12・光る海
「・・・」
彼は地面にしゃがみこんでいた。
彼の視界に映るのは、倒れている男達と紅い血。
自分の手を見ると、紅く染まっていた。
藍依は彼の後ろに立って、彼の姿を心配そうに見ていた。
「藍依・・・俺、何してた?」
その声に反応して、藍依が言葉を発した。
「私と華人様を守って下さいました」
そう言いながら、藍依は彼に近づいた。
「傷、深いと思います・・・病院にいきましょう」
しばらく沈黙した後に、彼は微かに頷いた。
「華…は?」
「華人様も心配です。ですが、その前にご自分の体を・・・」
彼の腹部から紅い血が流れ出している。
血と痛みが彼を刺激する。覚醒していく。
目の瞳がだんだん濃くなっていく。
――いやぁ・・・!やめてえ・・・っ!
紅い血、横たわる少女
何もできずに、されるがまま
届かなかった想い、冷たい体。
何もかもが遅かった、時を戻すことはできない。
「俺は平気だ」
鋭い瞳で藍依を見つめる。
「あいつを・・・守らなきゃいけないんだ」
彼は走り出した。痛みなんて、傷なんて無いかのように。
*◆◇◆*
一面の水。潮の音。
海辺に華人は居た。儚げに海を眺めていた。
辺りは日が落ちて、橙色に染まっている。綺麗な海辺に、風が優しく吹き渡る。
「見つけた」
華は、はっと息を呑む。
振り返ると、夕日に照らされる彼が居た。金髪が風に靡いている。
「・・・来ないで」
「いやだ」
華人に近づき、ぐっと腕を掴む。
「何でだよ」
強い瞳で彼女を見つめる。華人は顔を背ける。
「もう、遅いんだよ」
消えそうな声で呟く。
「何が」
「駄目なんだよ・・・」
ぽろぽろと涙が落ちる。
「・・・そんな事言われても分かんねぇんだよ」
彼はふうとため息をつく。
「お前の悪い癖だぜ?はっきり言えっての」
そう言って指で華人の涙を拭った。
その行動に驚いて、華が彼に目を向ける。
紅い瞳が涙で潤んでいる。
「泣き虫なとこ、変わってねぇな。お前」
優しい瞳。穏やかな表情。昔の記憶と重なる。
優しくて強い君。弱い私を君だけは、守ってくれていた・・・
「馬鹿・・・」
「は?」
上目遣いで彼を睨みつける。
「・・・になんか、会いたかくなかったんだからぁ…」
泣きながら華は喋り出した。
「ばかぁ…ばかぁ」
ぽかぽか彼を叩く。
「忘れないでよ…悲しかったんだからぁ…」
ふっと彼は笑った。
「…ごめんな」
ぽんと華の頭に手をのっけた。
*◆◇◆*
神様…。
私、もうわがままいいません。
許されなくてもいい。
前みたいに戻れなくてもいい。
彼を苦しませる事になっても、彼を奪われたりなんかさせない。
彼を無くしてしまったら、私はこの世界を全力で守ります。
私…天使の宿命は受け入れています。
だから、
その日が来るまで。彼と笑って過ごしていたいです。
ずっと、ずっと。
お読み下さってありがとうございました!
華が、彼に心を開いたようです。
心を開くのを早いですかね・・・。
そのくらい昔に、彼と仲良かったのだと思います。
この回から、華が前向きになってきたと思います。
華人の話す天使とは何なのでしょうか…?
次回も宜しければ見てください。^^