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4歳のパチンコ狂

作者: 辛井 蛙

「パチンコ・パチスロ エッセーコンクール」落選作品です。

 私には4歳になる息子がいる。遊びたい盛りで、ショッピングセンターに買い物に行ったときにゲームコーナーでも見つけようものならもうダメだ。もう永遠に帰ろうとしない。スマートボールのようなゲームとか、コイン入れたら動く乗り物とか、ガチャガチャとか少しやらせて1,000円くらい使って帰るのだが、帰るときにはギャーギャー泣き叫ぶのを抱えて無理矢理連れ帰るのがパターンになっている。

 ある日、息子をつれてふらりとリサイクルショップに寄った。家具や電化製品が破格の値段で売られている。息子の目当てのおもちゃ類もある。中古であることさえ気にしなければ十分に使えるので、時々行っては掘り出し物を探すのである。

 そこに、中古のパチンコ台が何台か並んでいた。こんなもんまで売ってるのか、と感心しつつ眺めていると、その中に「FEVER X JAPAN 紅」があるのを見つけた。ほかの台はみな2千円程度で売られているのに、この台だけはその10倍の2万円ほどで売られている。やっぱり人気あるんだなX JAPAN。

 私はX JAPANが好きで、関西からわざわざ東京ドームまでライブを見に行ったこともある。普段パチンコはしないのだが、X JAPANの曲が流れたり、ボーカルのTOSHIが「紅だ!」と叫んだりするというこの台だけは何回かやってみたことがある。勝つとか負けるとか関係なく、単にX JAPANの曲を聴き、映像を眺め、TOSHIのシャウトを聞きたかったのだ。もちろん素人だし、すぐに玉がなくなって終わってしまうのだが。

 売られているパチンコ台にはちゃんと電源が通っていて、「FEVER X JAPAN 紅」も、YOSHIKIの映像を流し、「FOREVER LOVE」を奏でていた。懐かしく見とれていると、そこに4歳の息子が走ってきた。ゲームコーナーが大好きな息子のことだ。パチンコ台が並んでいるのを見つけ目を輝かせた。そして、明らかに父親が他の台とは比べものにならない興味を示しているのを感じたのか、寸分の迷いもなく「FEVER X JAPAN 紅」を選び、その前に座り込んでハンドルを回した。ちゃんと玉も出るように設定されていたようだ。私はしばし、息子といっしょに、「FEVER X JAPAN 紅」を楽しんだ。

 しかしそこは私と同様素人、しかも子供だ。すぐに玉はなくなった。続けるにはメダルか何か入れなければならないのだろうが、これは売り物であり客に遊ばせるためのものではないのでメダルの販売機などあるはずがない。しかし息子はそんなことを知る由もなく、ここをショッピングセンターか何かのゲームコーナーと思っているので、いつものようにお金ちょうだい、とねだり出す。これは売り物で遊ぶ場所じゃないんだからお金入れても遊べないよ、と説得しているうちに、泣きべそをかいて「お金ちょうだい!お金ちょうだい!」と大声で叫び始めた。

 4歳の子供がパチンコ台の前で金をくれと泣き叫んでいる。実に異様な光景ではないか。戸棚の中のなけなしの金をひっつかみ、追いすがる妻を張り倒してパチンコ屋に向かうパチンコ依存症のクズ男の姿が脳裏に浮かんだ。こいつ、まさか将来そんな大人になるんじゃないだろうな。

 しかし、息子は別にギャンブルにはまっているわけではない。玉を打って遊ぶこと、それに応じて映像が変わり音楽が鳴ったりするのが楽しいだけだ。私が勝ち負け関係なくX JAPANの曲を聴き、映像を鑑賞したいのと同じように。パチンコにも、ギャンブルとは関係ない、極めて健全な楽しみ方があるのだ。

 それならば、ここで売られている中古のパチンコ台を買って帰って、勝ち負け関係なく思う存分打ったらいいじゃないか、とも思った。しかし、「FEVER X JAPAN 紅」は2万円ほどもする。他の台は2千円ほどだが、私も、おそらく息子も、他の台には興味がないようだ。もしこの台がほかの台と同様に2千円くらいで売っていたら間違いなく買っていただろうが、2万円というのは単なる「おもちゃ」としてはあまりにも高すぎる。

 いや、高い金払って買って帰っても、家で徹底的に練習して、勝てる技術を身につけた上で店に行ったら、そんな投資なんてすぐ回収できるのではないか。なんてことを考えたとき、単にX JAPANが聞きたいだけ、なんてうそぶいている自分でさえ、やはりパチンコにまつわる「ギャンブル思考」にどっぷり浸かりきっていることに気がついた。金勘定関係なく純粋に遊び、楽しむコドモの心には、もう二度と戻れないのだろうな。泣き叫ぶ息子をパチンコ台の前から引きはがしながら、ふと思った。

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