<神様だ>
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群衆は、予想外の成り行きの展開に、しんとして静まり返っていたが、次第に息を吹き返すと、今度は自分の番かもしれないという不安をそれぞれが再び抱きはじめた。
「あ、あなた様は、世にいう神様ですか?」
当然のように、そのような疑問の声があがった。
「アハハハ……」
衛兵は、轟くような声で笑った。
「神様だ」
「神様だ」
「神様!」
「ああ、神様……」
群衆は、口々に驚愕の声をあげ、その声は次第に崇拝の声に変わっていき、手を組み合わせる者もいた。
「アハハハ……」
衛兵は、高笑いを止めない。
「神様。どうか、お導きを」
「わたくしに、よきお言葉を」
「アハハハハハ……」
衛兵は、群衆の慌てふためいたアリの様な姿に呆れ返って、大笑いをこらえることができない。
「神様。あたしらはどうすりゃいいのだね?」
「そうだ。教えてくれ」
人々の一方的な懇願は、助かりたい一心の我儘にも聞こえた。しかし、どうすれば助かったのであり、どうなれば助からないことになるのか、もっぱら不明瞭である。
ただ、人の心の底に潜む、なにがしかの良心とでも言うべき感覚が、善悪や快不快、より神に近いのかそうでないのか、といった判断を誰に教えられたわけでもなく、自然な心の営みとして持っているようだ。
それにもかかわらず、人は、たいてい自分に対する評価は甘く、それが自と他の比較となるとなおのこと、自分の劣勢は認めたくない。できるだけ高貴で美しい世界が自分を待っていると、誰もが思っている、いや、思いたい。
「どうすればいいか、とな?何のためにだね。おまえたちは、どうしたいのだね」
衛兵が、笑うのをやめていよいよ話しはじめた。
「神様。天国に行きたいのです」
「そうです」
「そうです」
人々は、口々に同調し合って叫んだ。
「言っておくが、私は、神ではない。この城を護っている衛兵だ」
「えぇ?」
「なんだって?」
「じゃあ、神様はどこにいるんですか?」
「やっぱりそんなの、いやしないのさ」
「そんなことはないさ。神様は、ずっと遠くにいらっしゃるのさ。私たちには、とうてい会えるお方ではないだけさ」
「神様でないなら、どうしてオレたちをこんなに苦しめる権利があるんだい」
「そうだあ」
「苦しめるだと?」
衛兵が、人々の言葉の乱雑さに分け入った。
「そうさ。人の人生を量ってる」
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次回は3月31日ごろを予定しております。
いよいよ佳境に入ります。
お楽しみに!