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* 1-(3) *


 サスケの後について歩いて到着したのは、車が2台すれ違えるか すれ違えないかくらいの幅の街灯の少ない暗い道に面した、ブロック塀に金属でできた伸縮する柵のようなものを取り付けただけの簡単なつくりの門の前。

 サスケに続いて、ハナは門を入る。

 すぐの所に、昔ながらの学校の校舎を思わせる、横に長い4階建ての、薄汚れた感じの白の四角い建物。門の真正面に位置する、細いワイヤーのようなものが入ったガラス扉の入口の横に、「キリセキュリティ株式会社 社員寮」と書かれた木の札が掛かっている。

「ここが、オレの暮らす社員寮の玄関。入って」

 サスケから言われるまま、入るハナ。

 入った そこには、それこそ学校の昇降口にあるような、フタの無い仕切りの細かい下駄箱が、入って左手の壁にあり、右手側に、管理人室と書かれたプレートと、カウンター付きの小さな窓があった。

 サスケの指示で、ハナが靴を脱いで 一段高くなっているところへ上がり、下駄箱の空いているスペースに適当に靴を仕舞って、下駄箱横に置かれたカゴの中のスリッパを履いた、その時、

「サスケちゃん」

サスケ向けに声が掛かった。

 ハナが つられて声のしたほうを見ると、管理人室の小窓が開いており、

「誰だい? その子」

小窓から顔を出して 丸い眼鏡の向こうから上目遣いにハナを見ていた、白髪細身の可愛らしい顔立ちの男性と、目が合った。

 サスケ、

「ああ、シュンジイさん。この子は知り合いの子で、ちょっと面倒をみることになって……。今、空き部屋 無いっすよね? とりあえず、ツキの部屋に一緒にいさせようと思うんですけど、いいですか? 」

 返して、シュンジイという名前らしい白髪男性、

「ツキさんさえ良ければ、いいよ」

 サスケは、ありがとうございますと 軽く シュンジイに頭を下げてから、

「ハナ」

ハナを手招く。 そして、それに従ってサスケの許まで行ったハナに、

「ハナ、寮の管理人のシュンジイさん。 挨拶して」

 ハナ、頷き、シュンジイに、

「雪村花です! ヨロシクお願いします! 」

「はい、よろしく。管理人の志村俊二しむらしゅんじです」

シュンジイは、ニッコリ笑った。



                  *



 シュンジイに見送られ、最低限、程度の仄明るい照明のついた木の床の廊下を、ハナはサスケから半歩後れて従い歩く。

「師匠! ツキさんて、どなたですか? 私をツキさんの部屋に、って、おっしゃってましたけどっ」

 ハナの質問に答える間も無く、目的地に着いたらしく、サスケは歩を止めた。

 そこは、玄関から左方向へ歩いて突き当たりの階段を2階へ上がって2つ目のドアの前。

 サスケがドアをノックし、

「ツキィ、いるぅ? 」

ドアに向かって声を掛けているのを聞いて、ハナは、ちょっと、あれっ? 

(何か、今の喋り方っていうか、声のトーンっていうか、今までの喋り方と すごく違うよね……? 甘えた感じっていうか、何かワザとらしいっていうか……。別にいいけど……)

などと思いながら、大人しく待つ。

 ドアの向こうからの返答は無く、サスケ、もう一度ノック。そしてまた、甘えたワザとらしい感じで、

「ツキー? 」

 やはり返答無し。

 サスケ、独り言のように、

「ドアの下から光が漏れてんだけどなー。中にいそうなんだけどなー。いないのかなー」

言って、暫しドアの前で待ってから、

「仕方ない」

これまで ハナやシュンジイと話していた時の喋り方に急に戻り、

「こっちだ、ハナ」


 移動するサスケに、ひたすら ついて歩くハナ。

 サスケは、たった今ノックしていたドアの階段側の隣のドアを開け、入って行く。

 そこは8畳ほどの畳の部屋で、入って正面にコタツ。その斜め向こうにテレビ。コタツの すぐ横、テレビの手前に、いかにも万年床といった感じで布団が敷いてあった。

 サスケは部屋を突っきり、コタツの向こうの窓を開け、ベランダへ。

 ハナは急いで ついて行く。

 ベランダに出、隣戸との仕切りを外側から、手摺から はみ出ながら越え、隣戸のベランダへ。位置的に、さっきノックしていたドアの向こうのベランダだ。 

 サスケは、ピンクの小花柄のカーテンの掛かった そこの窓を、コンコン。そして、またしても 例の甘えたワザとらしい感じになって、

「ツキー? おーい、ツキー? ツキー」

 コンコン、と、「ツキー? 」を、かなり執拗に繰り返すサスケ。

 ややして、

「うるさいっ! 何なんだ、さっきからっ! 」

声と共に窓とカーテンが ほぼ同時に勢いよく開き、サスケと同じ年頃の、涼やかな目が印象的な整いすぎくらいに整った顔立ちを持つ、色白でスリムな、パジャマの上にカーディガンを羽織った姿の女性が姿を現した。

 女性は迷惑そうな表情で、腰まである色素の薄いストレートヘアを片手で掻きあげる。細い指から、サラサラサラ……と、髪が零れ、静かに元の位置へ納まった。

 ハナは、

(綺麗な人……。この人が、ツキさん……? )

見惚れる。

 サスケ、女性の怒りを完全無視し、脳天気な感じの軽いノリで、

「どーもー。こんばんはーっ」

 女性は呆れたように小さく息を吐いて、サスケから目を逸らし、そこで初めてハナの存在に気づいたようで、

「誰だ? その子」

 その問いに、

「おっ! ツキィ、気になる? 気になるっ? 」

サスケは、からかうような面白がるような感じ。やはり、この女性が「ツキ」という人物だったようだ。

 実に楽しそうなサスケを、今度はツキが完全無視。

「とりあえず中に入れ。寒いだろ」

言って、それまで自分の体で塞ぐようにしていた開けた窓のところを、ハナのために道を空けた。

 ハナ、

「あ……っ、は、はいっ! 」

チラッとサスケを見、サスケが頷いたのを確認してから、

「すみませんっ、お邪魔しますっ! 」

ツキの部屋の中へ。

 サスケが、

「優しー。何か、オレだけの時と、随分、対応が違くなーい? 」

言いながら、ハナの後をついて中へ。

 オレだけの時と、対応違くなーい? とのサスケの言葉に、ハナは、

(師匠だって、私やシュンジイさん相手の時とツキさん相手の時で、随分 喋り方が違うけど……)

と、別にどうでもいいと思いながら、心の中で呟きつつ、失礼にならないよう、あまりキョロキョロならないよう気をつけて、通された部屋の中を見回した。

 その部屋は、ベランダに出るために突っきった部屋と造りは同じようだが、雰囲気は まるで違っていた。部屋の隅のシングルベッドはキチンと整えられ、他の場所も全体的に物が少なく整理整頓され小ざっぱりとしているが、ベッドの場所を除いたスペースの中央にあたる位置に置かれたガラスのローテーブルには小さな鉢植えの花が飾られていたり、カーテンや足下のカーペットはピンク色だったりと、可愛らしく、実際には無臭だが、とても良い香りのしている錯覚を起こさせる。

 ツキは窓とカーテンを閉めてから、溜息を吐きつつドサッとベッドに腰を下ろし、うっとおしそうに、また、髪を掻き上げた。髪はしなやかに、蛍光灯の光をキラキラと返す。

(ホント、綺麗……)

あからさまに不快な表情が、見ていて全く不快でない不思議。ハナは感動を分かち合いたくて、小声でサスケに、

「師匠! 綺麗なかたですね! 」

「だろ? オレの奥さん」

サスケも小声で返す。

「えっ? そうなんですかっ? 」

小声で驚くハナ。

「……に、なってくれたら いいなあ、ってね」

サスケはニヤッと笑った。

 ハナは反応に困る。

 と、そこへ、ハナとサスケのヒソヒソ話に業を煮やしたのか、ツキが首を左右に振りながら、大きな大きな溜息。

「それで? 何なんだ、一体。その子は誰だ? その子絡みの用事か? 」

「ああ、うん。コイツはハナ。オレの弟子だよ」

「弟子? ……って、何だそれ」

「うん、ちょっとワケありでさ。ハナを、この部屋に置いてやってほしいんだ。女の子だからオレの部屋じゃマズイし……」

ちょっと困ったような表情で言ってから、サスケ、今度はハナ向けに、

「ハナ、この人がツキ。春日月子かすがつきこ。オレと同じSHINOBI所属」

 サスケからの紹介を受け、ハナは、サスケやシュンジイの時と同じように 元気と明るさを心がけ、

「雪村花です! ヨロシクお願いします! ツキさんっ! 」

「あ、ああ……。よろしく……」

鈍く返すツキ。

 ハナとツキが挨拶をかわしたのを確認するように頷いて、サスケ、ハナに向けた話を続ける。

「ハナ。オレ、明日は仕事が休みだから、早速、修行開始といこうぜ」

「はい! 」

「オレの修行は厳しいから、覚悟しとけよ? 」

「はい! 師匠っ! 」

「んじゃ、明日の朝、迎えにくるから。今夜はゆっくり休め」

「はいっ! 分っかりましたっ! 」

 サスケは、よし、と頷き、クルッとベランダ方向に体の向きを変えて窓を開け、それから、頭だけでツキを振り返って、

「それじゃあ、ツキ。そういうことだから、後は頼んだぜっ! 」

ウインクをひとつして、逃げるように、とも とれるくらい、そそくさと、ベランダへ出て行った。

 何か他のことにでも気を取られてしまっていたのだろうか、一瞬の間を置いてから、

「……っ? えっ、あっ、おいっ! サスケッ! 」

立ち上がり、サスケを追ったツキの鼻先で、ピシャリと窓は閉まる。

 ツキは、髪を掻き上げた位置でクシャッと掴み、溜息まじり、

「あー、もう……! 」

窓の向こうを睨んだ。



                  *



 暫くの間 窓の外を見据えていたツキは、一度、大きな溜息を吐いてから、

「ハナ……と呼べばいいのか? 」

静かに ゆっくりと、ハナを振り返った。

 急に自分に話を振られ、ハナ、ドギマギしてしまいながら、

「あっ……は、はいっ! ツキさんっ! 」

「修行って、何の修行だ? アイツ……サスケが、師匠? 」

「はい、藤堂の家に上手に侵入するための修行です!

 私、私の父をリストラして私の家族をバラバラにした、父の元・勤務先の社長の藤堂に復讐したいんです! 復讐しないと、私、死ぬことさえ出来ないんです! 死ねる気がしないんです! さっきだって、ビルから飛び降りたのに師匠に邪魔されて死ねなくて……。それって、すごく確率的に低いはずなのに、たまたま通りかかったのが師匠じゃなかったら、飛び降りたのを受け止められるなんてコトないのに、そんなコトが起こるなんてビックリですよね! 生きていても、これからどうしていいか分からないし、帰るトコも無いのに、死ぬことも出来ないなんて、困ったなあ、って……。だから、藤堂を殺して、そうしたら今度こそ 全部 終わりに出来ると思うんです! ちゃんと死ねると思うんです! それでさっき、藤堂の家に忍び込んだら、藤堂の飼い犬に襲われて、危ないところを師匠に助けられて、その時の師匠の動きを見て、これだ、と思ったんです! 同じ動きが出来るようになれば、簡単に藤堂の家に侵入して藤堂のところまで辿り着けるって! 

 師匠に 弟子にして下さいとお願いしたのは、そんな経緯からです! 」

 ひと通り、一生懸命、説明を終えたハナは、ツキが あっけにとられているふうなのに気づき、

「ツキさん? 」

 ツキは、ハッと我に返った様子で、

「お前は、面白いな……。復讐願望や自殺願望を、そんな前向きに熱く語られても……」

「面白かったですかっ? 光栄です! 」

「全然褒めていないが……」

「あ、そうなんですかっ? すみません! 」

 コンコン。ドアをノックする音。ドアの向こうから、

「ツキさん、管理人の志村です」

 ツキがドアへと歩き、開けると、布団を抱えたシュンジイが立っていた。

「余っている布団が一組あったので、ハナちゃんに どうかって、サスケちゃんに聞いてみたら、ツキさんの部屋に持ってってくれって言うから」

「……ありがとうございます」

ツキ、布団を受け取り、

「あの、あと、カーテンみたいなものが余ってないですか? つい立でもいいんですけど……部屋を仕切りたいんです」

「ああ、あるよ。持ってきます」

言って、踵を返すシュンジイ。

 ツキは、ドアは開けたままにし、シュンジイから受け取った布団を部屋の隅に置く。

 と、もうシュンジイが戻って来、

「カーテンと洗濯ロープ。あとはフックも何個か持ってきたけど、これでどうかな? 」

手にしていたカーテン・ロープ・フックを少し持ち上げて見せた。

 ツキ、

「ありがとうございます」

それらを受け取り、

「すみません、こんな夜遅くに お願いしてしまって」

「いや、いいんですよ。寮の皆さんの お世話をするのが、私の仕事ですから。カーテンを取り付けるのは、ご自分たちで出来ますか? 」

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「うん。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 階段方向へ去って行くシュンジイを暫し見送ってから、ドアを閉め、ツキ、洗濯ロープの端をベランダ側の窓のカーテンレールに結び、部屋をロープで2分する形で、カーテンレールに端を結んだ位置の丁度向かい側辺りの壁にフックを捩じ込み、そこにロープの もう一端をかけて結んだ。

 ツキとシュンジイのやりとりを大人しく見守っていた流れで、シュンジイが去った後、ツキがテキパキと動くのも、何となく眺めてしまっていたハナ、

(あ! ツキさんが一人で忙しく動いちゃってる! 手伝わなきゃっ! )

気づき、

「ツキさん、何をしてるんですかっ? お手伝いしますっ! 」

 ローテーブルをベッド方向にズラしつつ、ツキ、

「部屋を2つに分けるんだ。プライバシーが無いのはキツイからな」

ローテーブルを移動し終えて身を起こし、頭上のロープだけで区切られているスペースのうちベッドのほうを指さして、

「こっちが あたしのスペース」

もう一方のスペースを指さし、

「そっちがハナ」

 ハナは、もしかして、と、気にした。

(……ツキさん、私に迷惑してる? …そうかも! だって、完全に師匠から押し付けられたような形だったし……! 謝らなきゃ! 謝って、どっか、他に行こう! )

「すみません! ご迷惑ですよねっ? 私、お部屋の中じゃなくても、雨風しのげて安全なら、廊下でも倉庫とかでも大丈夫ですからっ! 」

 ツキは、キョトンとして、

「あ、いや……、今のあたしの言動を気にしてしまったのなら謝る。ただ単純に、お互いプライバシーを守れる空間が必要だと思っただけなんだ。ハナが この部屋で暮らすことは、アイツ……サスケが勝手に決めたことなのだから、ハナが気にする必要は無い」

 ハナは、それでも やはり申し訳なく思いながらも、

(ツキさんが、そう言ってくれるなら……)

「それに、アイツは上司とは言っても学生時代から一緒の同級生だからな。嫌なら断っている」

(っ? 上司っ? )

ハナ、驚く。

「師匠って、ツキさんの上司なんですかっ? 」

「意外か? 」

「あ、何となくですけどっ。人の上に立つようなタイプには見えなかったので」

 ツキは、ふふ……と笑い、

「そうかもな。部下は、今は あたしだけだし……」

(あ、笑顔……)

出会ってから初めて見た、真顔の時とは全く印象の違う、イタズラっぽい幼さの感じられる笑顔に、ハナは見惚れた。もう、見惚れるのは何度目だろう。

(ツキさんて、笑うと可愛い感じになるんだ……)


 ハナとツキ、協力し合って 洗濯ロープにカーテンを吊るし、どうしても重さで沈んでしまう真ん中を余りのフックで吊って、間仕切りの完成。ハナのスペース側に立ち、ツキは腕組みして満足げに頷き、ハナも、達成感を感じながら、完成したての間仕切りのカーテンを眺めた。

 と、ハナの腹が鳴った。

「腹が減っているのか? 」

 ツキの言葉に、ハナは、少し恥ずかしくなって笑ってごまかしながら、

「はいっ。お昼から何も食べてないのでっ! 」

「そうか。それでは、腹が減って当然だな。あたしは普段、食事は社員食堂で済ますから、ここには飲物しかないから、コンビニにでも……」

喋りながら考えて 思いついたようで、

「そうだ、サスケのトコに、カップラーメンか何か、あるかもな。もらってきてやる」

それから、ハナを頭の先から爪先まで眺め、

「汚れているな。あたしは ちょっとサスケのトコに行ってくるから、その間、シャワーを浴びているといい。……そう言えば、荷物は無いのか? 着替えとか」

「あ、はい! 何も持たないで家を出てきてしまったので! 」

「そうか」

ツキは頷き、カーテンの向こうの自分のスペースへ入って行き、少しして何やら持って出て来て、それをハナに手渡し、

「バスタオルとパジャマと下着を貸すから……ああ、下着は買い置いてあった新品だから安心しろ。風呂は、そこのドアだ」

入口のドアの隣、少し離れた位置にあるドアを指さす。



                  *



 シャワーを浴びていて、ハナは、お湯の温かさに、自分の体が冷えきっていたと知る。

 今日の出来事が次々と順番に思い出された。母と見知らぬ大柄な男性のキスシーンに始まり、両親の喧嘩、母が家を出て行ったこと、自分も家を飛び出したこと、繁華街で悪そうな男2人に声を掛けられたこと、ビルから飛び降りてサスケに受け止められたこと、藤堂宅に忍び込んで犬に襲われサスケに助けられたこと、サスケに弟子入りし、サスケの暮らす、ここ、キリセキュリティの寮に案内され、ツキと出会い、ここで暮らすことになったこと……。 



 風呂場から出たハナの鼻に、久し振りに嗅ぐ、食べ物のいいにおいが届いた。カップラーメンのにおいだ。

 ハナのスペース側にローテーブルが押し出してあり、その上に、

「良いタイミングだな」

ツキがカップラーメンを置いたところだった。

「あと2分半くらいだ。食べ終わったら、あたしのスペース側の、のれんの掛かっている奥が炊事スペースになってるから、そこの流しに残り汁を捨てて、容器を軽く水洗いしてからゴミ箱に捨てておいてくれ。ローテーブルは、仕切りカーテンの下から、あたしのスペース側に押し込んでおいてくれればいい」

「はい! ありがとうございますっ! 」

 ツキは頷き、

「では、あたしは寝るから」

言って、仕切りカーテンをめくり、自分のスペースへ。

「あ、はい! 色々と、ありがとうございましたっ! おやすみなさいっ! 」

 ツキを見送ってから、時計は見ていないが 丁度2分半くらい経った頃だと判断し、ハナは、ローテーブルの前に座ってカップラーメンのフタを開け、まず、スープをすすった。熱いスープが体内に滲み渡る。

 何だか、落ち着く。何故だか、涙が溢れた。


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