肉食女子と僧職系男子
「ふう、そのようなものばかり食べてはいけない、とは言いませんがもう少し……」
「なんだ、あんたも食いたいのか? どう見ても余るから食っても構わないけど?」
「ありがたい心遣いですが遠慮させて頂きます。ですがこのように散らかすのは良く有りません。命を頂いている以上もう少し敬意を持って」
「こいつがあたしを組み敷こうとしたのが悪いんだよ。あ、脳みそ飲む?」
「心遣いだけで結構です。召し上がらない分はありますか?」
「あー内臓とかは臭いがきつすぎるし味も悪いから食わないよ」
「でしたら私が略式では有りますが葬送させて頂きます。正直問答無用で金銭目的で襲い掛かってきたので気は進みませんが、死なば皆平等に神の元へ送らねばなりませんので」
「あーこいつは食えないや。薬やってるみたいだしあたしもイカレちゃうから」
「そうですか。でしたらもう少しかき集めて頂けませんか? 右足と腰しか残ってませんので」
「その辺の木の枝とかに引っかかってるからあんたが取ってきなよ。あたしは食いもしない死体は集めたくはないし」
「あなたが足を持って振り回したりするからあたり一面に飛び散っているのですが」
「あんたを守りながら全滅させるには武器を手にする必要があったんだよ」
「命を救われている手前余り言いたくありませんが命を粗末に扱うのは」
「生きてるうちにやつらに聞かせてやればよかったじゃん。あたしが人を殺すのは危険が迫ったときだけ。殺した後も可能な限り命を頂くようにしてんだから文句言うな」
「はあ。相変わらずですね。ですが生きるために命を頂くのを神がお許しになっている以上あなたにはこれ以上文句は言えませんね」
「あんたは神に仕えてるからなのか難しく考えすぎてるんじゃないのか?」
「私も出来るだけシンプルに考えるようにしているのですが」
「いやいや、あんた前の町であたしをかばって異端者扱いされたじゃん」
「あなたは神の意志に背いた行いはしておりませんので」
「あたしは人殺しとか人食いをしてたらさすがに街に入れなくなるのは覚悟してたんだけど」
「それは神の意志を理解しきれない人のエゴによるものです」
「そのあたしはいつもどおり街を出たのに、かばった結果あんたは異端者として追放じゃん」
「神は食事として命を頂くこと、己の命を守るために命を奪うことはお許しになっております。故にあなたは一切神の意志にそむいておりません。死刑なんてものを行う者よりあなたのほうが神の意志に忠実です」
「あたしは神なんて信じてないけど」
「それであってもあなたは神の意志に従っております」
「もういいや。それよりさすがにもう食いきれない。食える人を一口ずつ食って後は任せる」
「分かりました。あ、金品の回収をお願いします。彼らを葬送した以上、残しておく理由は有りませんので」
「……本当にあんたの信じてる神はいい教えしてるよ」
「神は葬送された者の持ちものに関しては特に言葉を残しておりませんので私が使おうと何の問題もありません」
「……あんた本当に街で一番まじめな僧侶だったのか?」
「私なぞまだまだ若輩者。ただ神の教え全てを忠実に執行し、教えを広めて生きているに過ぎません」
「ま、いっか。しばらくは一緒に行こうよ。あんたといると色々面白い話しも聞けそうだし」
「神を信じていないあなたにも神の教えを説かねばなりませんのでそれは私も望むところです」
「……やっちまった」
「葬送も終わりますので済んだら出発しましょう」
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