんではない。
本当は思い出して欲しい。あの頃の獅樹くんに戻って欲しい…。
君が獅樹くんでなくても、私は獅樹くんに助けられたから。
君を救いたい。幸せにしてあげたい。それが私の望み。
*◆◇◆*
≪精霊≫
近づいてくんなよ・・・。さっきからなんだよ。
「ねぇねぇ。キミって何がすき?」
「は?」
「食べ物何がすき?私、作れるものなら作るよ!」
「・・・腹減ってねえよ」
うざい。俺に喋りかけんなよ。
っていうかさ、疲れた。色んなことに。
なんかどうでもよくなるな・・・。
顔を上げてみる、あたりは一面桜。
「ここどこ」
そいつに聞いてみる。
「ここは桜のきれいな春!そして優しく吹き渡る春風!」
異様にはしゃいで答えてるそいつ。
(季節なんか聞いてねぇ・・・)
質問には的確に答えてくれ・・・。
「風の舞う庭っていうの!綺麗だよね」
そう言って、そいつは目を細めた。
こいつは中々話が通じないようだ。
その桜を見上げてみる。
ひらひらと舞う桜。
咲き誇る華、花1つ1つに命が宿っているように・・・。
・・・綺麗っちゃあ綺麗だよな。見事に満開。
最初は意識が無かった。
目を開くと、目の前に2人の影があった。
そこは真っ暗な部屋で、何もかもが終わっていた。
胸に残るのは、むなしさと後悔だけで。やりきれない思いだった。
手が伸ばされた。
こんな俺を救ってくれるような。
白く小さな手。
そして、ここまで連れて行かれた。
桜の満開な庭に。
ここにいる理由は家族との喧嘩からだ。
俺のことが嫌いだったんだ。両親は。
俺もあいつらが嫌いだったから、家にほとんど帰んなかった。
友達と遊んで、無茶やって。
「あんたの事、もう手に負えないわ・・・さっさと消えて」
俺はついに親に捨てられて、ここで暮らす事になった。
母親の親友の家に養子として引き取られた。
つまりこの女、音憂って奴の家。
音憂と俺は友達だったらしい。
俺は、所々記憶とんでるから、覚えてなかった。
何日が経っても、何年経っても俺は自分の名が分からないでいた。
だれも教えなかったし、知りたくも無かった。
俺はこの女と母親と暮らしていた。
何か違う、俺は違う存在だ。
他の奴らとは違う。
人とは違う・・・。
そんな確信はしていた。
*◆◇◆*
≪音憂≫
精霊君とはよく話すようになった。仲良く馴れたのかは分からないけど・・・。
私は精霊君のことを『キミ』って呼ぶようにしていた。
ついつい『シキくん』って言っちゃいそうになるけど。
精霊くんの名前はない。私には付ける権利なんてないし、精霊くんも名前なんてどうでもいいと言っていた。
お母さんは精霊君のことをレイ君って呼んでいる。
ふーむ、『せいれい』のれいからとっているんだよね。たぶん。
やるな、お母さん!ねーみんぐせんす抜群ですな。
よし!只今7時00分!起床の時間です!
「おはよー!」
あ、起きてたんだ。珍しい。
「…はよ」
わぁー。挨拶してくれた!これで465回中3回目の挨拶だー。
今日は、わんだふるな1日になるぞー!
「ってか勝手に部屋入ってくんなよ…」
「はっ、ごめんなさーい」
ついつい精霊くんを起こす癖がついてしまって。すいませんー。
そう言って私は扉をしめて、扉に寄りかかる。
ドガツツ!
いったぁー。扉が開いて頭に直撃する。
これは精霊君の癖で、私をからかってると思われます!
「とろい」
「むー。今度キミにもやってやるからな」
「やってみろよ」
軽く笑ってくれた。悔しいけど、やっぱり嬉しい。
…私、嫌われて ないよね・・・。
階段を下りるとお母さんが朝食の準備をしていた。
「おはよーです。お母さん」
「おはよう、音憂」
お母さんは精霊君に笑顔で「レイ君おはよう」と言った。
精霊君はいつものように呟くように挨拶した。
うん、大丈夫だよね。普通の家族みたいだよね。
もう、獅樹くんみたいに家族を失わせないから。
精霊だからって子供を捨ててしまった獅樹くんのお母さん。
きっと理由はたくさんあると思う。
精霊化してしまった息子に失望してしまったのかもしれない。
きっと疲れてしまったんだよね。自分にはこの子を愛せない、育てられないって思ったんだよ
ね。
精霊化してしまっている人は差別をうけやすいし、精霊化が進行してしまったら殺されてしまうから。
『華人』っていう団体の人達に・・・。
でも、捨てられた子供はもっと悲しいと思う。苦しいと思う。
精霊君は記憶を忘れてしまっているから、苦しくないかもしれない。
けど、どこかで分かっていると思う。傷ついていると思う。
私がみぞを埋めてあげたい。
でもそれは獅樹くんのためでも、精霊君のためでもなく、自分のために。
*◆◇◆*
やっぱり私、嫌われていたのかな。
私の大事な人形をぼろぼろに引き裂かれてあった。お父さんから買ってもらった人形。
お父さんはもういない。だからこれが最初で最後のプレゼント。
ピンク色のふわふわの兎人形。
今は綿がでて、目が取れている・・・。
泣かないよ、もう。
絶対、精霊君と仲良くなるんだ。
それから人が変わったように、精霊君は暴れだした。
きっと1番辛いのは精霊くん。
昔の事を思い出しているのかもしれない・・・。
両親に捨てられたなんて、私だったらたえられないよ。
「お前、気持ち悪い。うせろ」
――そっか…ごめんね
「…お前は綺麗じゃねぇよ。良い子ぶってんじゃねぇ。
気持ち悪いんだよ。とっとと失せろ!!」
――そう…だよ。私、綺麗なんかじゃないよ。良い子でもない…。
あなたが幸せになれるのなら、わたしを好きなだけ使って。
ぼろぼろに使っていいから。使い捨てで良いから。
――ただの あなたの道具です。
*◆◇◆*
それからは死が恐くなかった。何も恐いものがなかった。
精霊君が笑っていられるのなら、何でも努力した。
いつか、この想いが通じますように・・・。
――キミに力をあげよう。2つの力。ここまで音憂、頑張ったね。
ありがとうございます。
――そして、これからキミは大変なことに巻き込まれる。
え、そうなんですか…。でも…覚悟はしてます。
――生き抜いてみなさい、あなたの望むままに。
はい、私の意志を貫くまで負けません…。
神様…道しるべをありがとうございます。
読んで下さってありがとうございます!
音憂ちゃん頑張っています。
死を恐れる事が無くなった、と音憂ちゃん言っていますが、きっとそれぐらい彼を助ける意志が強いのだと思います。
この話の後半は8話の音憂ちゃん視点です。
次回は、音憂ちゃん『華人』と関わりをもちます。
大変な事に巻き込まれちゃいます。
神様が予想した通りにです。(笑)
次回も宜しければ見てください。^^