remarkable
太陽が少しずつ沈み、オレンジ色に染まる世界。私と彼しか知らない景色。
「チャオ」
「ラルム! 来てくれたのね!」
「当たり前だろ」
夕凪状態の海辺で鼻歌を歌う私に、後ろから小声で声をかけたのは、待ち合わせをしていたラルムだった。ふぅ、と小さく息をもらして、私の隣に腰掛ける祖国の王子さま。いつものように古びた布で姿を隠し、裸足で駆けてきた。今日も煤まみれの足が愛おしい。また、石畳の床にお決まりの三角座りをするのも愛おしい。ふふっと小さく笑うと、彼は眉をひそめて私を軽く睨んだ。
私と彼と夕方の海辺。隠れて会わなければいけないこの関係。貧しい私と正反対で国の王子さまの彼。「完璧」といえるロマンチックでドラマティックな運命に、私はいつも神さまの愛を感じる。
祖国の王子さまは小さくて可愛くて、そんなラルムが私は大好き。ラルムもきっとそう。だけど王子さまが、貧乏な下町の娘一人と親しく会うことなんてまず許されない。麻の服を毎日着て、煤と埃で汚れた顔をした私と。それでもラルムは私と会うために、古びた布で姿を隠し、煤で足を汚し、警備が甘い夕方にこうやってお城から駆けてきてくれるのだ。私のために。警備に捕まらずに、海岸まで着いた後のラルムの緊張から緩む表情が、たまらなく愛おしくて、抱きしめたくなる。人とすれ違うたび、道を変えて、一通りのない道を夢中で駆けてくる、私のもとに一直線に駆けてくる彼の姿を浮かべるだけで、幸せで胸がいっぱいになる。
――………………!
ふわふわした私の夢が壊れた音がした。大好きな彼の語る言葉、大好きな彼の話す声で軋んで、ぼろぼろ壊れていく音。私から聞こえてくる、服を縫っている時に失敗した時の痛み。ちくっと刺さってズキズキと継続して痛いこの心。ラルムはにっこり笑った。私の大好きな無邪気な笑顔で。私はひきつる顔を何とか普通の表情に戻し聞き返した。
「な、なんて言ったの?」
「チャオ、俺さ、もう隠れてお前に会いにこなくてもいいんだ。お前を城に招待してもいいって許しがもらえたんだ。今から行こう!」
神は私を裏切った――――
これはチャオっていう女の子の、女の子特有の独占欲を表現しました。
まだ小さいのに独占欲の塊ですよね。
女の子は、私のためにみすぼらしい格好で、裸足のまま待ち合わせ場所まで駆けてくる、「彼」が好きなんですよね。
きっと彼女は彼が好きという気持ちよりも、私のため尽くしてくれる「彼」が好き。
彼、ラルムは小さな王子さまですけど、優しい男の子で、チャオが純粋に好きなんだと思います。
でも、視点を変えると、彼もまた、チャオが自分と遊んでくれる唯一の友達だったりしたとしたら、その理由だけで好きなのかもしれません。
子供だって必ずしもみんな純粋な気持ちをもっているわけではないんですから。




