14・異なるキミ
夜が深け朝になった。
その日は曇り空で、風が重く少し肌寒い日だった。
昨夜、3人は別々の部屋で時を過ごした。
隣り合わせた3つの部屋の1つから唸り声が聞こえた。
その声はもがく様な声で、叫び声にも聞こえた。
彼…梓月はふらふらと重い足取りで、部屋を出た。勢いよく扉が閉まる。
梓月は首を抑えて咽ると、ゆっくりと扉に寄り掛かった。
吐く息は白く、顔は赤い。苦しそうな表情を浮かべている。
「……華」
少しずつ寄りかかっていた体が落ちて、床に体を落とした。
*◆◇◆*
大きい紅い瞳が彼を見つめる。
「大丈夫…ですか?」
心配そうな表情、よく見ると瞳が潤んでいる。
彼はベッドに横たわった重たい体を起こして、深いため息をつくと顔を俯かせた。
「華…俺どうなってる?」
「ふえ?」
華はいきなりの質問に首を傾げた。
そして、まじまじと梓月を見つめる。
「いつも通りですよ」
「…そっか、」
ほっと安心したような表情になる。
その姿を見て不思議に思った華は彼に近づいた。
華の白い手が、彼の額に触れる。
「熱…あります」
「ん、でも大丈夫」
梓月はにっこりと笑う。
「…隠しています」
「へ?」
「私にはもう、あなたの心は読めません…」
華の目の色が変わり、虚ろな瞳になる。
「あなたが完全に変わってしまったから」
悲しげな瞳で華が言った。
「……?」
意味深な発言に梓月は目を細めた。
「俺が変わったって…記憶を取り戻しただけだろ?」
華は無言で首を横に振った。
「正直に…言います。あなたは今までのあなたと違う…」
梓月は軽く笑って言った。
「何言ってんだよ。俺は俺だって」
華は静かに息を吐いた。
「闇夜に生きる精霊…
『死月』デス=ムーン…ですよね」
梓月は目を大きく開いた。驚きを隠せずしばらく硬直したようだった。
そして口元がにやりと緩む。
「なんだ…もう分かったのか」
クスクスと笑って華を見つめた。
「さすが華人の姫…いや、天使様」
冷たく鋭い目が、華を睨む。
「…彼を、返してください」
華は怖気ずにひたむきな瞳で見つめ返した。
そんな華を見て、彼はつまらなそうにゆっくりとベッドから降りると、立ち上がって喋りだした。
「こいつ自身が俺を受け入れたんだ、あいつはもういない」
ふん、と言うような態度、彼の手が華の首に触れた。
「お前を守れる力が欲しいためにさ、こいつは自分を売ったんだよ。知ってたか天使様?」
「…!」
「可愛いお嬢様。守ってやるから安心しろって」
そう言って華の手をとって手の甲に口をつけた。
「や…めて」
ばっと手ではじく。
「本当なの?」
「天使様なら見えてたんじゃないか?こいつの未来ぐらいさ」
「暗い空…満月しか見えなくて、何を意味しているのか分からなかった。
黒い月は夜の精霊を意味とする…それだけしか」
華は体の震えが止まらなかった。
時分の牲で大切な人を失うとは思っていなかったから。
目の前にいるのは、彼とは似ても似つかない冷たい瞳の青年だった。
彼の優しく笑った姿と異なる、あざ笑うような表情。
「ま、それがこいつの人生だ。光を失い闇に染まる…お前を守るためにさ」
にっと笑う。その言葉は華の心を深く刺した。
「私の…牲で」
震える体をおさえてきゅっと拳をにぎる。
しかし、涙は流さずに心が絶望に呑まれていった。
読んで下さってありがとうございます!
梓月が完全に乗り移られてしまいました。
彼はどうなってしまったのでしょう。
代わりに死月が大暴れします!
次回も宜しければ見てください。^^