16・真実の名
賑やかな笑い声が聞こえる、明るい雰囲気のレストラン。
そこでは美味しい料理を楽しむ事ができた。
朝から豪勢な料理が並んでおり、バイキング形式となっている。
綺麗な景色が見渡せる窓側のテーブルで、3人は食事をしていた。
「華人様。ここの料理はとても美味しいですねっ」
「はい。すごく美味しい…です」
ホットケーキを美味しそうにほうばりながら華人は答えた。
ふわふわの触感のスポンジに甘い蜜とバターをつけて食べている。
贅沢な味わいで、ほっぺが落ちそうである。
「・・・」
信じられないものを見るように藍依は彼…死月を見た。
「?…なんだよ」
「すっごい意外!梓月が甘党なんて!」
ああ、と思い出すように華も喋りだす。
「そういえば甘党でしたよね♪」
彼は口に運ぼうとしたフォークをお皿に置いた。
「…いいじゃねーか、別に」
顔を少し赤くして、ぶすっとしたような表情になる。
彼のお皿には、色とりどりのデザートが一面に置いてある。
「あははっ!お皿によそる時恥ずかしくなかった?絶対周りの人、驚いていたよー」
とても可笑しそうに藍依が笑う。
「…俺はお前の性格の変わりように驚いたけどな」
「なにおー!あんただって金髪になってから口悪くなってんじゃん!」
「俺は理由があって性格が元に戻っただけだし」
「ずるい!記憶喪失の牲にするなんて」
「…俺だってなりたくてなった訳じゃねえし」
険悪な雰囲気が漂う。
あわわ。2人の関係が危ない・・・?
そんな2人の会話を聞いて、話題を変えようとした華。
「そ、そういえば、なぜ藍ちゃんはシズキと呼んでいるのですか」
いつのまにかにシズキという名が定着している事に疑問を抱いた。
華は藍依にも彼が精霊に乗り移られている事を、知っていると思ったからである。
「あぁ。そっちの死月じゃなくて、こいつが俺に仮の名をつけてくれたんだ」
死月=梓月・・・発音が同じな訳です。
ずずっと甘いミルクティーを飲んで死月が答えた。本当に彼は甘党です。
「なんでシズキという名前なんですか?」
「あのですね♪何かあるたびに彼が静雄にこだわるので、そんなに静雄が好きなら似たような名前にしてあげよう!と思いまして、シズキという名前にしました」
「…そういえば静雄さんってよく耳にするお名前ですよね」
「そうですね…誰なの?梓月」
ぱりぱりとチョコクッキーを食べながら答える。
「?よく分かんね」
「「・・・」」
本人すらよく知らない名前…。
食事を終え、ホテルから出る時に藍依が華に話しかけた。
「あの、華人様。次はどちらに向かうのでしょうか?」
「んー。そうですね……あ、そういえば前行こうとしてた場所がありましたよね」
藍依は首を傾げて思いだそうとする。
「あ!不良にからまれて行けなかった場所ですね」
☆彼がぶっとばした牲で樹が破壊された、あの場所です。
「音憂はすげーな、樹とか復活できてさ」
彼が口にした何気ない言葉。
「梓月…ネウって誰?」
・・・
――音憂…音憂!
華は遠い昔を思い出した。
少女は振り返る。
――僕、音憂を守りたいから、僕は護衛士になるって決めた…決めました。
なにやら、馴れない言葉で話す少年。
少女は少年の言葉に目をまるくする。
――びっくりしたよ。…急に言葉遣いが変わって。
照れくさそうに少年は喋りだす。
――だって護衛士は主人に敬語で話すだろ?それに、ただでさえ音憂は誇り高い華人になるんだから敬語の方がいいと思って。
少年の言葉に少女はくすっと笑う。
――あははっ。言葉遣いもどってるよ。
少女の言葉にカチンときたかのようにきつい口調になった。
――…これから勉強すんだよ!
その表情を見れて少女はほっとしたようだった。
――そっちの方がキミらしいよ。
にこっと笑って少女は言った。
「音憂…は私が人として生きていた頃の名前…です」
華は藍依に向かって答えた。
華には疑問が浮かんだ。
なぜ精霊さんが私の本当の名を知っているの・・・?
お読み下さってありがとうございます!
華の過去を知っている死月。
いつから梓月に乗り移っていたのでしょうか。
それとも他の理由が…?
次回も宜しければ見てください。^^