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不死者(ノスフェラトゥ)、異世界へ行く!!  作者: リトナ
不死者(ノスフェラトゥ)、異世界へ!
3/13

不死者、異世界へ!②

 樹木立ち並び、茂みが乱雑に生い茂る中を乱暴に掻き分け、前へ前へと神妻は進んでいく。そのすぐ後ろを麦わら帽子を被り直したみつが、片手にスマホのライトを照らして、この真っ暗闇な山の中に明かりを灯していた。

 スマホの便利さを改めて実感しつつも、まだ予断を許さない状況に気が急くばかり。

 バスを襲撃してきた化け物たちから逃げ延びるために、闇夜の獣道を通るという大変危険極まりないことをする羽目になった神妻たちだったが、幸いにも化け物たちはまだ追ってきていない。


「はぁはぁ……、みつ姉、大丈夫か?」

「うん。カヅ君が道を作ってくれてるから、私は平気。カヅ君こそ大丈夫?」

「こっちも平気。けど、明かりがあるとはいえ、光源がスマホだけっていうのはやっぱ物足りないよなぁ。無いよりは遥かにマシだけどさ」


 狭い範囲しか照らされず、視界が悪く進みにくい。

 茂みを掻き分ける際、枝が身体中を引っ搔くので、どうしても擦り傷が増えていく。

 だが、それは神妻の中だけで留めておくことにする。

 言えば、みつが代わると言いかねない。人が傷つくより自分が傷つくことを(いと)わない。

 五年ぶりではあるが、神妻の知ってるみつはそういう人だ。

 せめて、もう少し明かりが十分だったら擦り傷が減るかもしれないのに――と神妻は無い物強請(ねだ)りを頭の中でした。


「大丈夫は大丈夫なんだけど、どっちかって言うと体力の方がキツい……。

 俺、都会っ子なもんで、こういう山道……の上位互換、獣道を歩くのに慣れてないからなぁ」

「子供の頃は、山ボーイだったくせに~」

「山ボーイって……、恐ろしくダサいな。田舎って怖い……」

「誰が田舎者よ!」


 いや、そこまで言ってないから……と、背後に連れ添うみつに心の声を飛ばした。

 残念なことに、届かないだろうが。


「体力のことを言うと、カヅ君、荷物多いしね。お姉ちゃん、持ってあげよっか?」

「そりゃあ、三日分の着替えにもしもの時のおやつがここに入ってるしな」


 背中に背負っているリュックサックを指差して神妻はそう答えた。


「後者の重要性を本当はツッコミたいんだけど、こういう遭難中の時は、食料があるのは正直ありがたいわ。私の持ってるポーチには、鏡やハンカチぐらいしかないもの。あ! 飴ちゃんもあった!」

 俺と似たようなものじゃんか、

 と、後ろに聞こえるか聞こえないか微妙な声量で漏らす。


「で、バスの中から気になってたんだけど、その長いのは何? 竹刀? 釣竿? 意表を突いてフルートとか!?」


 何のために、誰に意表を突かないといけないのか――

 つい、喉から出そうになった言葉を飲み込むことに成功する。

 みつが言っているのは、神妻が肩に背負っている1メートル半ほどの棒状の布に入っている物のことだ。

 神妻は敢えて()()()()()()()()()が。


「ねえ、カヅ君……、さっき凄く冷静だったね……」


 いつかくると思っていた、むしろ遅かったぐらいの『刻詠の遣い』への疑問をみつがとうとう口にする。

 追われている現在、誤魔化すこともないと考え、神妻は説明モードに入ることにした。


「……ああ。俺は前にも似たようなことがあったからさ。経験値があるんだよ。……あれは『刻詠の遣い』って言うらしい。俺も聞いただけで、正直詳しいことはわからないんだけどな。ただ今までは一体だけしか現れなかったのに、こんなに数で追われるなんて俺も初めてだ」

「カヅ君、都会に出てからいったい何してたのよ……」


 神妻が誰から聞いたのかというと、実は神妻にも答えられない。

 はっきりわかっていないのだ、神妻も。


 一ヶ月前、夢の中で声が聞こえた。

 女の声――聞いたことがあるようなないような……身近な人のものではない。

 神妻にとって身近な女性というと、みつのみ。

 他に思い当たる人物は……多分いない。いや、まずいない。そのみつとすら会うのは五年ぶりである。

 その女は清涼な声音でこう言った――


『闇の中から『刻詠の遣い』があなたを追う――』


 以来、夢を見た日から、本当に闇夜に紛れて『刻詠の遣い』という化け物が神妻の目の前に現れるようになったので、神妻としては信じる以外の選択肢はなかった。

 夢が現実となった日――

 声の主が誰なのかわからない。

 けれど――

 理解はできなくとも、過去の記憶が神妻に予想させることまではさせなかった。

 命や精神が極度に削られてしまった時にフラッシュバックの中で見るようになった、銀髪の少女との邂逅もこの頃からだ。


 先ほど、神妻たちを襲ってきた化け物『刻詠の遣い』の追ってくる姿が見えないので、少しはホッとできる一方で、完全に気を緩めることもできないのが今の状況。

 ずっと気を張る必要もないが、神妻たちはどうしてもまだ危険から解放されたと思えない。

 人を襲う未知の化け物は然り、陽の沈んだ山の中を歩き続ける恐怖。

 運が悪ければ、野生の熊や猪と遭遇(エンカウント)し、彼らの餌として襲われかねない可能性。

 当初からの目的地である、神妻の生まれ故郷である村への道の成否。

 神妻と違って、現在も村に住むみつの案内があるとは言っても、夜の山は日中とはまるで見え方が違う。その危険性は元田舎育ちの神妻にだってわかる。

 警戒心を強める理由を挙げれば多々ある。

 しかし、一番の理由は先ほど()()()()()からに違いない――


 ✳✳✳


「すぐにバスを出すんだ!! 早くっ!!」


 もちろん、運転手に向けて神妻は言ったわけだが、


「で、でもこのまま動いたら()いてしまうし……」


 理解を超えた非現実的な状況に、運転手はパニックを起こしているらしく、どうしたら良いのかあたふたと。そうこうしてる間にも、道の両端から人型の何かがワラワラとバスに群がってくる。一刻を争うというのに。

 その数、ざっと十五前後。

 人間相手なら運転手の倫理観は正しい。むしろ考えるまでもなく当然そうすべきだ。

 けれど、今、目にしているのは人間の法が通用するとは思えない人外――


「カヅ君、あれなんなの!? どうなってるの!?」

「落ち着いてくれ、みつ姉! ……って言っても落ち着けないだろうけど、とりあえず深呼吸! 詳しいことは後で話すから、まずは落ち着いてくれ! それで落ち着いたら急いで逃げるぞ!」

「落ち着いたら良いのか、急いだ方が良いのか、どっちなの!?」

「両方だ!!」


 普段から大きくクリッとしたみつの目が、さらに大きく見開いた。

 そして、すぐにジト目に変わる。

 何か言いたげに自分を見るみつだが、今はそれどころじゃないから――、と神妻は気付かない振りをした。

 ちょうど、その時、バスが急発進。

 神妻もみつも座席から立ち上がって運転手の側まで来ていたので、二人ともいきなりのことにバランスを崩し身体がよろめいてしまう。幸い隣にある座席にしがみ付けたので、神妻もみつも倒れてしまうまでは至らずに済んだ。

 再び運転手に神妻は視線を移す。

 表情を見るに、ようやく意を決した――、

 のかどうかわからないが、この場を離れることができるので良しとしようと考えたい神妻。

 だが、そんな安易な判断をまだ許してもらえない状況なのだと、一目で察しがついた。

 運転手の表情からは、冷静さから遠くかけ離れた感情が窺えるからだ。

 戸惑い……、怯え……、

 その最もなるは恐怖……

 当然と言えば、当然か。俺も初めてこいつらを見た時はそうだったしな――神妻の心の声が聞こえたのか、まるで応じるように、神妻の懸念がすぐに悪い形で現実へと引き起こされる――

 ホラー映画に出てくる歩く死体ことゾンビの如く、ゆったりと近寄ってくる異形の人型《刻詠の遣い》を三体ほど跳ね、尚もバスの速度は緩まることを知らない。

 また一体、また一体と跳ねていく度に、例え相手が化物だとしても、運転手の心から平常心を失わせるには十分だった。

 そして運転手は、取り返しのつかないミスを誘発してしまう――


「うわあああああぁぁぁぁぁ――――っ!!!!」


 ハンドルを切り過ぎたバスが、土剥き出しの道から外れ、雑草広がる道なき道に乗り上げてしまった。

 それで止まれば良かったのだが、制御を失ったバスは一本の大木に向かっていく。

 咄嗟に勢いよく踏み込んだブレーキペダルによって、車体は運転手の制御を完全に離れてしまう。

 耳をつんざく激しいブレーキ音を鳴らし、横回りに車体前方からフルスイングで大木に衝突し――


 乗っている者たちに、強烈な揺れと衝撃……恐怖を与えた後、ようやくバスは停車した。


 ✳✳✳


 時間にしてほんの数秒のことのはずが、とても長く感じた生きた気のしない身の毛のよだつ時間。

 もう二度と御免だ――、

 神妻は自分と同じく、奇跡的に軽い打ち身だけで済んだ、幼少期の相棒の無事を確認した後、連れたって目的であった村を目指していた。


「こっちで本当に合ってるの? みつ姉。

 できれば陽の上がる前に、警察なり、バス会社の方に事故の件を話しておきたいんだけど」

「うん、そうだよね。でも、ごめんね……。

 夜の山に入ることなんて普段しないから、ちょっと自信ないかも。

 多分、合ってるとは思うんだけど……」


 申し訳なさそうに、後半みつの声のトーンが落ちた。

 みつをフォローしようと思ってするわけではないが、


「そりゃ、そうか。俺も子供の頃の記憶なんで覚えてないし。

 そうなると、やっぱ、みつ姉頼みなんでこのままよろし――」


 言いかけて、神妻はそれを中断する。

 側面茂みの奥側……それも扇状に複数の気配を感じたからだ。

 神妻の様子を察したみつが、神妻の視線を追ってスマホの明かりを照らすと――

 そこでようやく、みつは()()がついに追い付いていたことを知る。

 草木が擦れ合う音と共に現れたのは、月の光の届きにくい木々の下で生まれた暗闇に紛れていた『刻詠の遣い』だ。

 姿も存在も何もかもが闇のように思える『刻詠の遣い』。保護色のようにこの暗闇に溶け込んでいたに違いない。

 (ゆえ)に発見が遅れたのだと知るが、今となっては優先度の低い情報と言わざるを得ない。

 なにせ、十体を超える奴らが緩慢な動きではあるが迫ってきているのだから、それどころではない。致命的なのだが、遅すぎた情報と言える。

 情報とは手に入れるタイミングで、こうも有り難みが違うことを、不本意ながら身をもって経験することになってしまった二人。


「固まってる場合じゃない!! みつ姉、離れるぞ!!」


『刻詠みの遣い』の姿を確認してからというもの、みつは神妻の背中越しに、神妻の服の端をギュッと掴んで身を縮まらせていた。

 神妻はその手を取って、遣いのいない反対側へと駆ける。

 突然だったが、もちろん、みつに異論はなく、神妻のその行動を受け入れ、後ろをついていくわけだが、

 あ、ちょっとヒーローっぽい――

 白馬の王子様的な緊張感のないことをみつ姉は思っていそうだ。あくまで勘だが。

 でも――


「カヅ君、こういう時、ヒーローは敵をバッタバッタ倒していくものだとお姉ちゃん思うの」


 神妻の勘が当の本人の証言により裏付けされてしまった。


「例えば、そう! カヅ君が肩に背負ってる、その袋! ここぞという場面で袋から武器が出てくるとか!

 ――今がその時じゃないかなぁって、お姉ちゃん思う」


 走りながら、訳のわからないことを言う、お姉ちゃんに絶句する神妻。

 さすがに、みつ姉の手を離さなかったのは、我ながら奇跡だと神妻は思った。


「意外と余裕あるのな、みつ姉。

 そんなに気になるなら、見てみるか?」


 言って、袋の口を開けて、みつの方へ向ける。

 無論、その間も足を止めるような真似はしない。


「……これって、竿? 釣竿?」

「ピンポン。少々、普通の釣竿より太めだけど、立派な釣竿だよ。ちゃんと魚も釣れる」


 神妻の言う通り、確かに普通の釣竿より一回りも二回りも太い……ように思えるが、正直釣りのことに詳しくないみつに違いはよくわからない。

 わからないので、これでこの会話は終わり。


「今、あからさまにガッカリしただろ?

 せっかく山の中入って、そこに綺麗な川が流れてるとなれば、釣りしたくなるのが男ってもんなんだよ」


 疑わしげな視線を送ってくるので、神妻は少したじろぐ。

 言うまでもなく、男が皆釣り好きなわけがない。

 緊迫感に欠けた会話をそうこうしている間に、茂みの群生地帯を抜ける。広葉樹が(まば)らに数本あるだけの開けた場所に出た。

 その中で神妻たちの目を引いたのが、奥の方、見晴らしの良い場所にポツンとある、何とも不似合いな井戸が目についた。

 井戸の上には円形の鉄蓋がしてあり、隙間なく入り口を覆い被さっている。いつから井戸を閉じたのかはわからないが、鉄蓋のあちこちが錆付いており、長いこと風雨に晒され続けてきたのだろう。

 さらにその上に漬け物石のように岩が置いてある。

 岩はとても大きく、これを井戸に乗せるには、少なくとも大人三人ぐらいは必要なんではなかろうか。


「はは……。ほんとは明後日に来るつもりだったんだけどな」


『刻詠の遣い』に追われていることも忘れ、緩慢な動きで神妻が井戸に歩みだす。

 対照的にみつは、井戸を目にしてから総身に寒気を感じ、思わず立ち止まってしまう。しかし一人、前に行く神妻に明かりが足りなくなると気付くや、小走りで後を追いかけた。


「ねえ、カヅ君……もしかして、この井戸って……子供の頃、カヅ君が話してくれた、()()()()なの?

 ……なんだか、薄気味悪いわ……」

「そうみたいだ。

 村を目指していたのに、まさかここに辿り着くなんて……。

 でも、間違いない。

 まるで()()()()呼び寄せられたみたいだ……」


 冗談ともつかないことを言う神妻に、体温が平時より1℃、2℃下がるのを肌で感じた、みつが再度口を開く。


「なんだかホラー映画のワンシーンみたい……。

 ……まさか井戸の中から人が出てきたりしない……わよね……?

 黒髪の、髪の長い女性……、○子みたいな……!?」


 否定してくれと言わんばかりに目で訴えてくる、みつ姉を余所に、神妻は井戸の上に乗っかっている岩を一人で懸命に退かそうとする。

 乗せる分には人手がいるが、下ろす――もとい、落とす分には一人でもなんとか出来そうだ――、と力を込めると案の定、神妻一人でも漬け物石もどきが動き始めた。


「ちょっとカヅ君! 何してるの!?」


 神妻の行いを信じられない、と言いたげにみつが慌てて止めようとするが、


「何って、見たまんま。蓋を退かすんだよ」

「だから、何か出てきたらどうするの!?

 普通の井戸なら蓋だけすれば良いのに、重石までしてるなんて絶対おかしいわ! きっとここには何かあるのよ!!」


 さすが、村に唯一ある神社の一人娘らしく、霊感でも働いているのだろうか?


 幽霊とか心霊のようなオカルト話なんてものは、五年前は割かし好きだったが、信じてはいなかった。

 ――今は違う。

 好きではないし、非日常的存在さえ信じている。

 考え方は五年前とまるで真逆。


 井戸を開けるのを心底怖がるみつの顔を見てると、悪いとは思いつつも、神妻は逆に自分の行いの確かさを深めていく。


「みつ姉の霊感はよく当たるからな。

 でも、忘れてないか?

 俺はその()()に会うためにここまで来たんだぜ」


 みつのその勘は正しい。

 そのことを神妻が一番知っている。

 なぜなら、五年前に神妻は出会っているから……

 この井戸の中の主と――


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