あの人が来ちゃった!!
みなさんこんにちは。2月も相変わらず一人の田村です。
さて、今回はイロハ(秋菜)とコノハの生活をメインに書きました。また最後にはあの人も登場です。
今回もよろしくお願いします。
9月の静かな闇夜に包まれた山のなか、空からは多くの雫が降り注いでいました。
その雨のなか、私たちは闇夜よりも暗い表情で立ち止まっていました。
「……姉さん……」
「……」
辺りは雨が地面を叩きつける音のみが響いていました。
「……コノハ……ありがとう……おかげで思い出せたよ……」
「姉さん……」
私はコノハとは目を会わせず、実の母と父が埋められた地面を見ながら言いました。
「そう……私は二人の怨みをはらすために……人間になったんだ……」
「ごめん姉さん……正直言おうか迷っていたんだ……知らないほうが、姉さんにとって幸せなのかなって思ってさ……」
「コノハは悪くないよ……むしろスッキリしたし……イノセって……そうだよね……」
私は記憶から思い出したイノセという言葉が頭に浮かびました。
「イノセ……猪瀬……二人を殺したのは……あの人だった……」
私は、あのとき見た、イノセと呼ばれていた男と、人間のとき、おじいちゃんと呼んでいた老人を合わせて考えました。
「イノセは……おじいちゃんだったんだ……」
「姉さん……」
「私はあの人を殺そうとしていた……いや、しているんだよね……ねぇコノハ……」
「なに……姉さっ!?」
コノハは、私の顔を見て驚いた表情をしていました。そのとき私はコノハの目を見ていました。
「わたし……どんな顔……してる?」
コノハは、雨が私の身体から流れているのにそれがはっきり涙であることがわかりました。
「姉さん……素直に悲しい顔をしてる……復讐心なんか全く感じない、運命に迫られたときの悲しい顔……」
「コノ……ハ……」
私はコノハに抱きつきました。そしてコノハの抱きしめられながら泣きました。
「私……どうしたら……いいのぉ!?なんでこんな思いを……しなきゃいけないのぉ!?」
「姉さん……」
私は、雨粒よりも大きな涙を流し続けました。
「グスッ……グスッ……」
気づいたときには雨は止んでおり、私も次第に落ち着きを取り戻していました。
「姉さん……大丈夫?」
「うん……ありがとうコノハ」
コノハは抱きしめていた腕をほどきました。
「ねぇコノハ……今日ここに泊まっていい?」
「姉さん……うん、もちろんだよ」
ドロン!!
私は人間からきつねに変身しました。
「こっちに洞穴があるから、そこで眠るといいよ」
「うん、ありがとう」
私はきつねの姿で横になりました。
懐かしい……
草の匂い、雨で濡れた土の匂い、風の心地よさ。
私はこの地を改めて感じ、懐かしさを感じていました。
私は一体どうすればいいんだろう……
ピヨピヨ
小鳥の鳴き声が聞こえてきました。
「う……うう……」
私は目が覚めて、洞穴から出ました。
「あっ!おはよう姉さん」
きつねの状態でコノハが先に洞穴の外にいました。
「おはよう……まだ眠い……」
「寝過ぎてるから怠さを感じてるんだよ」
私たちは何の変鉄もない日常会話をしていました。
グルル
「コノハ……おなかすいた……」
「言うと思ったよ。朝食採ってきたよ」
コノハは私を朝食の置いてあるところに連れていきました。
「えっ?これなの!?」
私は、見たこともない小さな木の実と僅かな山菜を見ました。
「うん!!姉さんのために朝からたくさん採ってきたんだ!!」
「これで……たくさん……ですか……」
「どうしたの姉さん?」
「ごはんとか玉子焼きとかじゃないの?」
「姉さん……僕らはきつねだよ」
「うう……」
私はかえって食欲を失いました。
「私……要らない……」
「まあ人間の舌だと美味しくないかもね……でも僕はこれ大好きだよ。それに姉さんもよく食べてたよ」
「ホントに~?」
私は全く信じられませんでした。
「もう姉さんってば……じゃあ僕は食べるよ。いただきます」
コノハは小さな木の実を食べ始めました。
「おいしい~。苦労して採った甲斐があったな~」
コノハはとても美味しそうに食べていました。
グルル
また私のお腹の虫が鳴りました。
「姉さん食べようよ。ホントにおいしいからさ」
「うう……わかった……」
私はあまり気がのりませんでしたが、コノハの前にいき食べました。
「いただきます……」
私はコノハが食べていた木の実を口に入れました。
「……ん?なにこれ!?おいしい~」
「でしょ!?この甘酸っぱい味がいいんだよね」
「すごいコノハ!!めっちゃおいしいよ!!」
私はどんどん食べました。
「ん~サイコー!!」
「姉さん!」
コノハは私に山菜を差し出しました。
「ちゃんと野菜も食べなきゃだめだよ」
「えー……私はこれだけでいい!!」
「だーめ!!でないと木の実取り上げるよ」
「そ、そんな……」
私は差し出された山菜を渋々食べました。
「……やっぱり野菜は野菜なんだね……」
「身体にいいんだから、ちゃんと食べるんだよ」
「ほーい……」
私たちは食事を終えました。
「ふぅ。おいしかった。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。姉さんが気に入ってくれてよかったよ」
コノハはうれしそうにニッコリ笑ってました。
「ねぇコノハ!!遊びにいこう!!」
「えっ?」
「私、コノハと遊びたい!!」
私はコノハにお願いしました。
「……うれしいな。こんなの十年ぶりだ。わかった。じゃあ今日は川に行こう!!」
「うん!!」
私たちは立ち上がり、昨日水を飲んだ川へと向かいました。
その道中、たくさんの自然に触れました。
わ~かわいい!!
木の上で子どもたちにエサを与える小鳥の家族。
わ~すごい!!
木から木へとどんどん飛び移る野生の猿。
わ~でかい!!
森のなかをゆっくり歩く大きな熊。
ギャー!!
ムカデ。
私たちは目的地に着き、そこでは、コノハが泳ぎ方から、魚の捕り方までよく教えてくれました。
「ふぅ……楽しい……」
「うん」
私たちは川の側で横たわりながら言いました。
太陽の木漏れ日がとてもきれいで、体力も心も癒されていました。
「コノハ……ありがとう」
「いきなりどうしたの?」
「私にいろいろなこと教えてくてありがとう。おかげで今幸せだよ」
「姉さん……うれしい」
「……私さ、このままここで暮らそうと思うんだ」
「姉さん……」
「ずっと迷っていたんだけど、コノハといることがとても幸せなの。それに私はコノハの姉。まだコノハが心配だしね」
「姉さん……人間に別れは告げなくていいの?」
「……正直迷ってる。いっそのことみんなのこと忘れたいんだけどね……あまり会いたくもないし……」
「姉さん……」
辺りはどんどん暗くなり、もうすぐ夜が訪れようとしていました。
「じゃあ姉さん、僕らの家に帰るよ」
「りょーかい!!」
私たちは家に帰ろうとしたときでした。
ブルルン
「なに?この音……」
私は山の麓から機械音が聞こえてきました。
「ウソ……人間?こんな時間に来るなんて初めてだ!!」
コノハは心配した表情をしていました。
「私見てくる!!」
「姉さん……僕も行くよ!!」
私たちは音が鳴る麓の方へ向かいました。
「見えた……あれは……車?」
私の目には人間が乗る車が映りました。白色の車でしたが、横に『国立病院』と書いてありました。
「あの車……」
「姉さん、人間が出てくる!!隠れて!!」
私たちは草むらの中に身を潜めました。
ガチャ
車の後ろのドアがあき、中から人間が出てきました。
「あれ!?おばあちゃん!?」
「他にも出てくる……」
次に運転席のドアから出てきました。
見たこともない男の人でしたが、お医者さんのように白衣を纏ってました。
「誰だろう……お医者さんかな?でもなんで?」
「もう一人出てくる……」
その白衣の男は助手席のドアの側に車イスを置きました。そしてドアをあけてまた一人出てきました。出てきた男はまともに歩けないようで、すぐに車イスに移りました。
「ウソ……おじいちゃん!?」
車イスに座った男はおじいちゃんだと確認しました。
「なんで?どうして車イスになってるの?」
すると、おじいちゃんは一人で車イスを動かしました。そしてこちらを向きました。
「秋菜!!いるか!?」
おじいちゃんの太く大きな声が山の中まで響き渡りました。
「秋菜!!いるか!?いるなら聞いてほしいことがあるんだ!!頼む!!もう一度!!もう一度だけでいい!!ゲホゲホ……」
「猪瀬さん、無理をしないでください」
白衣の男はおじいちゃんに言いましたが、おじいちゃんは無視して続けました。
「頼む!!もう一度!!お前と話したいんだ!!」
「おじいさん……」
後ろに立っていたおばあちゃんは何故か泣いてました。
すると、その三人は車の中に戻りました。車も音を鳴らし私たちの視界から消えました。
「あれ……おじいちゃんとおばあちゃんだった……秋菜は、私が人間だったときの名前……」
「姉さんはイロハ姉さんだよ」
「うん……わかってるけど……」
なぜ二人がここに来たのか?
なぜ私に会いたがっていたのか?
そしてどうして白衣の男といっしょだったのか?
私に多くの謎が迫りました。
「帰ろう姉さん……」
「うん……」
私たちは再び暗い闇夜に包まれた山のなかに帰りました。
「頼む!!もう一度お前と話したいんだ!!」
帰りの道中、私の頭におじいちゃんの言葉が何度も再生されてました。
「姉さん大丈夫?顔色あまり良くないよ」
「大丈夫……大丈夫だから……」
「姉さん……人間の元に帰るの?」
「いや、そんなことじゃないよ。ただ、色々気になることがあってね」
話をしているうちに、私たちは家に着きました。
「……」
ただ私は沈黙していました。
「姉さん……」
「ごめんね……コノハ……」
「えっ?」
「私は優柔不断なんだ。ここで暮らそうと思ってるのに……思ってるのに……」
私は泣いてました。
「思ってるのに……なんでこんなにおじいちゃんのことが気になってるんだろう……」
「姉さんは、やっぱり姉さんだ。昔と変わらないね」
「え?」
「姉さんは昔から、気になることがあったら最後まで追及してたんだよ」
「……」
「行ってきなよ。姉さん」
「コノハ……」
「ずっとそんな顔されていちゃ、僕も嫌だよ」
「……」
「どうしたの?」
「怖いの……」
「え?」
「私は、おじいちゃんたちを殺そうとしてたんだよね……また人間になっておじいちゃんに会ったら……ホントに殺してしまうんじゃないかなって……そのとき私は人殺しになってるんじゃないかなって……そう思うと怖くて……」
「姉さんなら大丈夫だよ。だって、姉さんは優しいから」
「コノハ……」
「それに、姉さんに何かあったら僕が助ける!!姉さんのために生きるのが僕だからね。姉さんならきっと大丈夫だよ」
「コノハ……ありがとう。明日の朝に山を出るね」
「うん……わかった」
コノハは、表面は優しさに満ちた顔でしたが、その奥には何か寂しさを感じるような顔をしていました。
私たちは静かな夜のなか横になって眠ろうとしました。
隣にはコノハが横になっていました。
私は明日のことを考えてました。そのおかげで私はなかなか眠れずにいました。
「姉……さん……」
私はコノハの顔を見ました。
「なんだ。寝言か……」
コノハはすやすやと眠っていました。
「行か……ないで……」
私は再びコノハの顔を見ました。すると、今にも泣き出しそうな悲しい表情をしていました。
「コノハ……私は必ず帰ってくるよ」
私は眠っているコノハにささやきました。
「おやすみ……コノハ……」
ピヨピヨ
静かな山に朝が来ました。
私は起きて、猪瀬秋菜の状態で出かけるところでした。
コノハも人間の姿になり、私の出発を見てました。
「じゃあコノハ!!行ってくるね!!」
「姉さん……」
「行ってきます!!」
私は前を向き歩き出しました。
「姉さん!!」
コノハは、今までに聞いたことがないほど大きな声で言いました。
「コノハ?」
私は振り返ると、コノハが泣いているのがわかりました。
「ごめん……怖いのは僕もなんだ……また十年前みたいに帰って来なくなるんじゃないかなって思うと……」
「コノハ……」
「ホントなら行ってらっしゃいって言わなきゃいけないのに……言えない……」
私はコノハの元に行き、コノハを優しく抱きました。
「姉さん……グズッ……」
「コノハ……アンタも昔と変わらないよね。誰よりも優しいコノハ……私は知ってる」
「グズッ……姉さん……」
「大丈夫。もうアンタを一人にはしない。絶対に一人にしないから……」
「絶対だよ……」
「うん。絶対」
私はコノハを解放し、再び前を向き歩き出しました。
「行ってきます!!」
「……行ってらっしゃい……行ってらっしゃい!!」
コノハは大きな声で言いました。
私は安心してコノハに背を向けて、山道を降りました。
今回もありがとうございました。
一体秋菜はどっちを選ぶのでしょうか?
そしておじいちゃんの身に一体なにがあったのか?
また謎を増やしてしまいましたが、どうか考えてみます。
次回は久しぶりに人間のキャラが出てくる予定です。
それでは、また次回もよろしくお願いします。
うードロン!!