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20・お別れの日

輝く光は自分に目掛けて飛んできたはずだった。

多少の怪我ではすまない傷を負うはずだった。

しかし何とも痛みを感じない。

前を見ると自分の代わりにその痛みを受けた少女の姿が居た。

「藍依!」

死月は走り出した。藍依に近づいて体を揺する。

ぼろぼろになった服、頬には火傷の跡がいたるところにある。

藍依の白い肌からは、鮮明な血があふれ出している。

「お、お前!何してんだよ」

突然の出来事に死月が焦る。何故だか無性に胸がむかむかする。

――俺なんて必要されない存在なのに。何で俺なんかを庇うんだよ・・・。

「梓月、梓月・・・」

微かに動く唇。かすれても綺麗な声が死月に聞こえた。

「・・・あんま喋んなよ」

そう言うと、藍依はにこっと笑ったが、首を横に振った。

「死月…は精霊だけど。そんな事、関係ない…よ。梓月は私の大事な…友達だよ」

ぼろぼろになっても懸命に喋る姿、その言葉、その存在に梓月は救われた。

「・・・喋んなって、馬鹿」

消えそうな声で藍依に話しかけると、藍依の綺麗な髪を手で触った。

さらさらで梳かしても絡まる事の事ない綺麗な蒼い髪。

すると、髪を触る梓月の手を藍依は掴み、自分の頬に寄せた。

そうすると安心するかのように藍依は微笑んだ。

「私、思うの。天使様はあなたを殺せないって、きっと演技よ。音憂様の・・・」

藍依が喋り終わる前に、藍依は悲鳴をあげた。

藍依の体が痙攣していた。電気の魔法をかけられたのか、体が麻痺しているようだった。

――お喋りはもう終わりにしてもらっていい?

不満そうな声が響いた。

そんな声など構わず、梓月は藍依の額に手を付けた。

「・・・月夜に欠けし光、ここに集え」

梓月がそう言うと、溢れんばかりの光が藍依を包んだ。

その光は藍依の傷を癒すように、肌に溶けていった。

「……あなた光魔法も使えるの?」

梓月は藍依をゆっくりと地面に寝かした。

そしてふっと笑って天使の方を見た。

「光と闇を操る精霊、デス=ムーン。お前ならそんぐらい知ってんだろ。音憂」

ふと見せる惹き込まれるような優しい瞳に、天使はどきっとした。

死月は一歩一歩天使に近づく。

――!

動こうとしても動けない。彼に金縛りをかけられたようにぴくりと動かない。

「音憂、今度は俺の番だな」

そう言ってにっと笑うと、触れるはずのない天使の手を掴み、彼の首に触れさせた。

「・・・何が、したいの?」

微かに天使の手は震えていた。

「お前の好きにしろよ。煮るなり焼くなり、さ。音憂、今度は俺がお前を信じる番だな」


――キミが実現したい事…叶えてください。


幼い頃、音憂として生きていた頃の言葉。

その言葉をふいに天使は思い出した。

――今度は俺がお前を信じる番だな。

あの時の真似なのか彼は笑いながら言った。

「お前が実現したい事なら俺、手伝うからさ、全力でやれよ!」

そう言って、彼は目を瞑った。

彼は死ぬ覚悟をしたに違いなかった。

いや、死ぬ事は構わなかった。

彼女がそれで苦しみから解放されるのなら。

彼女の使命を成し遂げられるのなら。

彼女が幸せになれるのなら。


自分が受け入れてもらったように。


彼女にもそれができるのなら。


・・・


ぽたぽたと涙が落ちる。

彼は目を瞑っていたため、何が起こったか何も分からない。

「…馬鹿」

微かに聞こえる小さな声。

「我の望みを叶える為に、翼を汚して祈りを空に届けましょう…」


泣きながら彼女は歌いだした。

空遠くまで響き渡る歌声。切ない悲しみの旋律。

華が咲き乱れ・風が吹いて舞い上がり・空が揺れて希望の光を射し 


――天使がその歌声を 祈りにして神に届けるのでしょう――


…さよなら、獅樹シキ



ありがとう





――幸せに犠牲は付き物だから。


天使は光となり、光は宙に弾けた。

羽が舞う。華が舞う。


彼が次に瞳を開け、その世界を見た時には、天使は目の前からいなかった。


小さな少女。

華のように笑う桜色の少女はもういない。

翼を汚して、祈りを空に叶えたのだろうか。

溢れる抜け落ちた白い羽。

微かな涙の跡。

瞳を開け、彼が見えたのはそれだけ。



精霊の記憶を奪われた。


天使によって。


彼は 精霊の呪縛から解放された。



それは天使の願い。


1人の少女の願い。



少女 華の少女 華の天使 と関わった全て

嬉しくても 辛くても 泣きたいほど幸せな時も

彼には何もたった1つでも

もう

思い返すことはできなかった

あんなに救われた

彼女の笑顔さえ 彼の記憶から消え去ってしまっていた





――獅樹君。 ずっとずーっと 大好きだよ。

  音憂の傍にずっと居て下さい。それが私のお願い事です!






さよなら。 華の少女




お読み下さってありがとうございます!

華は元々こうなる事を望みました。

わざと演技をして、梓月に嫌われたかったんです。

自分を罵って欲しかったんです。

そうすれば、梓月とのけじめが付けられると思ったのだと思います。

ですが、梓月が本当の自分――音憂の事を守ろうという気持ちに揺れ動きます。

本当は嫌われたかったのに。悪者になりたかったのに。

それでも梓月は、華のことを信じたんです。

けれど決意は変わらず、結末は同じです。

結果は変わらなくても、華の心は満たされたのだと思います。


次回も宜しければ見てください。









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