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22・幸せの記憶

 ここはどこだろう?


 ――あぁ。そうだったね。私は生き抜いたんだよね。

 ふぅ、よかった。やっと終わったんだね。獅樹君も藍依ちゃんもお幸せに。

 心からお幸せを願っています…。


 少女は大きな樹にもたれかかる様に座っていた。その樹の周りには一面に芝生が広がっており、蝶が飛び交っていた。その場所はまるで天国のように優しい光が射していた。

 樹には綺麗な花が咲き乱れており、空は透明な青だった。


 少女はそこで唄をうたっていた。裏声で歌っていて綺麗で澄んだ声だった。

 その唄はかつて藍依と出会った時に一緒に歌った唄で、心を通わして歌った曲だった。


 この唄は華人として生きていった中で覚えた曲で、華人に誇りを持ち生きる、などの

 華人で代々歌われてきた唄。歌わなければいけない唄。

 この国に奉仕をする種族、機関として『華人』という名が付いた。

 自然を守り、草や花、樹などと同じ目線で接する種族。

 環境が悪化していったこの国では、重要な使命をもった者達だった。

 歌詞事態は音憂は好きではなかったが、曲のメロディーは気に入っていた。


 この唄をうたうと思い出すのだ。遠い昔を。


                  

 *◆◇◆*



 少女は駆け出す、大好きな友の所へ。今日は待ちに待っていた休日なのだ。

「獅樹くんっ」

 少女は可愛い声で少年の名を呼んだ。その声に気付き少年は振り返る。

 そしてにこっとお互い笑った。2人は昔からの幼馴染で、この自然が溢れるこの村には

 同い年位の子供は2人しか居なかったのだった。

 2人が今立っているのは獅樹の家の玄関の前で、その周りには花が咲いており、白い石で出来た踏み場を渡って、家の前から玄関まで行くのだ。

 音憂はひらひらとした柔らかい色合いのピンクのワンピース着ていて、髪には白と水色の造花の花のピンが刺さっている。

 音憂は獅樹の玄関の前に居るのだが、獅樹までの距離が遠い。

 なぜなら家の前から玄関までが100mはあるからだ。


 獅樹は深い灰色のスーツを着ていた。しっかりとネクタイもしており、紳士的な雰囲気をかもち出している。

 顔に幼さがあり綺麗な瞳をしていた。純粋な少年。女の子のような可愛らしい雰囲気はあるものの、凛とした強さも感じられ、大人顔負けの知識を持つ少年だった。


 獅樹の家はこの村一番のお屋敷だった。

 小さな村なのでたいした建物も無いが、その中でも獅樹の家は村に住んでいるとは思えない立派な住宅だった。

 2人は両親の了解がとれたようで、家から公園まで遊びに出かけた。先日から遊ぶ約束をしていたのだ。横に並びながら2人は歩いている。

 「獅樹くんスーツで大丈夫?暑くない?汚れちゃわないかな」

 眉を細めて、心配そうに獅樹の顔を見つめる。そんな心配している音憂に微笑んで獅樹は言った。

 「後々こっちの方が便利なんだ。そうそう。でさ、公園行った後に音憂と行きたい所があるんだ。少し遠いけどいいかな?」

 その言葉にきょとんとした表情を浮かべる。

 「…でもお母様達の了解とらなくて大丈夫かな」

 心細いような声で問い返した。

 「僕にまかせてよ。だって今日は音憂の誕生日だろ?ちょっと羽目はずすくらい、平気だよ」

 「はめを、はずす?」

 音憂は1人で唸る様に考え耽っていた。2人はまだ5歳だ。意味が分からなくてもおかしくない、むしろ知っている獅樹の方が変わっているのだ。


 いつものように公園のベンチに座った。そこでこの村名物のクレープを食べていた。

 クレープといっても卵は使っておらずに、秋にたくさん採れる胡桃をふんだんに使っている。

 狐色に焼けた、薄くもちもちとした食感が人気を博している。

 「苺おいし〜」

 ふにゃ〜とした表情で音憂は言った。そんな音憂を見るのが好きな獅樹は、嬉しそうに音憂を見ていた。

 「クリーム、付いてる」

 口の端に苺クリームが音憂に付いていた。クリームを指でとらずにぺろっと舐めた。

 「ふぇ。あ、ありがとぉー」

 まだ5歳のせいか、とくにその行動を気にしなかった音憂。

 ちょっと驚かそうとしたが、見事に失敗した少年、獅樹。

 (んー。恥ずかしがる音憂見たかったのにな…)

 逆に獅樹が恥ずかしくなってくる。獅樹は音憂が好きだったが、音憂は友達として獅樹が好きだった。純粋な恋心を抱いている少年だった。

 「ご馳走様でしたー。ありがとね、獅樹っ」

 にこっと笑いかける音憂。純粋な笑顔にどきっとする獅樹。

 「う、うん。音憂が喜んでくれて良かった」

 (くぁー。あの笑顔は反則だろ…)



 *◆◇◆*



 「ねぇねぇ、獅樹ここは?」

 見た事もない町並みに驚きを隠せない音憂。

 そこは人がたくさん賑わっており、建物や家などが続いて並んでいる。

 「すっごいねー」

 音憂は見慣れない所に来て少々興奮ぎみだった。

 「ここはぶどう酒で有名な街、シャワール。陽気な人達が多くて治安はいいって。

 音楽好きな人が多く、楽器職人がここで勉強しにくる場所なんだって。そもそも木管楽器の材料に使うヴェルアという樹が・・・」


 *只今勉強中・・・


 「ふえぇ。獅樹は物知りだねぇ。すっごいねー」

 「3分で覚える音憂の方がすごいと思うけどね」

 獅樹が話した内容を丸々覚えてしまっていた。1回話しただけで、音憂は安易できてしまう能力があった。

 音憂の能力には驚いてばかりだ。音憂と獅樹が始めてあった時、音憂が獅樹に話しかけた一言目が「獅樹くん、初めまして」だった。

 あった事もない少女に名前を言われて戸惑った獅樹。でも可愛らしい雰囲気や純粋な心はその時から変わっておらず、すぐに打ち解けた2人だった。

 街中を歩きながら2人は話していた。美男美女の2人(といっても子供だが)は周りの目線を

奪っていた。

 中には2人に敬意をしめしている人もいた。音憂は戸惑っていたが、獅樹は当たり前のように平然としていた。 

 そう、獅樹は世界の中でも有数な会社『魔輝石』を扱う大企業の社長の息子だったのだ。



 *◆◇◆*



 「音憂、誕生日おめでとう」

 その言葉と共に、扉が開かれた。扉の向こうは大きな個室となっており、執事が2、3人立って軽く礼をしていた。個室の中央にはガラス張りの何かが置かれていた。

 2人は近づき、ガラスに囲まれている何かを覗き見た。

 「わぁー。すごいねー」

 透明で薄いガラスから見えるのは、美しく輝く宝石だった。正しくこれは魔輝石という物で、身に付けた人の潜在能力を発揮する事ができるとても貴重なものだった。

 「父さんから了解をもらったんだ。『音憂ちゃんの誕生日なら、仕方が無いか』だってさ」

 「ふぇ。貰っていいの?」

 「うん、一個だけだけどね」

 一個だけでも丸がいくつ付くか分からない。

 「わ〜。ありがとー」

 音憂は魔輝石を眺めていた。その中で選んだのは、ピンク色の真珠の上にルビーで作られた薔薇がついている指輪だった。

 「かわいいーの、これ」

 飛びつくような勢いで獅樹に抱きついた。

 「本当に本当にありがとー!」

 可愛い声で何度も繰り返す。音憂にとってはこれが最高の誕生日になった。



 生涯で一番の宝物。だってキミがいてくれたから。


 いつからだろう、キミが離れていった日は。


 いつまでも、この時のキミの事は忘れないよ。




お読み下さってありがとうございます!

とりあえず、音憂ちゃんお疲れ様です。

彼女は使命をやり遂げました。


話の前の方で唄がでていますが、実は藍依ちゃんが何話かで歌っております。

この唄は2人の絆を表している歌です。

余談ですが、設定上では藍依ちゃんの方が歌が上手いです(笑)


そして音憂ちゃんの過去が出てきました。

村で暮らしていますが、裕福な所で暮らしています。

そして獅樹くん!いわずとしれた梓月の過去の過去です(笑)

精霊化する前の人間として、音憂ちゃんと幼馴染として関わっていました。(実は!)

その後に精霊化して、凶暴になってしまいますが・・・。

精霊化した彼と音憂ちゃんの話は、何話か前で出ています。

また凶暴化した彼が出てくるので、振り返ってみると繋がって面白いかもしれません(笑)


長くなってすみません・・・。

宜しければ次回も読んでみて下さい。^^


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