* 2-(3) *
ナノカドーでの買物を済ませて キリ・セキュリティに帰り、社食で昼食後、今度は会社敷地内のグラウンドで修行。
必要な物を持って行くから 先にグラウンドに出ていてくれと、サスケから言われ、誰もいないグラウンドで 手持ち無沙汰のため膝の屈伸運動をしながら、ハナは待っていた。
ややして、ライン引きと 小学校でドッジボールなどに使いそうなボールを1つ手にして、サスケが やって来、
「お? 準備運動? 感心感心っ」
(褒められたっ! )
喜ぶハナ。
サスケはボールを地面に置き、鼻唄まじりに楽しげに 地面に3メートル四方の四角形を描き、
「よしっ」
ひとり頷いて、今度はライン引きを四角の外に置き、代わりにボールを手に取る。
そのボールを、サスケ、自分の顔の横に立てた人指し指の先で器用に回しながら、
「んじゃあ、修行再開。ハナ、オレから このボールを取ってみ?
この修行では、咄嗟の判断力と反射神経、俊敏性を培う。ルールは、オレは この四角から出ない。ハナは四角の中にいても外にいても自由。制限時間は5分。
オッケー? 」
ハナは少し緊張しながら、
「はい! 師匠! 」
サスケ、ハナの返事に頷き、
「よし! じゃ、始めっ! 」
相変わらずサスケの顔の横で回っているボール目掛けてハナは走り、腕を伸ばす。
サスケは、ボールを ヒョイッと自分の頭上に軽く抛り、反対の手で受け止め、再び、今度は 受け止めたほうの手の人指し指の先を使い、顔の横でボールを回しつつ、溜息。
「ハナ、そんな真正面から真っ直ぐにじゃ、例えばオレがハナから取るのも無理だと思うぜ? 」
(そっか、じゃあ、どうすればいいんだろ……)
ハナが考え込もうとしたところで、サスケ、
「おっ? 」
視線を 寮と社食を結ぶ渡り廊下へ向け、そちらへ向かって駆け出す。その先には、ツキがいた。
ハナも、サスケを追ってツキの許へ。
「おーい、ツキィー! 」
サスケの呼び声が聞こえたらしく、ツキは足を止め、ハナやサスケの方向を振り返った。
一足先に到着したサスケと、何やら迷惑そうな顔で話しているツキ。
ハナが2人の所へ着くと、サスケ、
「ハナ、ツキがお手本を見せてくれるって」
ツキは、大きな大きな溜息を吐きながら、スリッパのまま、渡り廊下のすぐ脇、グラウンド隅の、アスファルトで舗装された部分に下りる。
サスケ、
「んじゃ、ハナ、開始の合図 出して」
「合図? ですか? 」
サスケ、頷き、
「『始めっ! 』って言いながら 右手を高く上げればいいから」
対峙するサスケとツキ。辺りを張り詰めた空気が包む。その雰囲気に、ハナは圧倒されてしまう。
「ハナ」
サスケに声を掛けられ、ハッとして、
「始めっ! 」
ハナは慌てて合図を出した。
ツキがサスケを窺いつつ、ゆっくりと、サスケを中心にして、横歩きで反時計回りに旋回し始める。それに合わせ、サスケも、ツキが自分の正面になるよう その場で回る。
その状態の続くこと十数秒間。突然、ツキが旋回方向を変え……るのかと思いきや、反対方向へ動かした足を 地面につけないまま、素早く元の方向前方へ、大きく踏み出した。
時計回りに対応しようとしていたらしいサスケ、危ないところで後方へ跳び、ボールに確実に届くところだったツキの手をかわして、フーッと大きく息を吐く。
「あっぶねー……」
ツキ、小さく舌打ちしてから再び旋回。と、何かが目に触れたようで、動きを止め、寮の方向を見た。
「ん? 」
サスケも そちらを見る。
ハナも、
(何だろ? )
つられて見た。
直後、
「ほら、取ったぞ? これでいいか? 」
ツキの声。
見れば、ツキの手に、ボール。
(ツキさん、スゴイ……! )
ハナは感心する。
サスケ、ちょっとワザとらしい感じで むくれ、
「あ、ずっるー! 」
「引っかかった お前が悪い」
真顔で言ってから、ツキは、
「じゃあ、あたしは今から昼食だから」
ボールをサスケに手渡し、渡り廊下へと上がって社食へ向かって歩き出す。
その後ろ姿に、サスケ、
「あっツキ! ありがとさんっ! 」
ツキ、顔だけ振り返って フッと笑み、社食へ入って行った。
昨日 ハナが見惚れたものとは種類の違う、柔らかく大人びた、真顔の状態からも想像し易いキレイ系の笑顔に、ハナ、
(ツキさんて、色んな笑顔を持ってるんだ……)
見惚れた。
サスケも、見送りながら、
「くっそー、ホント いい女だよなー」
呟く。




