グレムリン
フォールドをいつものように駆け抜ける。
目指すは床にドロップしたコインだ。
サササッ
冒険者達がモンスターに囲まれて戦っている間に討伐されたモンスターがドロップしたコインやアイテムを懐に入れて走り去る。
「あー!またグレムリンの野郎にやられたっ」
「くっ、敵に囲まれてなければなぁ」
「あれくらいなら仕方ない、こいつらを先に倒さないとMPがヤバイよ」
背後から冒険者達の怨嗟の声が聞こえてくる。
まだ駆け出しらしい冒険者達が夥しい数のゴブリンに囲まれている。
フハハハ。
今日も豊作絶好調だぜ!
オイラの住むこの世界『ネバーエンドレスワールド』は、冒険者達の中の人が住む世界が作り上げたオンラインゲームという世界らしい。らしい、というのは同じくフィールドを縄張りにしているコボルトやゴブリン、オークの旦那達から聞いた話だからだ。旦那達曰く、冒険者は駆け出しか余程暇を持て余した者くらいしかオイラ達のような雑魚(失礼なっ)を相手にしないので彼等の周囲で聞き耳を立てることが出来るらしい。彼等の世間話を総合したところ、どうやら自分達は彼等の遊戯のための世界に閉じ込められているらしい。この遊戯の世界でオイラたちは気が付いたら生活をしていて、冒険者に倒されてもある一定以上の時間が経つと自動的に初めて目覚めた場所に戻っている。これに関してもオイラにはよく理解が出来ない。それはオイラの頭が悪いせいじゃない。興味がないだけだ。決して冒険者が言うように『所詮は雑魚』『足が速いだけの泥棒』だからではない。オイラだってオイラなりに物事を考えていたりいなかったりする。確かに、強敵と言われる上級モンスターたちのように咆哮したりセリフをしゃべったりは出来ない。唯一、冒険者に倒される時に「キキキキィッ」と小さな断末魔をあげるくらいだ。こればかりは『仕様』とかいうこの世界のルールらしいので仕方がない。どうせ冒険者にペットとして使役されることもないので話せなくても不便はない。
こんな世界でオイラ、グレムリンは移動速度強化薬を飲んでいる冒険者よりも早い足を生かして毎日フィールドに落ちているお宝を集めている。
え?なんの為かって?
よくぞ聞いてくれました。
実は、この世界に生まれ落ちて何となくフィールドを彷徨うこと数年目にして(その間、幾度となく倒されては目覚めました)気が付いたことがある。
まず、冒険者はオイラ達と違って好きな場所で好きなタイミングでこの世界から離脱したり戻ってきたりできる。オークが言うには離脱する前は『落ちる』と仲間に言うらしい。どこに落ちていくのだろう?
それはさておき、その冒険者達と違ってこの世界でしか存在できないオイラ達だけれど、定期的に休眠させられていることに気が付いた。冒険者に倒されたわけでもないのに目覚めの場所に戻っているのだ。そして懐に溜め込んでいたアイテムもスッカラカンになっている。
最初に気がついた時は、あんまりにも強い魔法で焼き殺されたりして混乱しちゃったのかな?とかオイラ、どこかに荷物落としてきちゃった?と思っていたけれど、どうやら他のモンスター達も同様らしい。
ただ、オイラと違うのは倒されたわけじゃないのに目覚めの場所へ移動した場合は、手持ちのアイテムが変更されてることが多いらしいってことだ。これは、生まれた時からアイテムを持っていた種族限定らしい。
手ぶらで生まれて走り回っているオイラとモンスターランクが違うね。
カッコイイ!
オイラ、フィールドを走り回って冒険者が落としたアイテム拾いながら考えたね。
これって、もしかして冒険者が言う『運営』とかいう名前の神様がオイラ達が不眠不休なのを哀れんで休息させてくれてるんじゃね?って。
手持ちのアイテムが変更されるのも、休眠前に頑張ったモンスターにご褒美持たせてくれてるんじゃね?って。ご近所モンスターの中では花形のオークメイジさんがたまに強い魔法の武器とか回復薬とか持って目覚めてるんだよね。それって、たくさん冒険者を倒したご褒美だったりしない?
そう思うとさ、オイラは生まれた時からフィールドを駆け回ってアイテムを拾うだけの生活なわけよ。何で拾うのかって言われても本能だよ、とにかく拾いたいのよ。多分だけど、冒険者が『床にモノ落ちすぎてて重い』とか言うことがあるらしいから『運営』様が床掃除する仕事をオイラに与えてくれたんじゃないかな?そして拾い集めたアイテムは休息時に奉納されてるんじゃないかな!
つまり!つまりですよ?
もっともっと真面目にアイテム拾いを頑張ればオイラにもご褒美が貰える日がくるんじゃない?
そんなわけで毎日毎日休まずに走り続けてるんだ。
あ、さっきの冒険者のパーティー全滅してる。
何でか知らないけど、冒険者も倒されるとアイテム落とすんだよね。
早速拾ってこよーっと。