2・桜の少女
青白い霧に包まれた世界。そこには白い花が咲き乱れている。
微かな風が辺りを吹き渡り、風に揺れる小さな花を、月は照らしていた。
水は一切濁りがなく、月を映し出していた。
湖に映る月はとても美しく
空に光る月は神々しい光を放っている。この世界にあるのは静寂と悲しみ。
その気持ちを唄う1人の少女。
長く真っ直ぐな蒼い髪。月に照らされると透けて光り綺麗な水色となる。
長く細い髪は風にさらさら靡いてる。彼女の瞳は紺と空色のグラデーションのような色で、
瞳はすぐに涙をながせそうなうるうるの瞳。潤いのあるピンク色の唇は、微かに動き
音を紡いでいる。深き悲しみの詞を歌い、音色は声でないような癖の無い透き通った音。
風に音をのせて、響き渡る。遠い遠い空に向けて――
*◆◇◆*
ぽかぽかと暖かいバンガローの中で青年は目を覚ました。
「ふあ〜っと」
起き上がって欠伸をする。布団から体を離し、軽い準備運動をする。
「今日は待ちに待った体育祭だぜ!」
彼は寝ぼけているらしい。ここが異国の事は忘れているようだ。
「玉入れ頑張んぞ〜」
その年になって、その競技があるのだろうか?
声が親父っぽいですな。個人種目で一番をとってやるぜ!というのならまだ分かるのだが…
「…ん?なんだこれ!!」
彼は目を丸くした。おや、やっと気付いたらしい。自分がどんな状況にいるのかが。
「テレビがあんじゃん!」
そこなのか!というかやっと気付いたのか!中々大きいサイズのテレビなのだが。
「ラッキー♪」
そう言って彼はテレビのスイッチをいれる。ポチッとな。分かりもしない言葉が次々に耳に入る。 「・・・」
彼はテレビのチャンネルを持ったまま、呆然としている。
「あ そっか…俺。」
下を向き俯く。
「帰国静雄だったんだ…」
それをいうなら帰国子女。あとキミはそんな設定では無いです。
「これから頑張んねぇとな…」
彼は表情を暗くして、声のトーンを低くして呟いた。
「おれ、帰国静雄として生きてくよ…」
故に!そんな必要はないよ!というか静雄って誰だ――!
*◆◇◆*
「よっこらせっ」
彼はバイト先を見つけたようだ。話も通じないのによく雇われたなぁ…
肝心のその仕事は…
「どうぞ。手紙っす。」
郵便屋だった!!この国では排出ガスをできるだけ出さないように
車がない。道路も無い。ほとんどの人は歩きか1輪車らしい…。自転車は無いのだろうか。
それに携帯電話も普及していない為、手紙で相手に伝えるらしい。
彼の今日のお届けする手紙は白い袋にどっさり入っている。
その量ははんぱない数だ。
彼はその袋を担いで走っている。
常人だったら歩くことで精一杯だろう。
彼の大きな白い袋をもって走っている姿が、冬のあの人を連想させる。
ヒント!煙突から不法侵入するあのお方ですヨ☆
「次は…東区2丁めか」
そして彼は軽くスルーして走り出した。
「〜♪」
鼻歌を歌いながら彼は走っている。もちろん郵便屋は彼の他にもたくさんいる。
この国での郵便屋は持久力と地理能力が無いと駄目らしい。
「この分かれ道どっちだっけな…」
彼は分かれ道に遭遇した!
1つは今までと同じような街が続いている道。
もう1つは薄暗い森への道…狼の遠吠えも聞こえてくる。子供だってわかるさ!
大丈夫大丈夫…ってええ!あいつ森の方向へ走っていった!なぜだ―――っ
彼は方向音痴らしい―――っ!
「ん?何か聞こえたような。」
…気のせいですよ♪やっと追いつきました。ふう。
彼は今まで通り何の迷いもなく森の奥深くへと進んでいる。ふくろうの声も聞こえてくる。
「ん ミスったか?」
あはは。ちょっと遅いっすね。
彼は後ろを振り向く。
「!?」
彼は驚きを隠せない。
なぜなら、ずっと一本の道しか通っていなかったのに、後ろを振り返ると5つに道が分かれていたからだ。
心臓がどんどん早まる。
彼は現実を知る。
自分はこの森で迷ってしまった。
ここから出る事が出来るのだろうか。
不安が心をよぎる。
「どうなってんだ? これ。」
ナレーションとは裏腹に彼は平然としている…おいおい。
彼の苦痛な叫び声と同時にもう1つの声が聞こえた。
「? 俺。叫び声なんて…」(強制終了♪)
「郵便屋さん…こんばんは」
彼が声の方向へ体を向けると、桜吹雪が舞っていた。桜の木なんてどこにもないのに。
目の前には1人の少女。
桜色の髪がとても綺麗で、紅い瞳によく栄える。
大きい瞳を彼に向け、にっこり笑って彼を見る。
彼はその笑顔に見覚えがあった。
遠い記憶にあるあの子。その子がいたから今…
「お手紙…貰えませんか?」
大人っぽく、可愛い澄んだ声。その声に彼は体をびくっとさせた。
自分より随分背の低い少女がてこてこと自分に近づいてきた。
上目遣いで少女は彼をじっと見つめる。
綺麗な顔に青年の心が少し揺れる。
「…あのさ、手紙っていってもさ。キミ宛の無いんじゃ…」
そう言いながら、彼は袋から多数の手紙を出した。
その中からこの子宛のを探しだした。
「キミ 名前は?」
ちらっと少女を見る。少女は、はにかみながら視線を青年に向けた。
「当ててみて下さいっ」
「へ?」
「えへへ♪」
初対面の相手に自分の名前を当てさせるなんて・・・。
こ、小悪魔!?←(馬鹿)
だが、言葉とは正反対に天使のような無邪気な笑顔を浮かべている。
その笑顔に逆らえない彼。
「・・・(汗)」
すっかりペースを狂わされたらしい。
「ん――そうだな・・・。」
にこにこしながら待っている少女。
「ん―――――。」にこにこ^^
「ん――――――――――――――――――。」にこにこ^^
4時間後…
「…負けました。スイマセン。」
ついに青年は諦めた。ふうとため息が漏れる。
「謝らないで下さい…ですが、あの何か浮かびませんか?」
めげてない少女。
「…そんなに聞きたいの?」
冷え切った目で少女を見つめる。
自分の名前を当ててもらいたいなんて、不思議な子だなー。と思いながら。
「はいっ!聞きたいです♪」
まだまだ元気な少女。諦めが悪いのか、粘り強いのか。
「じゃ…は」
「花子はちょっと手抜きです♪」
青年は肩を落とした。
「…予知能力?」
「はい♪」
「…へー。すげーな。」
その後、彼は腕を組んで本気で悩み出した。
名前…名前…。名前…?彼は身震いをした。
何かの呪縛から解放されたように、自分を取り戻し、当たり前の事に気付いた。
彼は彼自身の名前を忘れてしまっていた。
住んでいた所も…。
覚えている記憶は、この異国に来てから。
そんな青ざめた青年の表情を少女は見ていた。不思議そうに悲しそうな表情で…
彼の様子がおかしかった。震えていて血の気がないぐらい白い顔。
「…何なんだよ。」
彼は手を力一杯握り締めた。
「何でだよ…。」
青年の瞳から涙が流れた。
その時、白い小さな手が彼の拳に触れた。
「…何」
触れた手を反射的に離し、彼は少女の顔を見た。
少女は切ない表情を浮かべていた。
「俺…何してんだろ。」
小さく彼は呟いて、手で目を擦った。
「何か変なとこ見せたな…ゴメンな。」
彼は精一杯の笑顔で話しかけた。
「何か俺おかしいんだ。記憶も何も無いしさ。何でここに居たかも分かんないしさ…もうどうすりゃいいって話だよな!」
彼は一人話し続ける。
「・・・ふ、はははっ」
彼は感情が堪えきれずに、吹き出すように笑った。
「…って何言ってんだ。俺。初対面の子にさ。」
空元気になって、へへっと笑った。
彼は取り乱した事を無くしたいようだった。
軽く彼は自己嫌悪をしながら、青年は下を俯いた。
微妙な空気が2人の間に流れる…。
その空気を遮る様に少女は口を開いた。
「その気持ち…分かるような気がします。」
少女の言葉に青年は顔を上げた。
自分の不確かで分けの分からない気持ちが理解…共感してもらえるとは、思いもしなかったから。
「不安も…もどかしさも全部解決します。大丈夫です。…大丈夫ですよ。」
青年を落ち着かせるように優しく言った。
「え…と。 実は」
少女は照れながら指を動かして、挙動不審に言った。
「私…こう見えても未来予知能力と過去透視能力があるのです…っ!」
「へ?」
突然の言葉。
そんな力って存在するのか?と彼は思った。
でも、まあ今俺がここにいる事だって不思議なわけだしなぁ・・・。
彼は少し驚きながら、精一杯に話す少女の姿が面白くて、ふっと笑った。
その後青年は、頭を掻きながら笑って言った。
「へぇ、マジで。」
こくこくと少女は頷く。
「何か…サンキュ。元気付けてくれてんだろ。」
「あ……。」
「お前の透視能力で見えるような未来になってっといいけどな〜」
青年の自然な笑顔に少女は心が動いた。
でも少女には分かる、青年の心が暗闇に堕ちているのを。
自然のような、無理している笑顔。他人に隠している心を。
――救いたかった…君の心を
「…私は分かるのです…っ!あなたのお名前を。あなたが誰なのかも。」
何かを伝えたい事があるのか、早口になりながら必死に喋りだした。
「記憶は…ゆっくり思い出せばいいと思います。」
少女の綺麗な紅い瞳に涙が溜まる。
何故そんなに、彼に構うのだろう。
「焦りは禁物です…。」
跪いている彼の頭を少女は撫でていた。
優しく・・・愛しく・・・。
この子の存在は昔から心の支えだった。
青年は幼い頃に戻ったように、少女に強く抱きしめられていた。
「え…」
「…あなたのお役に立ちたいです。」
お読み下さってありがとうございます!!
次回は蒼い髪の女の子が出ます。