岡村翔平と嘘つきは泥棒の始まり
「ですけどミド姉、奇妙なのはそこだけじゃないですよ?」
ある日、いつもの喫茶店にて、俺の設定上の姉こと花森翠さんの前髪にふわりと立つアホ毛について論議を交わしていた時のことだ。俺は、話はまだ終わっていないとばかりにそう言った。
「え? どういうこと?」
「以前、僕に冗談言いましたよね? その髪が動くのは嘘だって」
「うん。確かに不思議な髪の毛だけど、流石に勝手に動くなんてあるわけないよ」
「……」
「切った部分に新しいアホ毛が生えるっていうのはまぁ、要するにあれでしょ? 切った部分のスペースが空いたから、くせ毛がそこに移動するってことでしょ? まぁ分かる分かる。髪全体のバランス的な問題だよね!」
「……」
「けどさ、髪が勝手に動くってなると、もはやホラーじゃない? その髪の毛に新しい魂宿っちゃってるじゃない? いくらなんでも現実でそんなこと、起こるわけないよね?」
ミド姉はあっけらかんとそう言うが、俺は真面目なトーンで告げる。
「動いてますよ?」
「え?」
「ですから、動いてますよ? その髪の毛……」
一瞬流れる沈黙。ミド姉は目をパチクリさせている。自分の体の一部に起きる謎現象に驚きを隠せないようだ。
「まっさか~。そんなラノベみたいな髪の毛、あるわけないよ~」
あっれ~!? もしかしてミド姉、全然信じていない!? のほほんと笑ってジョークだと思っている俺の言葉を受け流す。
「いや、あるんですって! 特に、ミド姉がブラコン方面で興奮しているときなんて顕著ですよ!」
「翔ちゃん、嘘つきは泥棒の始まり! 時には冗談を言うことも大切だけど、冗談はすぐにネタばらししないと、それは嘘になってしまうんだよ?」
「いや、本当に動くんですって! それなら鏡見てくださいよ! 僕に抱きついていいですから!」
「え!? いいの! やったー! ムニムニ」
「え!? いや、ここじゃ……。ここは鏡ないですって! ちょっと、ミド姉離れて!」
そうして俺はまた、公共の場でブラコンの姉に愛でられるのであった。