花森翠と奇妙なアホ毛
「前から聞こうと思っていたんですけど……」
ある日の平日、私の弟たる岡村翔平くんと家の近くの喫茶店にいた時のこと。彼は脈絡もなく突然こんなことを聞いてきた。
「ミド姉の前に跳ねている一本の髪、どうなっているんですか?」
「これ? 前にも少し触れたけど、何でか知らないけど、梳かしてもこの一本だけはどうしても立っちゃうんだよね」
「それもすごいですけど、切ってもまた新しい髪の毛がアホ毛になるってのが奇妙でしょうがないんですけど……」
少し引き気味にそう言う翔ちゃん。
「ね~。変な話だよね~」
「随分楽観的ですね」
「最初は直したかったけど、もはや私のアイデンティティなのではと思っているよ!」
「まぁ、ミド姉がいいならいいんですけど……」
「だって慣れてくると、この髪も可愛いじゃない?」
「まぁ、確かに可愛いっちゃ可愛いですけど」
「褒めてくれるの! ありがとう翔ちゃん!」
やった! 褒められちゃった♪
私は嬉しさのあまり、翔ちゃんに抱きついた。
「うわぁ! くっつかないでくださいよ! 一応ここ、公共スペースなんですからね!」
「けどほら、今は誰もいないじゃない? ちょっとだけ! ね? あと五秒でいいから!」
「もう……。じゃああと五秒だけですからね?」
「やった♪」
そう言って私は五秒間、翔ちゃんの温もりを堪能したのだった。