桜井桃果と空白の期間
「ふっ……」
「お疲れ様です。マスター」
インターンシップも無事終えた九月の上旬。久しぶりのアルバイトでモモと同じ時間のシフトに入っていた時のことだ。お客さんのいないときを見計らって、マスターが俺たちに差し入れのコーヒーを持ってきてくれた。
「いいんですか? マスター、ありがとうございます」
「あぁ……」
「……」
マスターにお礼を言うものの、その後の相槌が何を言っているのか分からない。マスターはいつも親切にしてくれるので、コミュニケーションを積極的に取りたいところなのだが……。
「あはは、そうですね。ありがとうございます」
俺と同じ時期にバイトに入ったモモも、マスターの言葉足らずさには苦労しているようで、同じく言葉の意味を理解していないのだろう。曖昧な答え方でぼかしている。
「ふふっ……」
「いえいえ。わたしなんてまだアルバイトを始めて一ヶ月半くらいしか経っていないですから、まだまだですよぅ」
「いや……」
「そんな! まだまだ朱里さんや緋陽里さんには敵いませんから~」
……と思ったら、普通にマスターとコミュニケーションを取れていた。
え!? 嘘でしょ!? もしかして、マスターとコミュニケーション取れていないの俺だけなの!? 俺がインターンに行っている間にコミュニケーション取れるようになっちゃったの!? マジかよ!
モモに先を越されて、変に焦る俺だった。




