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リュオットの十年計画

作者: 美雨


アザルス国の光と闇。

それは双子の王子を称するものだ。

光を連想させる美しい金の髪と海のような青い瞳の兄、ディオット。

闇を連想させる艶やかな黒髪と炎のような赤い瞳の弟、リュオット。

顔付きはそっくりだが、異なる髪色と瞳の色を持つ二人は物心ついた頃から全く違う環境で育てられることになる。

国王は己と良く似た容姿のディオットを側に置いて可愛がり、王妃も同じ理由でリュオットに愛情を注いだ。

女好きで有名な国王には既に側妃が三人おり、それぞれ一人ずつ子どもを産んだ。

双子より三つ上の王女メリアルと二つ下の王女カナリアを産んだ側妃達は王妃と仲が良く、無駄な争いを避けるため、男児より女児を望んでいた。

しかし、五つ下の王子ジュオットを産んだ側妃イザレアは国王を深く愛していたため、男児を強く望み、王妃の座を奪おうと企てる。

国王はそれを知りながら女性同士の問題に口を出すのは良くないと放置し、数年の月日が流れてしまった。

そして、七歳となったディオットはある日突然、国王に婚約者を紹介される。王妃の故郷である隣国、ラルクベルから来たシェリル王女だ。早速声をかけたが、アザルス国の言葉がまだ分からない幼いシェリルに通じるはずもなく、ディオットはそれを知った途端に興味をなくし、次第に声をかけることもなくなってしまった。

一人ぼっちで言葉も文化も違う国にやって来たシェリルを王妃はとても気にかけ、リュオットに度々様子を見に行かせたが部屋にこもったまま出てこない。


「王女とはいえ所詮ただの子供。隣国について知るいい機会だと思ったが訪ねるだけ時間の無駄だったか」


シェリルが居るであろう扉の前で、痺れを切らしたリュオットは心底つまらなそうに呟いた。その言葉がシェリルの耳に届いているとも知らずに。


しばらくしてリュオットは真っ赤な薔薇が咲き誇る庭を一人で歩くシェリルを見掛けた。

後ろには本来、控えるべきの侍女がおらず、護衛が離れた場所に立っているだけ。これはどういう事だと護衛に問い詰めると、言葉を完璧に覚えるまで一人でいると言って誰も近付けようとしないそうだ。

リュオットはてっきりめそめそと泣いてばかりいるのだと思っていた。

周囲からは単なる子どもの我儘のように捉えられているが、良く考えれば賢い選択だ。

アザルス国の言葉も、作法もまだ身に付けていない真っ白な状態のお姫様にイザレア派が取り入ろうとしたり、我が子を次期王妃にと考えている貴族は暗殺を仕掛けたりするだろう。

実際、シェリルに宛がわれた侍女はイザレアからプレゼントとして贈られた者達であり、側につければあっという間に取り入られるに違いない。

さらに良く聞けば、護衛は自ら離宮の騎士団基地に赴き、身分や階級を無視し、側で使えそうな者を厳選してきたらしい。

身分や階級にばらつきがあるのは嫌がらせかと思っていたリュオットは感心した。


「ごきげんよう。リュオット殿下。とても綺麗なお庭ですね。わたし、とっても気に入ったので毎日ここをお散歩してますの。ひとついいかしら? 部屋にこもっていたのはお勉強していたからなのに。言葉が理解できないと思って、あんなこと言われて悔しかったわ!」


視線に気づいたシェリルは早足で近づき、アザルス国の言葉で挨拶もそこそこに言いたいことだけ告げると去っていった。

リュオットの付き人は何て無礼な姫だと唖然としていたが、本人は全く気にしていない。むしろこの国を立て直すのに使える、と考えた。

無類の女好きの国王には数え切れないほどの愛人がいる。この頃、愛人達が国王の子どもを身籠ったと王宮に押し掛けてくることが増えた。以前は庶民の女だけだったが、近頃は貴族の子女までもやってくる始末。それでも国王は多額の税金を使い、夜な夜な女を買って遊びを繰り返している。

他国からの介入を防ぐためにアザルス国内から唯一、嫁いだイザレアが産んだジュオットこそが次期国王に相応しいと密かに革命を起こそうとしている者達の情報をリュオットは手に入れていた。

同時に兄であるデュオットが王家から出て行きたいと願っていることも知っていた。国王の影響で年齢関係なく女性から言い寄られ、時には襲われかけ、母からは国王に瓜二つだと冷たい目で見られ、当然、友達も出来ず、やっと婚約者が現れたと思ったら後継者争いに巻き込んではいけないと近付けず。七歳にして既に悲惨な人生を歩んできた。


幸い、ジュオットが幼すぎるため革命が起きるのは数十年後と予想される。それまでにイザレア派の貴族を徐々に排除し、国王の愛人問題を解決せねばならない。これまでに使われた多額の税金を取り戻すのには排除した貴族から回収すれば良いし、愛人問題は国王をさっさと隠居させ、田舎に閉じ込めれば問題ない。

そのためには、シェリルの活躍が必要だ。

もうすぐ三人は学園に入学する。

そこで何を学び、どんな人間に出会い、成長するかは分からない。

今のシェリルなら自分で努力をし、困難を乗り越えて行くだろう。

一方、デュオットは王家を出る手段を得るために動き始めようとしている。


「リュオット様は良いのですか? 学園に入学したら、多くのことが学べます。本来なら国のために必要な知識、人脈を得なければなりません。兄であり、王位継承権第一位を持つデュオット様はこの先、私利私欲のために知識を深め、いずれあなたに全てを押し付けて消えてしまいますよ」


三つ上のリュオットの護衛騎士クリスはデュオットを普段から自分勝手な子どもだと思っていた。

デュオットが王位継承権を放棄したがっていることが周囲に知られればイザレア派は黙っていない。早々に権利を剥奪され、新たに継承権第一位となったリュオットを狙いに来る。

クリスは心配なのだ。継承権第二位でありながら、全く王位に興味を示さないリュオットに今のところイザレア派から目立った危害は加えられていなかった。


「別に構わない。俺はこの国が好きだからな。兄上は国王の影響で少々自己中心的な考えがある。それでも、自分が逃げたいがためだけに王家を出たがっている訳ではない。きっと国の未来だって考えている」


「全く、この国の双子王子はいろんな意味で問題ですね。もう少し子どもらしくても良いのですよ。せっかく心配しているのに可愛いげのない」


「そう言うな。子どもらしく振る舞うのを許さなかったのは周りの大人だろ? それより! 兄上にはまだ継承権を持っていてもらわなければ困る。今後の話を兄上も交えてしようか」


リュオットはある計画を立てた。

学園を卒業するのは十年後だ。その間に下準備をし、全てを終わらせる。それから、願いを叶えよう。

アザルス国と兄上、そして自分の幸せのために。

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