表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/33

2・桜の少女

 青白い霧に包まれた世界。そこには白い花が咲き乱れている。

 微かな風が辺りを吹き渡り、風に揺れる小さな花を、月は照らしていた。

 水は一切濁りがなく、月を映し出していた。

 湖に映る月はとても美しく

 空に光る月は神々しい光を放っている。この世界にあるのは静寂と悲しみ。

 その気持ちを唄う1人の少女。

 長く真っ直ぐな蒼い髪。月に照らされると透けて光り綺麗な水色となる。

 長く細い髪は風にさらさら靡いてる。彼女の瞳は紺と空色のグラデーションのような色で、

 瞳はすぐに涙をながせそうなうるうるの瞳。潤いのあるピンク色の唇は、微かに動き

 音を紡いでいる。深き悲しみの詞を歌い、音色は声でないような癖の無い透き通った音。


 風に音をのせて、響き渡る。遠い遠い空に向けて――





  *◆◇◆*




 ぽかぽかと暖かいバンガローの中で青年は目を覚ました。

 「ふあ〜っと」

 起き上がって欠伸をする。布団から体を離し、軽い準備運動をする。

 「今日は待ちに待った体育祭だぜ!」

 彼は寝ぼけているらしい。ここが異国の事は忘れているようだ。

「玉入れ頑張んぞ〜」

 その年になって、その競技があるのだろうか?

 声が親父っぽいですな。個人種目で一番をとってやるぜ!というのならまだ分かるのだが…

 「…ん?なんだこれ!!」

 彼は目を丸くした。おや、やっと気付いたらしい。自分がどんな状況にいるのかが。

 「テレビがあんじゃん!」 

 そこなのか!というかやっと気付いたのか!中々大きいサイズのテレビなのだが。

 「ラッキー♪」

 そう言って彼はテレビのスイッチをいれる。ポチッとな。分かりもしない言葉が次々に耳に入る。  「・・・」

 彼はテレビのチャンネルを持ったまま、呆然としている。

 「あ そっか…俺。」

 下を向き俯く。

 「帰国静雄だったんだ…」

 それをいうなら帰国子女。あとキミはそんな設定では無いです。

 「これから頑張んねぇとな…」

 彼は表情を暗くして、声のトーンを低くして呟いた。

 「おれ、帰国静雄(しずお)として生きてくよ…」

 故に!そんな必要はないよ!というか静雄って誰だ――!



  *◆◇◆*




 「よっこらせっ」

 彼はバイト先を見つけたようだ。話も通じないのによく雇われたなぁ…

 肝心のその仕事は…

 「どうぞ。手紙っす。」

 郵便屋だった!!この国では排出ガスをできるだけ出さないように

 車がない。道路も無い。ほとんどの人は歩きか1輪車らしい…。自転車は無いのだろうか。

 それに携帯電話も普及していない為、手紙で相手に伝えるらしい。

 彼の今日のお届けする手紙は白い袋にどっさり入っている。

 その量ははんぱない数だ。

 彼はその袋を担いで走っている。

 常人だったら歩くことで精一杯だろう。

 彼の大きな白い袋をもって走っている姿が、冬のあの人を連想させる。 

 ヒント!煙突から不法侵入するあのお方ですヨ☆

 「次は…東区2丁めか」

 そして彼は軽くスルーして走り出した。


 「〜♪」

 鼻歌を歌いながら彼は走っている。もちろん郵便屋は彼の他にもたくさんいる。

 この国での郵便屋は持久力と地理能力が無いと駄目らしい。

 「この分かれ道どっちだっけな…」

 彼は分かれ道に遭遇した!

 1つは今までと同じような街が続いている道。

 もう1つは薄暗い森への道…狼の遠吠えも聞こえてくる。子供だってわかるさ!

 大丈夫大丈夫…ってええ!あいつ森の方向へ走っていった!なぜだ―――っ

 彼は方向音痴らしい―――っ!



 「ん?何か聞こえたような。」

 …気のせいですよ♪やっと追いつきました。ふう。

 彼は今まで通り何の迷いもなく森の奥深くへと進んでいる。ふくろうの声も聞こえてくる。

 「ん ミスったか?」

 あはは。ちょっと遅いっすね。

 彼は後ろを振り向く。

 「!?」

 彼は驚きを隠せない。

なぜなら、ずっと一本の道しか通っていなかったのに、後ろを振り返ると5つに道が分かれていたからだ。

 心臓がどんどん早まる。

 彼は現実を知る。

 自分はこの森で迷ってしまった。

 ここから出る事が出来るのだろうか。

 不安が心をよぎる。

 「どうなってんだ? これ。」

 ナレーションとは裏腹に彼は平然としている…おいおい。

 彼の苦痛な叫び声と同時にもう1つの声が聞こえた。

 「? 俺。叫び声なんて…」(強制終了♪)



 「郵便屋さん…こんばんは」


 彼が声の方向へ体を向けると、桜吹雪が舞っていた。桜の木なんてどこにもないのに。

 目の前には1人の少女。

 桜色の髪がとても綺麗で、紅い瞳によく栄える。

 大きい瞳を彼に向け、にっこり笑って彼を見る。

 彼はその笑顔に見覚えがあった。

 遠い記憶にあるあの子。その子がいたから今…


 「お手紙…貰えませんか?」


 大人っぽく、可愛い澄んだ声。その声に彼は体をびくっとさせた。

 自分より随分背の低い少女がてこてこと自分に近づいてきた。

 上目遣いで少女は彼をじっと見つめる。

 綺麗な顔に青年の心が少し揺れる。

 「…あのさ、手紙っていってもさ。キミ宛の無いんじゃ…」

 そう言いながら、彼は袋から多数の手紙を出した。

 その中からこの子宛のを探しだした。

 「キミ 名前は?」

 ちらっと少女を見る。少女は、はにかみながら視線を青年に向けた。

 「当ててみて下さいっ」

 「へ?」 

 「えへへ♪」

 初対面の相手に自分の名前を当てさせるなんて・・・。

 こ、小悪魔!?←(馬鹿)

 だが、言葉とは正反対に天使のような無邪気な笑顔を浮かべている。

 その笑顔に逆らえない彼。

 「・・・(汗)」

 すっかりペースを狂わされたらしい。

 「ん――そうだな・・・。」

 にこにこしながら待っている少女。

 「ん―――――。」にこにこ^^

 「ん――――――――――――――――――。」にこにこ^^



 4時間後…


 「…負けました。スイマセン。」

 ついに青年は諦めた。ふうとため息が漏れる。

 「謝らないで下さい…ですが、あの何か浮かびませんか?」

 めげてない少女。

 「…そんなに聞きたいの?」

 冷え切った目で少女を見つめる。

 自分の名前を当ててもらいたいなんて、不思議な子だなー。と思いながら。

 「はいっ!聞きたいです♪」

 まだまだ元気な少女。諦めが悪いのか、粘り強いのか。

 「じゃ…は」 

 「花子はちょっと手抜きです♪」 

 青年は肩を落とした。

 「…予知能力?」

 「はい♪」 

 「…へー。すげーな。」

 その後、彼は腕を組んで本気で悩み出した。

 名前…名前…。名前…?彼は身震いをした。

 何かの呪縛から解放されたように、自分を取り戻し、当たり前の事に気付いた。

 彼は彼自身の名前を忘れてしまっていた。

 住んでいた所も…。

 覚えている記憶は、この異国に来てから。


 そんな青ざめた青年の表情を少女は見ていた。不思議そうに悲しそうな表情で…

 彼の様子がおかしかった。震えていて血の気がないぐらい白い顔。

 「…何なんだよ。」

 彼は手を力一杯握り締めた。

 「何でだよ…。」

 青年の瞳から涙が流れた。

 その時、白い小さな手が彼の拳に触れた。


 「…何」

 触れた手を反射的に離し、彼は少女の顔を見た。

 少女は切ない表情を浮かべていた。

 「俺…何してんだろ。」

 小さく彼は呟いて、手で目を擦った。

 「何か変なとこ見せたな…ゴメンな。」

 彼は精一杯の笑顔で話しかけた。


 「何か俺おかしいんだ。記憶も何も無いしさ。何でここに居たかも分かんないしさ…もうどうすりゃいいって話だよな!」

 彼は一人話し続ける。

 「・・・ふ、はははっ」

 彼は感情が堪えきれずに、吹き出すように笑った。

 「…って何言ってんだ。俺。初対面の子にさ。」

 空元気になって、へへっと笑った。

 彼は取り乱した事を無くしたいようだった。

 軽く彼は自己嫌悪をしながら、青年は下を俯いた。

 微妙な空気が2人の間に流れる…。

 その空気を遮る様に少女は口を開いた。


 「その気持ち…分かるような気がします。」


 少女の言葉に青年は顔を上げた。

 自分の不確かで分けの分からない気持ちが理解…共感してもらえるとは、思いもしなかったから。

 「不安も…もどかしさも全部解決します。大丈夫です。…大丈夫ですよ。」

 青年を落ち着かせるように優しく言った。

 「え…と。 実は」

 少女は照れながら指を動かして、挙動不審に言った。

 「私…こう見えても未来予知能力と過去透視能力があるのです…っ!」

 「へ?」

 突然の言葉。

 そんな力って存在するのか?と彼は思った。

 でも、まあ今俺がここにいる事だって不思議なわけだしなぁ・・・。

 彼は少し驚きながら、精一杯に話す少女の姿が面白くて、ふっと笑った。

 その後青年は、頭を掻きながら笑って言った。

 「へぇ、マジで。」

 こくこくと少女は頷く。

 「何か…サンキュ。元気付けてくれてんだろ。」

 「あ……。」

 「お前の透視能力で見えるような未来になってっといいけどな〜」

 青年の自然な笑顔に少女は心が動いた。

 でも少女には分かる、青年の心が暗闇に堕ちているのを。

 自然のような、無理している笑顔。他人に隠している心を。


 ――救いたかった…君の心を

 

 「…私は分かるのです…っ!あなたのお名前を。あなたが誰なのかも。」

 何かを伝えたい事があるのか、早口になりながら必死に喋りだした。

 「記憶は…ゆっくり思い出せばいいと思います。」

 少女の綺麗な紅い瞳に涙が溜まる。

 何故そんなに、彼に構うのだろう。

 「焦りは禁物です…。」

 跪いている彼の頭を少女は撫でていた。

 優しく・・・愛しく・・・。

 この子の存在は昔から心の支えだった。

 青年は幼い頃に戻ったように、少女に強く抱きしめられていた。

 「え…」

 「…あなたのお役に立ちたいです。」




お読み下さってありがとうございます!!

次回は蒼い髪の女の子が出ます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ