23・絶望の記憶
獅樹くん…獅樹くん…獅樹くん。
こわいよ。すごくこわい…。私はここにいないといけないんだって。
お父様もお母様も、みんな。誰一人助けてくれないよ。
ここで、生きなきゃいけないなんて…。
いやだよ…。
そんなのいやだよ。
大好きな獅樹くん。今でもこの気持ちは変わらないよ。
どこにもいかないで、私の傍にいてほしい。ずっと待っているから。
ひとりで、まっているから。
*◆◇◆*
懐かしい幼い声、頭の中で繰り返される。
そう、私の…音憂の声。
何で繰り返されるのだろう。これは罰なのだろうか。
愚かな答えを出した、私への。
鳴り続ける私の記憶。誰か止めて。声を止めて。
いや…いやなの。
何で、何で…。
死んでしまったら思い返さないといけないの…?
こんな記憶なんて、綺麗に消えてしまえばいいのに…。
*◆◇◆*
「獅樹くん最近体調が良くないみたいなのよ、心配だわ」
お母さんがそう言っていた。あ、そっか。
獅樹くんに最近会えなかったのはその理由だったんだ!
私は苺ジャムを塗ったトーストをほおばっていたのだけど、朝食を残して獅樹くんのお家に向かった。お母さんが私を呼んだけど、頭に入らなかった。
私は家を飛び出した!
そして息を切らすぐらい、私は走った。走るのは得意ではなかったし途中吐きそうになったけど、頑張って走った。
ふ…ぁ…シキく…ん、獅樹くん!
私は獅樹くんの家のインターホンを押した。
「…音憂さんですか、少々お待ちください」
獅樹くんのお付の人の声が聞こえた。オートロックの扉が開いた。
「どうぞ、お入りください」
いつもなら扉の前まで獅樹くんが来てくれるけれど。
体調が悪いだけなのかな?風邪なだけ?
でも、何だかとっても心配なんだ。私の気のせいでありますように。
「お邪魔…します」
私は靴を脱いで、部屋の中にお邪魔した。
目の前に、顔見知りの執事さんがいた。夜乃さんという人で、とても優しくしてもらっている人。でも、いつものにっこりとした笑顔は無かった。
「ふう…。どうしましょう」
獅樹くんのお母さんの声がした。
案内されたその部屋には、獅樹くんのお母さんがいた。
とても美しい人で、優しくて憧れの人。
でもいつものような、明るい表情は曇っていた。
――何かがあったんだ・・・。
私は予感を確信してしまっていた。何も告げられてはいないのに。
「お母様、こんにちは」
軽く私は礼をした。獅樹くんのお母さんは振り向いて、必死の笑顔を作ってくれていた。
苦しそうに、笑っていた。
「いらっしゃい。音憂ちゃん」
体中から絞ったような声。その声を聞くだけで心が痛かった。
「獅樹くんは、どうしたのですか?」
私は早く本当の事が聞きたくて、質問した。
やっぱり言いづらそうで戸惑っていた。ふと悲しみの目を私に向けて。
私に話しかけてくれた。
「あのね、獅樹は――もう……人間では無いの」
え・・・。
思考がとまった。体中の血液も凍りついたようだった。
死んでしまった?
?誰が?獅樹くんが?何で、どうして!
なにも言葉に出なかった。流れるのは涙だけ。
「ふっざけんじゃねぇーよ!」
あ・・・。
この声は、獅樹くんの声だ!良かった!死んでなんかなかったんだ!
私は声のする所へ走った。
良かった!会いたい、獅樹くん!
「獅樹くんっ」
私は扉を力いっぱい開けた。
ガチャッン――
重い扉が開いた音が鈍く聞こえる。
何もかもが遅く見える。時が停まった様に。スロー再生を見ているみたいだ。
黒と茶が混じった綺麗な髪。
私より少し高い身長。
獅樹くんだ!
つり上がった瞳、壊れてしまった人形のような顔。
絶望に酔いしれた、疲れきった顔。
物が散乱している部屋で暴れまわっている。叫び声が聞こえる。とても苦しくて辛い声。
…あなたは 誰?
‘ お別れは悲しくない、決して。 今 ここにあなたがいるから ,
「お誕生日おめでとう。音憂」
大好きな獅樹くん あなたの事は忘れない。
お読み下さってありがとうございます!
獅樹くんはもういなくなってしまいました。
彼は精霊化しました。ですが、精霊として音憂ちゃんと、これからどうやって関わるのでしょうか。
そして、彼には両親がいるのに、何故記憶喪失になって草むらの上に倒れていたのでしょうか?(一話参照)
これらの謎は、これから分かると思います!
次回も宜しければ読んでみて下さい。^^