17・桜の堕天使
――音憂…は私が人として生きていた頃の名前…です
華の透き通った声が辺りに響く。
ざわっと風が吹いて、周りの森が揺れた。
戸惑いながら華を藍依は見詰めた。
「人だった頃……とはどういうことですか?」
藍依は不安を感じながら言葉にした。
華人様が人間ではない・・・?
大きな紅い瞳、綺麗な桜色の肩までの長さの髪。
幼い顔立ち、低い身長。
華は見かけから、何もかも人間そのものだった。
華の言葉に反応するように、黒眼だった死月の瞳が段々と蒼くなった。
夜の闇ような深い蒼だった。
「音憂……お前」
ありえないものを見るように死月は、華を見つめた。
ざっと鮮明に記憶が蘇ってくる。記憶は全て戻したはずなのに。
震える拳を握り声に出した。
「死んで…たのか」
辺りが凍りついたように、固まりついた。
華は顔を俯いて頷いた。
「……うん、そうだよ。思い出した?」
そう言って、にっこり笑う。
「あなたが私を思い出したという事は、やっぱりあなたが本当のキミなんだ」
見た事もない冷たい瞳で、死月の顔を覗くように見つめる。
「黒髪だった頃のきみは偽り…なんだよ」
可愛くもあるが恐ろしい表情で華は言った。
「記憶障害・短命症……覚えている?一緒に病院に行った時、キミが宣告された病気、いや呪いなんだけどね」
紅い瞳を大きく開いて、静かに言葉に出した。
「私が呪いを、かけたの」
くすくすと笑い出す。見た事のない表情で。
悪魔のような笑顔で。
突風が吹き荒れる。
一瞬の内に桜が舞い、辺りは白く光りだした。
眩い光の牲で藍依は咄嗟に目を瞑った。
・・・
風が止まり、光が弱まった様子だったので、藍依は瞑った瞳を開いた。
そこには、気高く桜風に吹かれる女性がいた。
髪は腰までのストレートで、桜色の髪。
背中から生える、白い翼。
それは天使そのものだった。
天使は死月を見つめて話し出した。
「死月…きみは言った。私を守る為に彼はいなくなった と」
死月は疑るような瞳で天使を睨む。
「ああ…だから?」
天使は口元だけにっこりとする。
「黒髪のキミも今のキミも同一人物…だよ」
一瞬の内に血の気が失せ、彼は呆然した。
「違う!あいつが俺に頼んだんだ!華を守ってくれって!
俺は違う!あいつとは違う!あいつは人間、俺は精霊 デス=ムーンだ!」
壊れたように、死月は叫んだ。
息は荒く、肩で呼吸している。彼は心が乱されていた。
そんな死月を馬鹿にするように笑う。
「じゃあ、証拠は?あなたと黒髪の青年との違い」
彼は言葉が出なかった。記憶を思い出す内に、勝手に自分が1人芝居をしていた気分になっていく。
「……」
「あなたの髪が黒髪だったのは、私があなたの精霊力を奪ったから♪
今は精霊力が開花されているから金髪なの♪」
「……」
「なぜ、あなたの精霊力を奪ったかと言うと、精霊の力はこの星を一瞬で壊すほどの力を持っているから!
そして私、華人は2つの顔を持っているの。
前にも言ったように、華…つまり花、樹、草。自然を守る団体として活動としている顔。
もう1つの顔は、この星を精霊から守る…精霊を駆除する団体なの!
キミみたいに幼き頃に悪霊に取り付かれて、完全に悪霊に寄生された者の事を精霊と言うの♪
精霊となった者でも、呪いをかければ大体記憶を忘れて人間として生きていけるんだけど
きみは駄目だったみたい!危ないから早めに駆除しないとね♪
もう呪い、つまり精霊力を奪う事はできないから覚悟して下さいね!」
天使は説明を終えると、ひらひらと舞う桜を手で握った。
そして手を開いて息を吹きかけると、光り輝く日本刀のようなものになった。
鋭く綺麗な桜色の剣。
それを片手で握り締めると、にっと笑った。
「記憶を思い出さなければ…生きていられたのにね」
天使は剣を持って走り出した。
お読み下さってありがとうございます!
なんと華が天使になりました。
天使というよりも悪魔みたいですけど(笑)
華はどういう過程で天使となったのでしょう?
華の過去は次回書く予定です。
次回も宜しければ見てください。^^