山に帰っちゃった!!
山へと帰ることを決断した猪瀬秋菜は、最後の人間生活を営んでいた。
秋菜はちゃんと山へと帰ることができるのか……
ついに完結!!
町の葬式場。
おじいちゃんが亡くなってから早1週間。
数多くの親戚、関係者が集まり、私たちは式を開始しました。
私とおばあちゃんはいっしょに立ち、来訪者たちにお辞儀を繰り返しました。
「それでは、最後に親族代表、猪瀬秋菜様。一言お願いします。」
葬式場の司会者に私は呼ばれ、おじいちゃんの顔写真の下に行き、来訪者たちの方を向きました。
「本日は、お忙しいなか、こんなに多くの方々に集まって頂き、誠に感謝を申し上げます。私のおじいちゃんは、とても素晴らしい人間でした。皆様もそう思って頂くととてもうれしいです。……」
私は言葉が飛んでしまい、短い沈黙が生まれました。
「……実は、私は、おじいちゃん、猪瀬肇の、実の娘ではありません」
会場は少しどよめきました。
私は続けました。
「娘ではない私のことを、おじいちゃんは本当の娘のように育ててくれました。果てしない優しさ、愛を以て育ててくれました。そんなおじいちゃんがいなくなってしまうのは残念です。ですが、今はそれ以上に、育ててくれてありがとうという感謝の気持ちでいっぱいです」
私は後ろのおじいちゃんの顔写真を見ました。
式が終わると、おじいちゃんの遺体は火葬場に運ばれました。
「おじいちゃん、お世話になりました。ありがとうございました」
私はおじいちゃんに向かって、静かに言い、おじいちゃんの火葬を見届けました。
私は決して悲しい気持ちはありませんでした。
むしろ私は、私のために一生懸命だったおじいちゃんに対してうれしい気持ちでした。
どうか御ゆっくり、おやすみください……
すべての行事が終わり、私とおばあちゃんは来訪者たちの帰りを見送りました。
みんなが帰り、葬式場には私とおばあちゃんの二人きりになりました。
「今日はありがとうね秋菜ちゃん」
「ううん。当たり前だよ。おじいちゃんの葬式に参加できてうれしいよ」
「そう。よかったわ……」
「……おばあちゃん、私……」
「今日には行ってしまうんでしょ?」
「……うん……」
「わかったわ。私のことは心配しないでね」
「本当に大丈夫?おばあちゃん一人になっちゃうから……」
「私は一人ではないから大丈夫。だから心配しないで」
「おばあちゃん……」
「秋菜ちゃん……私はあなたのおばあちゃんになれたこと、本当にうれしかったわ。たとえ秋菜ちゃんが人間じゃなくても、本当にうれしかったわ」
「私もだよ。おばあちゃん。今まで……本当にありがとうございました」
私たちはお互い抱き合いました。
私はなんともありませんでしたが、おばあちゃんの身体は震えていて泣いているのがわかりました。
「秋菜ちゃん……こんなに大きくなったのね……」
「どうだろう……もう少し大きくなりたいんだけどね……」
「秋菜ちゃん……どうか……生きて……」
「私は大丈夫だよ。二人からもらった心で生きるから」
私たちは抱き合うのをやめて離れました。
「秋菜ちゃん……」
おばあちゃんは涙を拭き取り微笑みました。
「行ってらっしゃい」
「うん。本当にありがとうございました」
私はおばあちゃんに向かって一礼しました。
「行ってきます!!」
私はおばあちゃんに背を向けて式場を後にしました。
「……」
「行ってしまったね」
「ええ。秋菜ちゃんがいなくなると、やっぱり寂しいものね」
「可愛い孫にこそ旅をさせるものだよ。猪瀬さ……秋菜さんはきっと大丈夫だ」
「そうね……今まで一人にさせてしまってすまないね」
「僕は大丈夫だよ。やっと仕送り生活から解放されてうれしいよ……これからは僕があなたを支えるね」
「ええ。こんな老いぼれだけどよろしくね……旬」
「うん。さあ、僕らも帰ろう……」
「ごめん。おまたせ!!」
「秋菜ちゃん」
「おう来た来た!!」
私は、式場の外で待っていた優子ちゃんと咲希ちゃんのもとに行き、三人で帰りました。
「いやー親族の一言緊張したよー」
「でも良い一言でしたわ」
「ハハハ!!こっちまで緊張してもうたわ!!」
私たちはいつもの登校のように、いつもの明るい話題を話して歩いていました。
「そうそう、咲希ちゃん新人戦お疲れさま」
「へへへ。あと一歩でケンタイカイやったんだけどな~」
「きっと今度の大会は、もっとよくなりますわ」
「せやな。また一生懸命練習や!!」
「うん。きっと大丈夫だよ」
「そう言えば、この前三人でカラオケに行ったの楽しかったわー」
「そうですね。みんなで点数争いして楽しかったですわ」
「優子ちゃんの歌声綺麗だったなあ」
「そうですか?ありがとうございます」
「そうやなー。まあ秋菜は……」
「どうせ私は音痴ですよ……」
「秋菜ちゃんも高い声で可愛らしかったですわ」
「本当!?」
「ええ。小学生アイドルを生で観ているようでした」
「しょ……小学生……」
「ハハハ!!小学生やと!!年齢偽ってオーディション受けてみるか?」
「もー馬鹿にしないでよ!!」
私たちはそんなおもしろおかしい話をしながら、仲よく三人で歩いていました。
「はあ……着いた」
私たちはいつもの集合場所に着きました。
「着きましたわね」
「あっという間やったな」
私は少し前へ歩き、後ろを振り返り二人と顔を合わせました。
「優子ちゃん……咲希ちゃん……」
「ほんまに行ってしまうんやな」
「秋菜ちゃん……」
「うん。二人には、感謝しきれないほど感謝してるよ。二人は、最高の友だちだよ」
「へへ……何言うてんねん……照れ臭いわ」
「私も、秋菜ちゃんと過ごした日々は宝物だよ」
「ありがとう……」
私は優子ちゃんを見ました。
「秋菜ちゃん……私たちはずっと親友だよ……元気でね」
「優子ちゃん……ありがとう。優子ちゃんも生徒会長がんばってね」
「うん。ありがとう」
私は咲希ちゃんを見ました。
「咲希ちゃん……」
「なんやねん……サヨナラなんて言わへんからな……秋菜はウチの幼馴染みや……元気でな」
「うん。ありがとう」
私は一歩下がり二人の顔を見ました。
「二人は私の永遠の友だちだよ。本当にありがとう……じゃあ……行ってきます」
私は二人に最後の挨拶をしてその場を去りました。
「行ってもうたな……」
「はい……また会えるでしょうか……」
「そうやなぁ……会えると思うで」
「え?どうしてですか?」
「うちらは心で繋がってるから!!それだけや……」
「咲希さん……」
「なあ優子!!この前の数学が全くわからんのや……ウチに教えてくれへんか?」
「うん!!わかりましたわ……咲希ちゃん」
「よっしゃー!!じゃあ優子の家に直行や!!」
「あっ!!待ってください!!咲希ちゃん!!」
私は一人歩いていました。この静かな町を歩いていました。
この町は皆さんで言うド田舎って感じです。辺りは田んぼだらけ。電線にはいつも小鳥がたくさん日向ぼっこ。あれ?タヌキさんだ!山から下りてきたのかな?
とまあこんな感じです。
そんななか、私は山へと向かってました。
「お待たせコノハ!!」
「姉さん」
コノハは道中で人間の姿で待っていました。
「もう心残りはない?」
「うん。大丈夫。行こう」
私たちは二人寄り添って山へと向かいました。
この短い間で、私の人生は大きく変わりました。
悲しいことはありましたが、それ以上に人や動物たちの愛に触れることができました。
愛というものは形はありませんが、愛は、生きとし生けるすべての生き物にとって同じものです。
愛は私たちを喜ばせ、時には悲しませますが、愛は私たちを大人へと導いてくれます。
そんな沢山の愛に包まれていて幸せでした。
「コノハ!!」
「なに?」
「ありがとう」
「いきなりどうしたの?」
「言ってみただけ……せっかくだからきつねになろっか。そっちの方が早く着くでしょ」
「姉さん……うん。わかった」
シャリン
「「ドロン!!」」
私たちはきつねに変身しました。
そして、私たちは確かな愛を抱きながら、猪瀬肇が命懸けで護った山へと帰りました。
皆様。最後までありがとうございました。
人間愛、動物愛をメインに描きましたがいかがだったでしょうか?
愛とは、心を宿しており、季節のように変化するものです。それは人間でも動物でも同じなんです。
私たちは愛を中心に感情が生まれます。皆様も愛を意識しながら生きてください。
ありがとうございました。