19・消えゆく少女
前には天使、後ろは精霊に挟まれて藍依は選択を迫られていた。
裏切られた心はひどく傷ついていた。
――あなたを利用するためよ・・・
その言葉を思い返すたびに、体が震え、心が痛む。
でもその心を閉ざすように、目を瞑る。
裏切られた・・・なんて言っちゃ駄目だよね、だって、それは信じた私の責任だから。
うん・・・平気!
藍依は前を見据えた。
どっちの味方になるかなんて、そんな事決まっているじゃない。
藍依は前に向かって歩き出す。
ずっと尊敬していて憧れを持っていたあの人の所へ。
「…天使様ではなく、音憂様の為に協力させてもらいます」
藍依は、華人を見る時と同じように尊敬した眼差しで天使を見つめた。
そんな藍依を天使は馬鹿みたいにみつめた。
「邪魔なんだけど、ま 好きにしたら」
「…ありがとうございます」
藍依は低い声で答えると、腰に巻いていた鞘から切れ味のよい長い、シンプルな
剣を取り出した。
見なくても感じる、この感じ・・・。
藍依は剣を構えると、きっと前を見つめる。
遠くから見えても存在感が薄れない、死神のような存在。
今までの梓月とは全く違う人物になっていた。
死月の出す禍々しい気に、藍依は背筋がぞっとした。
「あんなもんじゃないわよ、精霊デス=ムーンの力は」
天使は全く怖気づいてない表情、声で藍依に話しかけた。
「はい…分かりました」
そう答える内に、一瞬で天使は飛び立つような速さで精霊に向かった。
そして桜色の剣を死月に向かって振りかざす。
首元を狙ったその剣は勢いを増す。
――ぱしっ
「…!」
「甘んだよ」
死月は軽々とその剣を素手で掴んだ。
その瞬間に、天使は華やかな閃光をだして死月に打ち付けた。
燃えるような音が響き渡る。死月の腕に当たったようで、火傷のような跡が付いていた。
死月は腕をぱっぱと手で払うと天使を睨み付けた。
「なんだ?そのインチキ魔法」
「インチキ魔法なんて呼ばないで、あなた撃退用に開発した聖光魔法よ」
「ふ〜ん。普通の魔法なら俺にかすり傷1つ付けられないはずだしな」
そう言って桜色の剣を手で握り締めて割った。
「これで剣は意味ねぇって分かったな」
にやっと笑うと、今度は死月の手のひらから蒼い光の玉が現れて剣の形に変化していった。
蒼く細長い剣、氷のように冷たく鋭い剣だった。
「かすると凍傷すっから」
そう平然と言って、天使に向かって剣を向け、左肩から斜めに剣を振りかざした。
――スカツ
「あ?」
切り付けた感触がない。手に残るのは空気を切った感触だけだった。
剣は確かに当たった筈だった。
天使はくすくすと笑い出す。
「言ったはずでしょ?私は人工天使って。聖霊と人の魂を融合したものだって。
私にかすり傷1つ、あなたは付けられないのよ」
細い瞳で死月を睨む。
「・・・ふざけんなよ」
「冗談なんか言って意味があるとは思えないでしょ」
そう言って、手のひらから再び華やかな閃光を生み出した。
「特大のお見舞いするね♪」
天使はにこっと笑う。
詠唱をやめさせる事はできない・・・となれば魔法防御をするしかない。
蒼暗い闇のような霧が死月を包む。
「これで、あれ防げっかな・・・」
自信の無い声で呟く。
聖光魔法は死月の大の苦手とする魔法だった。
薄暗い霧を纏っている牲で微かにしか見えないが、天使は半径10mはある巨大な
閃光の光を抱えていた。
「生きるか死ぬか半々だな」
そう言って体に懇親の力を入れた。
ゆっくりと巨大な光が近づいて来る。
「さよなら、死月」
にっこと笑って死月に向かって手を振る。
寸前の所まで光と霧が近づいた。
――ドシャアアン
激しい音が周りに高らかに響いた。
しかし痛みは全く感じない、目を開き前を見る。
「・・・」
目の前には信じられない光景があった。
蒼い綺麗な長い髪。
ぼろぼろになった少女がそこに倒れていた。
「藍依!」
お読み下さってありがとうございます!
天使さん。攻撃を受けないなんて…ずるい!(笑)
藍依は大丈夫でしょうか?
微妙な心境で迷う彼女です。
次回も宜しければ見て下さい!^^