花森翠の独立生物
「それじゃあミド姉、行きますよ!」
「まぁ、抱きついていいって言うならいいけど……」
設定上の姉たる花森翠さんに、彼女のアホ毛が動いているのを証明しようとしていた俺は、彼女の部屋に上がり込み、鏡の前で準備を整える。
「それじゃあミド姉、僕に抱きついてください!」
「うわぁぁい!! 翔ちゃんからそう言ってもらえる日が来るなんてぇ! ムニムニ」
抱きつくついでに頬ずりまで追加するミド姉。だけど、今はそんなことどうでもいい!
アホ毛は……、動いてる! 犬のしっぽみたいに左右にふりふりしている! ミド姉はニコニコしながら後ろから俺の頬を愛でる。残念ながら感触を堪能しているようで目は閉じているけど!
「さぁ、ミド姉! 見てください! 動いてますよ!」
「ん!」
そうして頬ずりしながらミド姉が目を開けて正面を向くと、それに気づいたかのようにアホ毛はいつも通りの形に戻り静止した。
なんでだよ! 『だるまさんが転んだ』かよ!
「動いてないじゃないの~。翔ちゃん、嘘つくのは感心しないぞ? めっ!」
「えぇ!? 違いますって! 今しがた止まったんですって!」
そう言っても疑いのジト目を向けるミド姉。あぁ、どうすれば……。
そうだ! 確か以前、ミド姉にお姉ちゃんと言ったとき、アホ毛が高速回転したことがあったな! それを使おう!
今のはただ単に左右に揺れていただけだからすぐに元の形に戻ったんだ! だったら、「お姉ちゃん」と言ってアホ毛を高速回転させれば、ちょっとやそっとじゃ静止しないはず!
「よく鏡を見ていてくださいよ!」
「うん? まだやるの?」
「お姉ちゃん!!」
「ゲバッ!!!!!」
途端、ミド姉の口から大量の血が吹き出て、鏡が赤く染まる。ミド姉は反作用で後ろに倒れて幸せそうな表情を見せる。しかし、残念ながら鏡は見れる状態じゃない。
「幸せ……。翔ちゃんのお姉ちゃん……、幸せ……」
「……」
倒れたミド姉の頭頂部では、ヘリコプターのプロペラのように高速回転するアホ毛。
……
もういいや。この独立生物については俺の胸にだけ仕舞っておこう。
その後、血の処理を黙々と行うのであった。