能力決定!?
今回は前回に比べ、長めです。
開いた扉の向こうには、まるで二次元から飛び出してきたような美人な女性が立っていた。
俺はその姿にドキッとした。
仕方ないだろう。俺は元来女性と関わることは滅多にないのだからな。あってもグループ学習ぐらいだ。
そのためといってはなんだが、勿論中学、高校で青春などない。青春なんて一種の都市伝説だと思ったぐらいだ。
そこらへんの記憶を失っているだけかもしれないが。
俺は扉からこちらに向かって歩いて来る彼女に完全に目を奪われていた。
その美しさ、むしろ神々しさまで身にまとっている彼女に見とれてしまうのは必然だとさえ思える。正直、二次元の住人にしか見えない。
彼女は俺の前まで来ると、
「具合はどうですか?」
と聞いた。
保健室で寝てたらそう聞かれて当然だろう。
だが、俺は好きで保健室にいるわけではないので思ったままに、
「え、えーと、じ、実は気が付いたら、こ、ここにいて……。俺にもよくわからないんですけど……」
と答えてしまった。
いくらなんでも思ったままに言い過ぎだろ、俺!返答になってないし、言ってること非現実的だし!
もし自分が彼女であったならば、「こいつ頭大丈夫か?」と思うようなストレートすぎる回答をしてしまった。
しかしそんなことは杞憂に終わった。彼女が普通に返してきたからだ。
「そうなんですか?……もしかして、記憶喪失ですか?」
そして察しが良くて助かった。そのため返答に別段困ることなく、しかも余裕すらあったので、
「そ、そうなんですよ……。それでどうしようかなぁ、と思っていてですね……」
と、さりげなく打開策を聞くことができた。
……今思ったのだが、会話をしている感じでは、彼女は保健室の先生という感じであった。
しかし、いきなり、記憶喪失ですか?と聞いて来るあたりは、保健室の先生にしては少し変だと思った。まぁ、今回は当たっていたのでいいのだが……。
それでももし保健室の先生ならば、ここの男子生徒はさぞ幸せなんだろうな……。
そんなくだらないことを考えていると、彼女は、
「そうですねぇ。……ではまず、覚えていることをこれに書いてください」
と言って、ノートのようなものとペンを差し出してきた。
その時の俺は、これが所謂、生徒の病気や怪我の状態や程度、そうなった場所・時刻を記すノートなんだろうと思ってそれらを何気なく受け取った。
実際には、俺の今後を決めることになる超大事なノートであったことは少し後に、いや、あと10分後くらいに知ることになる…………。
取り敢えずわかることを書こうとノートを見るとそこには……
《名前》
《年齢》
と書かれていた。
そこまではよかった。
《名前》
《年齢》
《種族》
《職業》
《スキル》
※ここより下は記入しないでください。
《成長》
《ランク》
流石に頭が痛くなってきた。
中二病疑惑がある俺でも、アニメなどのサブカルチャー文化でしか触れ合わないような言葉を唐突に突きつけられると困る。
ここまで来ると俺は、ここは夢の中ではないのかと疑い始めた。
夢の中だとすれば、辻褄なんていくらでも合うからだ。
記憶喪失している俺、二次元と見間違えるほどの美人女性、属性やら特殊能力やらの聞き慣れない言葉が平然と書かれたノート。
ここまできたらむしろ夢以外なんだというのか?
……まさか、異世界に来たとか……?
…………そんなわけないだろう。
いくらなんでもそんな超展開が起こるはずがない。
起きても、天文学的な確率だろう。いや、本の中でしか存在しないことが起こるわけがない。
ということで、俺はこの世界を、夢の中であるということにした。
そうと決まればこのノートも夢の中のもの、つまり俺が勝手に創造したものとなり、テキトーに書いても問題ない。そう考えた。
しかし、その判断が間違っていたこと、そして深く後悔することを少し後に、いや、あと5分後くらいに知ることになる…………。
…………ちょっと前に同じようなことを言った気が……。
俺はテキトーに、ラノベで読んだようなことをノートに書き込んだ。といっても名前や年齢などは本当を書いたが。
そして書き終わったノートがこれである
《名前》サクマ アキト
《年齢》16
《種族》人間
《職業》冒険者
《スキル》カウンター、落下衝撃軽減
※ここより下は記入しないでください。
《成長》
《ランク》
我ながら頑張ったと思う。こんなにも恥ずかしいことを書くのは、夢の中だとしても嫌である。
正直自分でも何を書いているのかわからないものもある(ラノベ等を参考にしているためである)が、テキトーなので特に気にしていない。
……思い直してみると、アニメやゲーム、マンガ、ラノベのことはあんまり忘れていないな…………。一時期ハマっていたのが災いしたか?
そう考えながら俺は彼女にノートを渡した。
……そういえば彼女の名前知らないな…………。さっきからずっと彼女呼ばわりで、俺の彼女みたいになってるよ。そろそろ聞いた方がいいよな?
そうも考えながらノートを受け取った彼女を見つめた。
一生懸命に何度も俺の書いたノートを見直していたので、話しかけるタイミングを探していたその時だった。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
目の前にいた彼女が叫んだ。
しかもさっき俺が書いたノートを見て……。
嫌な予感がする。
俺は彼女に声をかける。
「あ、あのー、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃありませんっ!!」
早速嫌な予感が的中しやがった…………。
「えっと、ど、どうしたんですか?」
必死に平静を装おうとするが、
「異世界転移者ノートに……異世界転移者ノートに間違えて書いてしまいましたっ!!」
と彼女が大声で言うので、動揺してしまった。
一番動揺していることは、異世界という単語が聞こえてしまったことだ。まさか夢じゃない!?
「そそそ、その異世界なんちゃらノートに間違えて書いちゃったらどうなるんですか!?」
彼女の答えは、5分前と10分前の自分を酷く後悔することになった。
「異世界転移者ノートというのは、その名の通り異世界転移者のためのノートで、転移者がこちらの世界でのステータス等を、以前いた世界とは別に新たに決めるためにあるノートで………………」
時間が止まった気がした。
もしかしなくても、これから異世界で、テキトーに決めた能力で生活しろというのか?
過去の自分を責めたかったが、今更そんな惨めなことをしたところで何かが変わるわけではない。
だから、せめて、落ち込んでいる彼女に向けて最後の希望を求めた。
「……書き直せるよな?」
その言葉を聞いた彼女の顔が辛辣にも歪んだ。
察してしまった。察したくなかった。だけど察する他なかった。
ああ、書き直せないんだな……………………。
前回よりは異世界感が少しはあると思います。
次回は美人女性の正体が!?