彼女の正体、そしてサクマアキトの能力
投稿遅れました。すいません。
前より長いです。
途中でアキトとイシュメルの喋り方が変わっていますがこれは、ある程度お互いのことがわかってきたからだと思います……多分。
彼女はゆっくりと時間をかけて話しだした。
「先程も言ったのですが、実は異世界転移者ノートに間違えて書いてしまったのです。しかも書いてしまったものは消せないのです……」
うん、なんとなくわかってたけど。
「どうしましょう!!このことがバレたら私はクビになってしまうぅぅ!!ホントにどうしよう!!」
最後の方は俺に向けて言ってない気がする……。
というかすごい狂乱ぶりだな。早口になってるし、口調変わってるし、せっかくの美顔が台無しとまではいかないにしろ、少し残念な顔になっているし……。
……取り敢えず、落ち着かせよう……。
「あのー、ちょっと落ち着きませんか?」
「そっそうですね!」
まだ落ち着いてない気がするが、まあいい。今は情報が必要だ。
「えっと……名前を聞いてもいいですか?」
彼女は俺の質問を聞き幾分か落ち着いたようで、
「そうですね……そろそろ教えた方がいいかもしれないわね。私はイシュメル。異世界転生や転移を司る女神なの」
えーと、これってつっこむところ?
「もう一度言ってもらってもいいですか?」
「しょうがないわね。……私の名前はイシュメル。異世界転生や転移を司る女神……って、ああっ!しまったあぁぁ!?女神って言っちゃったあぁぁ!?正体バレちゃったよぉぉ!!!どうしよぉぉ!?」
うん、さっき聞いたよ、不本意ながら。
……ていうか困ったなぁ。俺の立場も考えずにわんわん泣いてるよ……。
「……俺の存在忘れてません?」
俺の言葉を聞き、イシュメルは我に返った。
「ごめんなさい!あなたのことをほったらかしにして……。」
「別にいいですよ。……それで……イシュメルさんは本当に女神なんですか?それと、異世界転移者ノートについて詳しく教えてくれませんか?」
イシュメルは涙を拭き、ボソボソと話しだした。
「私は本物の女神なんですけど……私はうっかり者なの。だから女神っぽくないっていつも言われるわ……」
確かにそうだな。女神っぽくない。これでよく女神が勤まるなと思う。
まあ、他の女神がどうなのかは知らないがな。
「そして異世界転移者ノートについてだけど、ここから下は記入しないでくださいと書いてあるところより下に《成長》があったわね?そこは記入した能力から成長スピードを割り出して、言語化し、表示するためにあるのよ……」
「落ち着いて見てね……」と続けるイシュメルに不安を抱いた。
なぜなら俺はテキトーに記入をしてしまったからである。
しかし、今更何かをしたところで書き直すことはできないのだ。だから俺は黙って聞くことしかできなかった。
「あなたの場合……こうなるわ…………」
と言ってイシュメルは異世界転移者ノートを差し出してきた。中を見ると、俺が書いた時にはなかった言葉と数字が書かれていた。
《名前》
以下略……
※ ここより下は記入しないでください。
《成長》『絶望的に遅い』
《ランク》『1』
本日二度目の時間停止が発動した……と思われる。
「なっ……なんだと……!?」
ショックだ。
せめて『遅い』とでも書いてくれていたならまだ許せた。
しかしそれをはるかに超えるような遅さを示されたのだ。
一体何がいけなかったのか。
イシュメルはそんな俺の姿を見て、成長スピードの元凶を伝えた。
「……実は、スキルに原因があったのよ…………」
俺は自分で書いたスキルを思い出す。
《スキル》カウンター、落下衝撃軽減
「どっちが大きく影響しているんだ?」
俺が聞くとイシュメルは落ち着かせるように言った。
「正直に言うと……両方ともよ。カウンターは相手の動きを見極める力、相手の急所を正確に狙う力が、落下衝撃軽減は体全体に衝撃を分散させる力、落下中でも体を自由自在に操る力がないと習得できないスキルなのよ。……ちなみに、どちらもスキルランクは5段階中の5、つまり最高ランクよ」
俺は納得した。
俺は最低ランクのくせに最高ランクのスキルを、しかも2つも習得しているのだ。
そりゃ成長スピードも遅くなっても仕方ない。俺は元凶の正体を聞き、少し落ち着いた。
「それを聞いて少し落ち着けた。……ところでそのスキルはどうやって発動するんだ?」
「発動自体は体がスキルを使おうとすれば勝手に発動するんだけど……」
イシュメルが言葉を濁した。気になるので遠慮せず聞いた。
「勝手に発動するけど何かあるのか?」
「その……能力が不十分だと、体に大きな負荷がかかるの」
「でも使えないわけじゃないんだろ?」
「いや、それがスキルの効果を最大限に発揮できないのよ。例えば、カウンターなら発動してもうまく見切れなかったり、見切って避けても攻撃が当たらなかったりといろいろボロが出てしまうの」
「だからスキルは使えない、そういうことか?」
「決して使えないわけじゃないけど、使ってもメリットが少ないというかなんというか……。でっ、でも!ランクを上げればいずれ使いこなせるようになるから……お願い、落ち込まないで!」
そう言いながらイシュメルは椅子から腰を浮かして、前のめりになり、おれに近づいてきた。
その時のイシュメルの顔は、今にも泣きそうであった。
どうやらイシュメルは俺のことを本気で心配してくれているようだ。
「大丈夫だ。これでも男だ。これくらいじゃあへこたれないさ」
イシュメルはあからさまにホッとして、椅子に腰を下ろした。
そんなことを言った俺は実際、安心なんてしてられない。
なぜなら、これからこの異世界で生活するからだ。
そのためにも、俺の能力をテキトーに決めさせた張本人といっても過言ではないイシュメルにはいろいろと協力してもらうとしよう。
「イシュメル、俺は今日からこの異世界で生活するんだよな?だったら協力してもらっても、いいよな?もし協力してくれたら今回のことは許すからさ」
それを聞くや否や、イシュメルは胸を張って、
「もちろんよ!喜んで協力するわ!」
案外簡単に決まった。
「でも、全面的には協力できないわ。私はこれでも女神だからね。仕事がたくさんあるのよ」
そう言ったイシュメルは、「そのために……」と言ってペンダントを渡してきた。
「これは召喚のペンダント、必要な時に私を呼ぶことができるわ」
なるほど、女神がいつでも出てくるチートアイテムを入手したわけだ。
といってもその出てくる女神が問題なんだが。
その問題の女神はおそるおそる、
「それで、これから異世界で生活することになるのだけれど……質問はない?」
と聞いてきた。
「じゃあ言わせてもらおう」
俺は一呼吸置いて、
『なんであんたは保健室の先生みたいな装いをしてるんだ!?そもそも異世界になんで保健室なんかがあるんだ!?だいたい、俺はどうして異世界に来ちまったんだよ!?』
俺がこれまで聞きたかったことを一気にぶつけられ、イシュメルは気圧されていた。
「え、えっとね、異世界に来たのは、あなたのいた世界には異世界へのワープ装置みたいなのが存在してて、それで来たんだと思うの……」
「そうか。保健室関係についてはどうなんだよ」
「それについては長くなるのだけれど…………」
イシュメルの話を要約するとこうだ。
・女神っぽい仕事をさせてもらえないから、自分で仕事ができる場所(この診療所)をつくった。
・モデルに、俺のいた世界の保健室を使った。(そのため、服装もそれっぽくなった。)
・この「気まぐれ診療所」にはたまにしか行かない。
「それって人来ても、お前いなかったらどうすんだよ!あっ診療所だ、って来た人の気持ちを上げて落とす気か!?鬼畜すぎんだろ、おい!」
「でっでも、人そんなに来ないし!」
「そんならさっさとこんな診療所閉めてしまえ!!」
「うぅ……」
イシュメルは随分と落ち込んでいた。きっと診療所のことは自分なりによく考えたつもりだったのだろう。
そう思うと、強く言いすぎたなと感じた。
「仕方ないじゃない……街の中だと不法建築物として撤去されそうだし、他の診療所に人が取られるし…………草原のど真ん中にでもつくらなきゃ人が来ないんだもん!」
前言撤回だ。
「お前はどアホだあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
こいつのアホさにはもう疲れた。こいつうっかり者じゃないわ。単なるアホだ。
「もういいよ。……出口どこだ?」
「あれ、もう出て行くの?ちょっと待ちなさい!まだ言いたいことあるんですけど〜!!」
それは俺の言葉だよ!!と言うのも面倒なので、出口らしきドアを見つけた俺は、それを開けた。